4-5 ま、またあのクエストか……!
てなわけで、なんかオレたちの引っ越しが決まったんだけど。
「それじゃアンジェラちゃん、もういっぱい!」
「はいはい」
……王様、アンタまだ帰んないの? お茶のおかわりなんか催促して。
「あのー、王様、まだ帰んなくていいんすか? てか、まだ他に話あるんすか?」
「な! 陛下に向かってなんて無礼な!」
「ちょっとルイ、少しは言い方考えてよ」
そんなオレたちを特に気にした風もなく、王様はこっちを向いて言った。
「そうそう! 今回はルイ君が危ない目にあっちゃったから、また特訓クエストを組もうかと思ってるんだ!」
「いっ!?」
「特訓クエスト!?」
それを聞いて、オレとリアの表情が凍りつく。
「そ、それって、もしかして、また『氷帝』さんとか……?」
「その通り! 今回もスペシャルな名トレーナー、『氷帝』ことセルヴェリアちゃんにお願いしようと思いまーす!」
「ひいいいぃぃぃぃっ!」
ぶるるるっ! オレとリアは震えあがりながら悲鳴をあげた。
そんなオレらとは対照的に、ステラが嬉しそうな顔をする。
「私はぜひお願いしたいです。シティギルド屈指の名冒険者、早くお会いしたいです」
「ス、ステラ、そんな生やさしいものじゃないんだよ……?」
「確かに、あれはうかつに近づいていい相手ではありませんでしたね……。も、もちろん、陛下の勅なのですからわたしに異論などあろうはずもありませんが」
おお、あのベティちゃんまでマジビビりしてる。この前チラッと会っただけなのにな。
「ところで王様、『氷帝』のこと知ってたんすね」
「そりゃー知ってるよ! 僕王様だよ? 各ギルドの有名人はだいたい把握してるんだから!」
「そうなんすね」
へー、一応この人も仕事っぽいことはしてるんだ。
そうこう言っている間にも、王様が勝手に話を進めていく。
「それじゃクエスト組んでおくね! 引っ越しもあるから、クエストは来週以降の方がいいかな?」
「そうっすね。お前らはどう?」
「う、うん、私は大丈夫……」
「私もそれでお願いしたいです」
「どうぞ陛下の御心のままに」
「だそうっすよ」
「オッケー! それじゃアンジェラちゃん、セルヴェリアちゃんと話つけておいてくれる?」
「はいはい、わかってますよ。それじゃ具体的な日時はこちらで決めて構わないのね?」
「うん! 報酬もたんまり用意しておくから楽しみにしててね!」
「は、はあ……」
でも、程度ってモンがあるからほどほどにな?
「よーし! これでルイ君も安心だね! あ、そうだ! ルイ君の家の警備もセルヴェリアちゃんにお願いしてみよっか! 住みこみで!」
「いやいやいやいや!」
「そ、それだけはどうかごカンベンを!」
王様の提案に、オレとリアが必死に反対する。そんなの、生きた心地がしねえよ! 確かに絶対安全だろうけど! しかも住みこみって!
「そぅお? いいアイデアだと思ったんだけどなー」
残念そうに王様が下を向く。王様、頼むからあんま思いつきでしゃべんないでくれよ……。
と、気分を切り替えたのか、シャキッと顔を上げると王様は大声で言った。
「ま、いっか! これでルイ君の安全も確保できたし! それじゃハルミさん、そろそろ帰りましょー!」
「はい」
「じゃ、アンジェラちゃん、あとはよろしくね! 皆さん、さようならー!」
そう言って、王様が手を振りながら帰っていく。ハルミさんもぺこりと一礼して後に続いた。
外で騒ぎの物音が聞こえた後、オレはようやく一息ついた。
「ふぃ~……」
「あ~、びっくりした……」
「本当ですね」
「まさか陛下がいらっしゃるとは……」
リアのつぶやきにステラとベティちゃんが同調する。そりゃビビるよな、朝からあのおっさんがいたら。
と、リアがこちらをじとっと見てることに気づく。いや、みんなこっち見てる。
「あ? どうした?」
「どうした? じゃない! 命を狙われたってどーゆーこと!?」
「そうです! いったい何があったんですか!」
「キチンと説明してください!」
うわっ! 三人そろってめっちゃ迫ってくる! まあ、確かに大事だよな! 現にオレ死にかけたし!
「わ、わかった、説明するよ。昨日帰って寝ようとしたら知らない間に部屋に男が忍びこんでて、そいつに殺されそうになったら拳王が助けにきてくれて……」
「はあ!? 拳王って、なんで拳王がルイを助けにくるのさ! そもそも存在するのかどうかもわかんないのに!」
「きっと事件で混乱してるんですよ! ルイさん、落ち着いてちゃんと説明してください!」
「大丈夫です、す、少しくらい人に言えないことがあってもわたしは受けとめますから!」
な、なんだなんだ!? 王様いなくなって反動がきたのか、こいつらエラい勢いで聞いてくるよ! てか興奮しすぎだろ! ベティちゃんに至ってはなんかビミョーに勘違いしてるっぽいし! ちゃんと話聞いてくれよ!
「あらあら、ルイ君も大変ねえ」
他人事みたいに笑ってないで助けてくれよ! てかアンタは事情聞いてるんだろ!?
その後しばらく、オレは三人に事件のあらましを伝えるので手いっぱいだった。まったく、今日はホント朝から大変な一日だよ……。




