4-4 これじゃまるでどっきり企画だよ!
王様たちとお茶を飲んで待ってると、最初の犠牲者がやってきた。
ぷんすかしながらギルドに入ってきたリアが、オレの姿を見つけて声を上げる。
「あいつ、絶対とっちめてやるんだから……あー、ルイー! あんた何勝手に――ぶっ!?」
「ハロー! リアちゃん、元気してたー?」
朝オレが家にいなかったから怒ってるんだろう。オレをどやしつけようとしたリアが、王様の姿を認めて思わず吹き出す。
アホな返事を返す王様に頭を下げ、あわててオレたちのところまで猛ダッシュしてくると、オレにささやいた。
(ちょっとちょっと、なんでこんなところに王様がいるの!?)
「いやその、これにはいろいろとわけがあって……」
「ささ、リアちゃんもお茶飲んで! みんなが来るのを待ちましょー!」
「は、はあ……」
わけがわからないといった顔でお茶を受け取ると、黙って飲みながらオレをニラむ。いや、オレが呼んだわけじゃないっての……。
「とりあえず、みんな集まったら説明するみたいだからさ」
「うん……」
怒る気も失せたのか、リアが黙ってうなずく。ふう、とりあえずこいつの説教は食らわずにすみそうだぜ……。
しばらくすると、ステラとベティちゃんのなかよしコンビがやってきた。
「本当においしいかき氷でしたよ。次はベティさんにもぜひ召し上がっていただきたいです」
「そうですね、もし次がありましたらわたしも……へ、陛下ぁぁ!?」
うわっ! あいかわらず大声出すとキンキンするな、この子の声!
「ハーイ! 今日も二人ともかわいいねー!」
ナンパかよ! 恥ずかしそうにもじもじするステラを置いて、ベティちゃんが一目散に駆けよってくる。
「へっ、陛下! なぜこのようなところに!?」
「あー、いいからいいから」
ひざまずこうとするベティちゃんを王様が止める。まあ、こんなとこでそんな目立つことされても困るしな。
ステラもこっちにやってきた。今日はクエストないから普段着なんだな。かわいい。
「さーて、みんなそろったね! それじゃ皆さんに説明しまーす!」
みんなの顔を見回して王様が言う。あー、なんか不安だなー……。
「皆さんには、これからルイ君といっしょに一つ屋根の下で暮らしてもらおうと思ってまーす!」
「……え?」
「……はい?」
バ、バカかこのオッサンはぁぁ! もっと言い方ってモンがあるだろが! 言ってる意味がわかんないのか、ステラとベティちゃんがポカンと口を開ける。
「え、えーっ!? ムリムリムリ! それはまだ早いから!」
意味がわかったのか、リアが大声を上げながら首を横に振る。てか、まだってなんだ、まだって。
「へ、陛下! それはいったいどういう意味なのですか!?」
「いきなり言われても、私まだ心の準備ができてません!」
二人もようやく言葉の意味に気づいたのか、口々に疑問と抗議の声を上げる。そりゃそうだよな。
「王様! 少しはモノ考えてしゃべってくださいよ! それじゃ誤解しか生まないじゃないっすか!」
「えー? 僕何か変なこと言ったー?」
「変だろ! どー考えても!」
まったく、この王様は……。いいよもう、オレが説明するから。
「なんか警備しやすいように、同じマンションに住んでほしいんだってさ。当然部屋はバラバラだから大丈夫なんじゃないか?」
「あ、そ、そーゆうことなんだ」
「び、びっくりしました……」
「そうそう、そういうことなんだよ。だからそんなに深く考えなくてもいいから」
ふぅー、なんとかわかってもらえたようだぜ……。妙なウワサが立っても困るからな……。
「ま、まあ、それなら別にいいかなー。王様のお願いだし……」
「そ、そうですね。私も特に断る理由はありません」
お、リアがもっとグズるかと思ったけど、意外とすんなり受け入れたな。あ、オレの部屋はステラの隣でお願いしまーす。
「でもでも、どうして急にそんな話になったんですか?」
「そうですね、しかも王様みずから……」
「えーとね、それは昨日の夜ルイ君が暗殺者に襲われて危ない目にあったからです!」
「ええーっ!?」
軽い調子で言う王様に、女性陣三人組が大声で叫ぶ。おい! だからもっと考えてしゃべれって!
「ちょっとルイ! それどーゆーことさ! 早く言ってよ、そういう大事なことは!」
「ル、ルイさん、おケガはありませんか!?」
「いったいどこのどいつなのです? その不埒者は!」
「あ、あー、うん、とりあえず助けてもらったから大丈夫……」
「そ・こ・で! みんなにいっしょに暮してもらって、僕たちがまとめて警護しちゃおうという話になったのです! もちろん家賃はこっちで出すから安心してね?」
「いえいえ! 家賃くらいは払えますから!」
「そ、そうです! そこまでご迷惑をおかけするわけにはいきません!」
「うーん、そう? 遠慮しなくてもいいんだけどなー。じゃあそういうことにしましょう!」
万事オッケーって顔で王様がうんうんとうなずく。
「それじゃ、来週にはみんなが引っ越せる状態にしておくから、準備ができたらどんどん引っ越し始めてね?」
「は、はーい、わかりました~」
「わかりました、よろしくお願いします」
そんな調子で、サクサクと引っ越しの話が決まった。意外だ、絶対もっと騒ぎになって収集つかなくなると思ってたのに。実は王様、スゴい人?
満足そうに王様が笑っていると、ベティちゃんが言いにくそうな感じで王様に声をかけた。
「あ、あの、陛下……」
「ん? なになにベティちゃん?」
「その、引っ越しの件なのですが、大変申し訳ないのですが、少し待っていただくことはできませんでしょうか……」
「え? ベティちゃん、何か問題でもあった?」
「いえ、そういうわけではないのですが、少しいろいろとありまして……。両親にも相談をしないと……」
「あ、そっか! それじゃ僕がご両親に説明してあげよっか!」
「い、いえ! とんでもございません! 陛下直々になど!」
大声で拒否ると、申し訳ありませんとひざまずく。ベティちゃん、ここギルドだからあんまり大げさなアクションとかはやめてね?
そっか、ベティちゃん家にはいろいろと人に見られたら困る趣味とかいっぱいあるみたいだもんな。その整理やらですぐには引っ越しできないってことか。
よしよし、そんじゃここは一つ、他人の趣味に寛大なオレが助け船を出してあげましょうかね。
「王様、ベティちゃんにも事情があるんでしょうし、そんなに急がなくてもいいんじゃないっすか? 一か月かそこらくらいは待ってあげることってできませんか?」
「あー、そっかー。人それぞれだもんねー。うん、わかった! それじゃベティちゃんのお引っ越しは準備ができてからでいいよ!」
「あ、ありがとうございます、陛下」
だーから、その仰々しいお礼のポーズはひかえてくれって……。このコもたいがい変なとこあるよな。
「リアちゃんとステラちゃんは大丈夫? 引っ越し」
「は、はい、大丈夫です」
「準備はしておきます」
「オッケー! それじゃ、こっちの準備が整ったらギルドに知らせておくから、一回下見してみてね! 気に入らなかったら他のところ探すから!」
「わかったっす」
いや、気に入らないとか言えるわけないじゃん……。ま、とりあえずこの件はこれで大丈夫そうだな。
オレもあの家にはだいぶ住みづらくなってきてたからな……近所の目とかの問題で。もしかしたら、ちょうどいいタイミングだったのかもしれないね。




