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3-17 助っ人はまさかのスゲえ大物!?





 今、オレは我が家でスゲーヤバい状況に陥ってる。


 目の前にいるコイツ、いったい誰なんだ? オレちゃんとカギ閉めてたはずだぞ?

「お、お前、どこから入ってきたんだよ……」

「どこからって、ちゃんと玄関からおじゃましたぜ? ま、カギは閉まってたがな」

 思わず声が震えるオレを茶化すかのように、男は針金のようなものを右手でくるくる回しながら答える。

 あの道具、似たようなのをリアが使ってたぞ! くそ、コイツ盗賊か!

「言っておくが、大声出そうだなんて思うなよ? その瞬間お前はおだぶつだ」

 いつの間にか針金をナイフに持ち替え、男が忠告してくる。コイツ――まさかオレを殺す気なのか!? マジで!? なんで!? ヤだよ、オレまだ死にたくない!

 恐怖に足やら何やらガクガクされ始めるオレの姿がおもしろいのか、男はオレにすぐには手を出そうとせずニヤニヤと見つめてくる。くっそ、オレなんていつでもすぐ殺せると思ってやがんのか!

 でも、これは好都合かもしれない。相手が油断してる間にスキをつくなり時間を稼ぐなりすれば、ひょっとしたら助かるかも!

 オレは震える声で男に聞いた。

「お前、オレになんの用があるんだ?」

「それはお前も薄々気づいてるんだろ? そんなに震えてるんだしよ。まさかこんな時間に無断で家に忍びこんで『オレ、ルイさんのファンなんす! サインください!』なんて言うとでも思うか?」

 そう言いながら笑う男の目は、オレが今まで会ってきた人たちとはまったく別のものだった。人間を見る目つきじゃねえ……。オレをものか何かとでも思ってるような目だ。背中が冷たい汗でべったりになる。

 何がおもしろいのか、男がニヤつきながら言った。

「おいおい、そんなにブルって、お前それでもホントに英雄かよ。安心しろ、ヤる時はひとおもいにやってやるから。オレはこれでも以前はBランクだったからな、手際はいいぜ?」

「なんでオレを殺すんだよ」

「別にうらみはないんだが、依頼主の頼みだからな。まあ、悪く思うな」

 そう言う男の顔は、言葉とは裏腹に実に嬉しそうだった。こいつ、人を殺して何が楽しいんだよ?

 男が言う。

「お前が邪魔な奴もいるってこったな。お前、少しばかり派手にやり過ぎたんだよ。王様や王女様に取り入ったかと思えば、大貴族の嬢ちゃんにも粉かけてるんだって? そりゃ殺されても文句は言えんさ」

 いや、ちょっと待てよ! 取り入ったってなんだよ! それにオレ、大貴族の知り合いなんていねーぞ! 言いがかりにもほどがあるだろ!

 ヤベえ、オレそんな理由でなんて絶対死ねねえ。竪琴さえあればなんとかなるかも……。

「おーっと動くなよ? 妙な動きしたらすぐ殺すぞ? ま、どうせもうすぐ殺すんだけどな!」

 くっそ、オレの考えてることはお見通しか! 男は適当なようでいて、そのくせオレの一挙手一投足をしっかり見てやがる。

 一歩も動けないどころか、緊張で呼吸さえままならなくなってきたオレに、男が非情な言葉を投げかけてきた。

「あんま時間かけるわけにもいかねえか。じゃ、悪いけどお前には死んでもらうぜ」

 ちくしょう! オレ、こんなところで死ぬのか!? ざっけんな! そんなわけわかんねえ理由でなんか殺されてやらねえぞ!

 竪琴まではここからほんの2メートル程度、スキをついて飛びこめばなんとか届くかも。その後のことはわかんねえけど、あれがないとホントになんにもできねえ!

 意を決して竪琴へと飛びこもうとしたその時、男とは反対側の壁際から突然声が聞こえてきた。

「そこまでにしてもらおうか」

「えっ!?」

「だ、誰だ!」

 声の方を振り向くと、何もなかったはずのその場所には一人の人物が腕を組んで仁王立ちしていた。ど、どこから入ってきたんだ!? 見るといつの間にか近くの窓が開いてる。あそこから入ったのか?

 そいつはオレと同じくらいの背と肉づきで、道着みたいな服を着てる。何より顔から頭まで布でぐるぐるまいて覆面みたいになってて、表情が全然わかんねえ! あやしすぎる!

「お、お前、いつの間に!?」

 男が謎の人物に向かい叫ぶ。盗賊のコイツが気づかなかったってことは、この覆面も盗賊なのか?

 男の問いには答えず、覆面は言った。

「話は聞かせてもらった。結論から言えば、お前はここまでだ」

 わりと若い、少年っぽい声だ。見た目も華奢な感じだし、オレと同じくらいの少年なのかな? わずかに目にかかる前髪が、うっすらと明かりに照らされる。キレイな赤髪だ。

 話ぶりからするに、どうやらオレに味方してくれるらしい。少なくともあっちの男みたいに今すぐオレを殺そうって感じではない。こ、これはオレ、ひょっとして助かりそう?

「くっ、お前、何者だ!?」

 男がややうろたえぎみに怒鳴る。気配に気づかなかったんだから、きっとこの覆面の方が格上の盗賊なんだろうな。

 覆面は穏やかな声で言った。

「名乗るほどの者ではない。人は我を拳王と呼ぶ」

「なっ!?」

 オレと男が異口同音に叫ぶ。け、拳王ぉぉぉ!? リアたちが言ってたSランクの冒険者じゃねーか! なんでこんなところにそんな伝説っぽい人がいるんだよ! てか、拳王ってもっと世紀末覇者っぽいゴツいオッサンなんじゃねーのかよ!

 拳王と名乗る人物は、どー見てもそんなスゴそうな感じには見えない。どっちかってと、オレとどっこいどっこいのやせっぽちだ。てか、こいつホントに拳王? 拳王って確か結構な年のオッサンのはずだろ? なんでこんな若い声してんだよ!

 男も同じことを思ったのか、少し余裕を取り戻したような調子で言った。

「坊や、冗談ってのはもう少しものを調べてからいうもんだぜ? お前みたいなガキが拳王なわけねえだろうがぁ!」

 怒声とともに、男の手から幾本ものナイフが覆面目がけて投げつけられた! 危ねえ!

 と、そのナイフが空中でピタリと止まったかと思うと、バラバラと全部地面に落っこちた! え、なんで?

 覆面の方を見れば、腕組みしたまま微動だにしていない。な、何が起こったんだ、いったい!?

「が、眼力だけでナイフを落としただと……!?」

 男が驚愕の表情で声をしぼりだす。え、マジで!? 眼力でどうやってナイフを落とすんだよ!

 今や形勢は完全に逆転したらしく、男の息は荒くなり、額からはとめどなく汗が噴き出している。まあ、この覆面がホントにオレの味方かはっきりしないんでまだ気が抜けないんだけどな。

「ちっ、とんだジャマが入りやがったぜ……」

 舌打ちしながら男が言う。あ! コイツ、逃げる気だ! なんかわかるぞ!

 案の定、男は捨てゼリフを吐きながら身をひるがえした。

「今日のところは見逃してやる! それじゃ――」

「ふん」

 その時、覆面が腕組みをといて無造作に左の拳を突き出した。

 と、次の瞬間、男がものスゴい勢いで壁に叩きつけられた! ええ――っ!? なんで!? 何今の!? 気か!? 気なのか!? Bランクを一撃で黙らせるなんて、ハンパな強さじゃねーぞ!? もしかしてコイツ、ホントのホントに拳王なのか!?

 そのまま床へと落ちた男は、白目をむき泡を吹いて完全にのびている。ま、まだ生きてるよな……?

 覆面はつかつかと気絶する男に近づき、ひょいと肩に担ぎ上げるとオレに向かって言った。

「今日のこと、他言無用だ。報告は我の方からする」

「は、はい!」

 オレは素直に返事する。こんなバケモノ、機嫌損ねたらヤバいからな。

「でも、どうしてオレのこと助けてくれたんすか?」

「シティギルドより、以前からお前を見守るように依頼されていた。今日はいつもとは異なる気の揺らぎを感じ、ここに駆けつけたまでのこと」

「は、はあ……」

 気の揺らぎ……? マジでわかんのか、そんなモン……? でも覆面がそう言ってるんだし、そうなのかも……。てか前から見守られてたのかよ、オレ……。全然知らなかった……。

 開きっぱなしの窓のそばに立つと、覆面はこちらを振り返った。

「それでは我は行く。戸締りには気をつけよ」

 そう言い残し、覆面は男を担いで窓から出て行った。普通に玄関から出てけばいいのに……。

 覆面の忠告にしたがい、急いでカギを締め窓を閉じる。明かりを消すと、緊張が途切れたのか疲れが一気にどっと押し寄せてきた。ヤベ、オレもう限界……。


 なんとかベッドまでたどりつくと、オレはそのまま泥のように眠りに落ちていった。




というわけで、長かった3章が終わりました。もう半年も経つんですね。

4章は七月の頭から始める予定です。


そして気づいてみれば、連載も150回を超えました。これからもご愛読いただけると嬉しいです。

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