1-5 じいさんの扱い、どうしよう……?
そんなこんなで、伝説の聖人ニコラウス様ことニコちゃんをパーティーに迎え、今日のクエストに向かうことになったんだけど……。
オレ、さっきからじいさんが背中にしょってるどデカいブツが気になってしかたないんだよな……。
「あ、あの、ニコちゃん……」
「うん? なんじゃい?」
「その、背中にしょってるのは何かなー、なんて……」
オレの言葉に、じいさんはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりにそれを手に取って構えだした。なんかブンブン振り回し始めるし! アブねえよ!
「ちょっ!? こんなとこで振り回すな! 死ぬだろが!」
「なーに、こんなのただの護身用メイスじゃ、少しぶつかったってかすりキズにもならんわい!」
「んなわけねーだろ!」
そんなデカいハンマーみたいなのが護身用なわけねーだろ! そんなもんぶつかったら確実にミンチになるわ!
2メートルくらいありそうな長くてぶっとい金属の棒の上の方にこれまたぶっといサンドバッグくらいのサイズの金属のかたまりがついた、工事現場の重機にでも使われてそうな凶悪な武器を軽々と肩にかつぎ、じいさんが豪快にがははと笑う。いや、これっぽっちも笑えねえよ!
ゲートの部屋へと向かいながら、ステラがみんなにたずねる。
「ところで、配置の方はどうしましょう? ニコちゃんが入ってくれましたけど、僧兵ならやはり後衛がよろしいでしょうか?」
えー、別に前でいいんじゃねーの? このじいさん、絶対死なないでしょ。こんなごっつい武器持ってるし。
当の本人も、心配せんでええ、と笑ってる。
「わしがアンちゃんと旅していたころは、いつも前にいたからのう。お嬢ちゃんたちを危ない目にあわせるわけにもいかんしの!」
「じいさ……ニコちゃんもこう言ってることだし、前でいいんじゃねえの? どう見たって死にそうにねえし」
「ちょっとルイ、あんたテキトーすぎでしょ」
「そうですよ、このお方は王国の至宝と言っても過言ではないお方なのですよ」
わ、リアとベティちゃんがめっちゃニラんでくる。わ、悪かったよ。
「まあまあ、こんなジジイのことは気にせんでええ。お主らのやりたいようにやりゃいいんじゃよ」
「は、はあ……」
じいさんの言葉に、二人が渋々といった感じで沈黙する。ほらな、お前ら気を使いすぎなんだよ。
ふふん、とオレが歩いていると、リアが隣にきてジトーっとオレの顔をみつめる。な、なんだよ。
「昨日まで、あんなに『ニコちゃんは危なくないよう後ろだな!』とか言ってたクセに……」
「ぐっ!」
そ、それは昨日までの話だろ! イヤなとこ突いてくるなコイツ!
オレはじいさんの背中を指さしながら必死に抗弁する。
「それはニコちゃんがかよわい女の子だと思ってたからだろ! あれ見てみろよ! どう見ても不死身の筋肉ダルマじゃねーか!」
「だから、アンタ失礼でしょ! あの人、ニコラウス様なんだよ、ニコラウス様!」
「だから誰だよ、そのニコラウス様って!」
リアが驚いた顔をする。
「あきれた……。あんた、ホントにニコラウス様のお話とか知らないの? 子供のころにどこかしらで聞くでしょ、フツー」
「そ、そうなの?」
オレが聞くと、リアはこりゃ話になんないやって顔してあっちの方に行ってしまう。え? もしかしてこの人って、子供向けのおとぎ話とかレベルでよく知られてる感じなの?
ま、まあ、こんな目立つジジイならそれも不思議じゃないかな? 何やらゴキゲンに歌いながら前を行くじいさんの背中をみつめながら、オレたちはゲートのある部屋へと入った。
近ごろはすっかりおなじみになった五十一階行きのゲートをくぐり、オレたちは目的地へと向かう。
今日は四十九階でなんとかっていう鉱石を集めてくるって内容らしい。くそっ、また石集めかよ!
もっとも、今回の石は結構貴重なものだそうで、そんなにベラボーに集めてこいってわけでもないらしい。ま、ステラと二人で持てば大丈夫そうだな。
五十一階の階段を降り、ここしばらくお世話になっている五十階をオレたちは歩いていく。
「もうこのあたりの敵はおっかなくないね~」
「そうだな」
「ルイには言ってないってば。あんた別に戦わないじゃん」
「ほっとけ!」
「まあまあ、私たちが戦えるのはルイさんのおかげですし」
そんな調子で気楽にしゃべりながら道中を行く。
しばらく歩いていると、前の方にモンスターの群れが見えてきた。ああ、オーガとワイバーン、デスサイズか。てか、いつもより数が多いな……。
「これはちょっとメンドそうだね~」
「ですね、あれだけの数がいるとなかなかに骨が折れそうです」
「ワイバーンはいつも通りわたしが落とせばいいですね」
リアたちも面倒ってのは同意見らしく、軽く作戦会議を始める。
と、突然じいさんがかみなりみたいな笑い声を上げた。
「ぶわっはははは! さっそくわしの力を見せる時がきたぞい! お主ら、ここはわしにまかせるがよいぞ!」
ああ、なんかノリノリで前に出ながらあの凶器をブン回してる……。じいさん、そんなに戦いたかったのかよ。
まあいいか、せっかくやる気なのに水をさすこともないな。あのじいさんなら素手でもオーガとやり合えそうだけど。それじゃオレたちも肩慣らしといきますか!




