2-6 知ってたんなら、教えてくれよ~
無事光りゴケの採集スポットに到着したオレたちは、それぞれペアになってせっせとコケを集めていた。
オレはリアとならんで、いっしょにしゃがみこんでコケ取り器を片手に地面や岩壁をガリガリひっかいていた。
「リア、お前少しは加減ってモンを考えろよ……」
そう言いながら、オレはあっちがわでコケを探すステラとベティちゃんの方へと目をやる。
またカツラをかぶったベティちゃんのほっぺは、いまだに赤くはれている。あれだけのビンタをもらって、よく歯が折れたり鼓膜が破れたりしなかったもんだぜ……。
「だ、だって、手を抜いたら罰にならないじゃない? それだとベティも引きずっちゃうだろうし、しかたないじゃん」
「だからって、身体がぶっ飛ぶほどぶっ叩くヤツがいると思うか? フツー」
「だ、だからしょうがないじゃん、好きでやってるわけじゃないし」
いや、でもあの時お前結構スカッとしたって顔してたぞ?
「それよりもさ、私ステラのあれの方がコワいんだけど」
「ああ、実はオレも」
ステラ、個別説教って何をするつもりなんだろ。わざわざオレたちを呼ばずに説教ってのがコワすぎる……。
「ステラ、たまにスゲーコワいもんな」
「ベティ、無事だといいんだけど……」
今こうして見ていても、なんかちょっとビビってる感があるもんな、ベティちゃん。
「でも、まさかベティがあのお嬢様だとはねー」
「お前、顔見てわからなかったのかよ」
「そういうルイはどうなのさ」
「いや、なんとなく似てるかなーって気はしてたけど、まさか本人だとは思わないだろフツー」
「だよねー、他人の空似だと思うよねー。てゆーか、まさか変装してうちのパーティーに入るとか夢にも思わないじゃん」
「たしかに」
てか、ホントなんだってエラい貴族が冒険者やろうと思ったのかね。オレならずっとウマいもん食って家から出ないけどなー。
「それよりさー、全然見つからないよ、光りゴケ。このもそもそしたコケの奥にちびっとしかないんだもん、これじゃいつ終わるかわかんないよ」
「はえてるあたりはぼんやり明るくなってるのがせめてもの救いだな」
ホントチビチビとしか見つかんないんだよなあ、光りゴケ。小指の先くらいしかはえてないのはつらいよ、さすがに。
「ま、がんばって集めるしかないだろ。ここで全部集め切れればいいんだけどな」
「さんせー、私ももうこのダンジョン歩き回りたくなーい。なんかすべるし、カビくさいし」
「そんじゃ、ちゃっちゃと集めるか」
とかなんとか言いながら、オレたちは手を動かした。
まあ、なんだかんだで光りゴケも集め終え、無事にギルドまで戻ってきた。
受付では、アンジェラがオレたちに手を振ってくれる。
「おつかれさま。さすがに時間がかかったみたいね」
「ホントだよー、すっごいチビチビとしかはえてないんだもん」
「オレもさすがに、ちぃーとばかり腰が痛いぜ」
オレたちがそんなことをボヤいていると、ベティちゃんが声を落としてアンジェラに言う。
「あの、わたし……皆さんにお話しました、わたしの正体」
「あら、そうだったの。よかったわね、ようやく言えて」
アンジェラはにっこりと笑うと、全然気にしてない様子でさらりと流す。
「え!? アンジェラ、ベティのこと知ってたの?」
リアが驚いた顔でアンジェラに聞く。
そりゃそうでしょう、という顔でアンジェラがうなずいた。
「私が知ってないといろいろ面倒でしょう。というより、私が上から頼まれていろいろと準備したのよ」
「そ、そうだったのか」
なんだよ、も~。だったらもったいぶらずにすぐ教えてくれよー。
リアも同じことを思ったらしく、アンジェラにぶーたれる。
「ちょっとー、だったらもっと早くに教えてよー。さっきはいきなりベティのカツラ取れてすっごいびっくりしたんだからー」
「あらあら、それはごめんなさいね。でも、いずれは彼女が自分から正体を明かすというのも、私から提示した条件の一つだったのよ」
「へえ、そうなんだ」
なんか知らないところでいろいろあったんだな。
アンジェラがベティちゃんの頭を見つめながら、うんうんとうなずく。
「それは今まで通りかぶっていた方がいいでしょうね。あなたは大会などにもよく参加しているから、それなしだとわかる人にはわかっちゃうでしょうし」
「はい」
それから、アンジェラはオレたちの方に向かって言った。
「そんなわけで、これからもなかよくしてあげてくれるとうれしいんだけど、いいかしら?」
「ああ、そりゃもちろん。さっききっちりあやまってもらったしな」
「私も私も~。てゆーか、今さらベティに抜けられると戦力ガタ落ちだしね~」
「私ももちろんそのつもりです。ただし、その前に今度ゆっくりとお話させてもらいますけど」
最後のステラの言葉に、ベティちゃんだけでなくオレたち、そしてアンジェラまでもがぶるっと身を震わせる。ホ、ホント大丈夫かな、ベティちゃん……。
「ま、まあ、パーティーのことはあなたたちにまかせるわ。それじゃ、今日はおつかれさま」
そういうと、アンジェラはてきぱきと光りゴケやレベルのチェックを終わらせた。さすがの手際だな。
ギルドから出ると、オレたちはベティちゃんと別れて家へと帰った。いやー、なんか今日はいろいろあったなあ。ま、いろいろとナゾもとけたことだし、これからはさらに前進できそうだぜ!




