3-14 あいつ、そんなスゴいヤツだったの!?
マリ様の部屋は、あいかわらずなんとも言えないいい匂いがする。ああ、オレの肺の中の空気全部この部屋の空気に入れ替えたいぜ……。
席に着いてかき氷を待っていると、マリ様が話しかけてきた。
「今回のクエストはいつもとは違う雰囲気だったそうですね。いかがでしたか?」
「はい、おもしろいところだったっす。どこもかしこも氷だらけで、スケート……スゴい広い氷の広場みたいなとこもありました」
「まあ、それはおもしろいですね。歩いていてすべったりはしなかったのですか?」
「はい、お城からもらったツメのおかげで転ばずに歩けました~!」
オレとリアがダンジョンの様子を説明すると、マリ様が口元に手を当てて楽しそうに笑う。チョーお姫様っぽい!
ちなみに、ステラは今着替えのために少し席をはずしてる。ギルドからまっすぐここに来たからな。さすがにマントやビキニアーマーじゃアレかと思ってメイドさんに聞いてみたら、服を貸してくれるって言ってくれたのだ。よかったよかった。
「失礼します、ステラ様をお連れしました」
お、戻ってきたな。メイドさんに連れられて入ってきたステラは、ツインテはそのままでなんか高そうなドレスを着てる。そりゃお城で貸してくれる服はリッパなのしかないか……。しっかし美人だな、胸のサイズが合うドレスでよかったぜ。
ステラも交え、話の続きをする。
「あのダンジョン、ホント楽しいよねー! 僕も若い頃はよく遊んだよー!」
王様がうんうんとうなずく。てか、あんた行ったことあんの? あ、調査隊の皆さんに連れてってもらったのか。
「洞窟の中も氷でいっぱいでしたね」
「ああ、鍾乳洞みたいになってたよな。つららいっぱいで」
「あのつらら、ちょっとした武器になりそうだよね~」
「つららですか、私は見たことがありませんので少し羨ましいです」
つららの話にマリ様が興味を持ったみたいだ。まあ、オレもリアルで見るのは初めてだったかも。東京つららないし。
「それならマリちゃん、今度ルイ君たちに連れてってもらうといいよ! じゃあ次のクエストはそれにしようか!」
「ええええ!?」
ナイスな名案! って感じで言う王様に、オレたちがそろって声を上げる。いやいや、それは危ないっすよ! マリ様になんかあったらどうすんすか!
「いけません、お父様。皆さんに迷惑がかかってしまいますから」
少し困った顔で、マリ様が王様をたしなめる。うおお、これは命がけで守りたい! オレ後衛で歌ってるだけだけど!
「迷惑なんてことは全然ないっすよ! でもオレらまだ弱いから、もっと強くなったら喜んで引き受けさせてもらいます!」
「じゃ、じゃあ私も早く強くなれるようがんばります!」
「わ、私もまだまだですががんばります!」
「おー、その意気だよみんなー! じゃあこのクエストは時が来たらお願いするね!」
あれ、なんかうまいこと誘導されたような気がする……。まあいっか、まずはオレらが強くならないと始まんないしな!
で、その後も洞窟の話が続く。
「でもあの洞窟、ペンペンが出てから全然モンスター出なくなったね」
「いや、あいつがモンスターだったんだろ」
「かわいかったですね、ペンペンさん」
「ペンペンさん?」
マリ様が不思議そうに尋ねてきたので、オレたちが説明する。
「そう、なんかすっげえ目つきの悪いペンギンみたいな奴なんですよ」
「えー、かわいかったじゃん」
「子供くらいの大きさで、その人が氷の部屋まで案内してくれたんです」
「まあ、不思議なこともあるんですね。わたくしも会ってみたいです」
オレたちの話にマリ様がほほえむ。やっぱカワイイな、マリ様!
「えーっ、君たちも会ったのー!?」
うおおおおっ!? 王様、いきなりデカい声出すな! なんだよ急に!
オレがニラみつけるのにも構わず、王様がなんかしゃべり出す。
「いいないいなー! 僕も主さんに会いたかったなー!」
「主さん?」
オレたちの視線に、王様が立ち上がって両腕を開きながらしゃべり始めた。
「そう! あの洞窟の主さん! なんでも、『氷魔の主』と呼ばれている大物なのだそうです!」
氷魔の主、ねえ……。いかにもゲームやラノベに出てきそうな名前だな。あのペンペンが、ねえ……。
ホントかよ、って感じのオレたちの目など気にせず、王様は何を思ったか腰の剣を抜き放った。飾りじゃなかったんだ、それ。
「かくいう僕も、昔あの主さんから奥義を授かったことがあるんだよ。見よ、必殺・氷結女王のまたた……あたたたた!」
なんかわけわからんこと言いながら剣を振るおうとした王様が、いち早く反応したハルミさんにほっぺをつねられる。あーあ、言わんこっちゃない……。
視線を移せば、恥ずかしそうに顔を赤くしてマリ様が王様を軽くニラみつけている。おお、ちょっとゴキゲンななめな感じの顔もカワイイ!
「お父様、こんなところでそんなものを振り回さないでください……」
「えー、そんなものはひどいよー。この剣は選ばれたものにしか扱うことのできない宝剣……いたたた……」
「陛下、少し落ち着いてください」
「ふぁい……」
またしてもハルミさんにつねられ、王様はしょんぼりと席に戻った。てか、話のどこまでがホントだったんだろ……。いや、むしろホントの部分なんてあったのか? とりあえず王様、いい年なんだから中二はほどほどにしとけよ? 気持ちはわからんでもないけど。
「へー、ペンペンってそんなにスゴいペンペンだったんだ~」
「人は見かけによりませんね」
この二人はなんか信じてるし……。ま、どっちでもいいけどさ。
「おお……陛下の奥義を拝見することができるかと期待しましたが、残念です……」
こっちじゃウェインさんがわりとマジっぽく残念がってるし。てか、それウソっすよね? 出世のためにフリをしてるだけだって言ってくださいよ、頼むから。
「でも、あれっていいんすか?」
「え? なになに?」
ほっぺをさする王様に、オレは疑問をぶつけてみた。
「あの氷の間って、あんな風に放置しといて大丈夫なんすか? 誰かが勝手に取ってったりしないんすか?」
「あ~、それなら大丈夫!」
なんか王様が自信満々に胸を張る。いや、なんかそれ信用ならないんすけど。
「あそこには入らないように各ギルドにお触れも出してるし、何より主さんの縄張りだから誰も近づけないよ! 僕は主さんと約束してるから、特別にあそこの氷をもらえるんだ!」
「へ、へえ、そうなんすか……」
オレはむしろそのペンペンを心配してるんだけど。ほら、あいつの剥製がほしいとか言い出す金持ちとかいそうじゃん? オレは絶対いらねーけど。
「そうなんですね。皆さんのお話を聞いて、わたくしもますますお会いしてみたくなりました。そのペンペンさんに」
「そ、それじゃオレたちがもっと強くなったら、マリ様もあいつのところへ連れていってあげますよ!」
オレがちょっと興奮ぎみに言うと、マリ様は少し顔を赤くしながらありがとうございますってほほえんだ! おお、マジでカワイイ!
「……デレ~ッとしちゃって……」
「ルイさん、顔がゆるみすぎです……」
くっ、二人がオレをとがめるような目つきでボソッと言ってくる。しかたないだろ、マリ様かわいいんだから。
その時、扉の向こうから声がした。
「失礼いたします。かき氷の方ができあがりました」
「おおー! 待ってましたー! どうぞ入ってくださーい!」
王様がデカい声で答える。やっぱこのおっさんがかき氷食いたかっただけなんだよな、今日のクエストって……。
その事実に微妙にむなしさを感じつつも、極上のかき氷の登場にオレたちもまた微妙にテンションが上がってきた。よーし、このモヤモヤを吹っ飛ばすくらい今日は食ってやるぜ!




