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3-9 行くぜ、氷集め!






「ふー、ホントあっついね~」

「ホントだな……」

 あー、マジであちぃ……。真夏なんていちいち再現しなくていいんだよ……。

 今日は王様のおつかい……もとい特別クエストで四十八階にある氷を取りに行くことになってる。なんか今回に限っては、さっさとクエストに行きたくなってきたわ……。

 手には竪琴といっしょに袋を一つ持っている。この前買ってきた防寒具が入ってるんだけど、どう考えても季節感ゼロだわ。

 ギルドの正門前では、ステラとベティちゃんが木陰で二人して会話していた。ああ、できる組か……。いったい何話してんだろ。てか、ちょっと珍しい組み合わせだな。

「あの二人、何話してるんだろ?」

「さあ、いつもは見ない組み合わせだからな……」

 興味をそそられたオレとリアは、二人の視界に入らないように近づいて会話を盗み聞き……情報収集につとめようとする。すんごい難しい社会問題についてとか、オレらにはわからんような高尚な芸術について語ってたらどうしよう……。

 二人の後ろ側にある木に隠れながら見ていると、ベティちゃんのちょっとメタリックな声が聞こえてきた。

「そのお店、そんなにおいしいんですか?」

「ええ、庶民派のお店の中では屈指ではないでしょうか。野菜の滋味あふれたあのポトフは、高級店でもなかなかいただくことはできません」

「それは興味深いですね。ステラさん、今度ごいっしょよろしいですか?」

「ええ、喜んで」

 メシの話かよ! いや、確かにステラの十八番オハコだけど! しかし単なるメシの話でも、この二人がしゃべるとやたらお上品なフインキになるな……。

 よし、せっかく気づかれてないんだし、ちょっくらおどかしてやるか。後ろから、そ~っとそ~っと……。

「わっ!?」

 声を上げようとしたオレの眼前に、ステラとベティちゃんの拳が迫る! ひぃっ!? オレの方が変な声出しちゃったよ!

 鋭い目でにらみつけてきた二人が、オレだと気づいて拳をおろす。

「なんだ、あなたでしたか……」

「ご、ごめんなさい、私てっきり不審者かと思って……」

「ひゃい、ごめんなしゃい……」

 半分涙目で両手を上げるオレに、ベティちゃんはあきれたように首を振り、ステラはぺこりと頭を下げる。

 そんなオレをスルーして、リアがこっちへやってきた。

「やあ、二人ともおっはよー」

「あ、リアさん。おはようございます」

「おはようございます」

「今日は氷集めだねー」

「そうですね、がんばりましょう」

「いつまでも立ち話もなんです、中に入りましょう」

 そんなことを言いながら、三人がギルドの中へと入っていく。なあ、頼むからオレを置いてかないでくれよ……。


 ギルドの中は、石造りで日もあまり入らないせいで真夏でも意外と涼しい。夏場は中で待ち合わせした方がいいな。

 受付に行くと、いつものようにアンジェラが手を振ってほほえんでくる。

「おはよ~、アンジェラ」

「みんな、いらっしゃい。四十八階に行く準備はしてきたかしら?」

「大丈夫だよ。ほら、服もちゃんと持ってきてるし」

 リアが手にしたカバンをジャネットに見せる。こいつのカバン、すっげえピチピチしてんだけど……。

「そうそう、あなたたちに渡しておくものがあるわ」

 そう言いながら、アンジェラが棚からいろいろと持ってくる。

「アンジェラ、何これ?」

「これで氷を削って、この入れ物に入れるそうよ。氷が溶けにくい入れ物らしいわ。それと説明書もあるわよ。準備がいいわね、王国の方も」

「へー、至れり尽くせりだね」

 まあ、どうせ入れ物はオレとステラが持つんだろうけどな。ほら、リアが何の躊躇もなくオレの方に入れ物まわしてくるし。あー、はいはい、持ちますよっと。

 へえ、なんか結構しっかりした入れ物だな。あれか、虎印の魔法びんみたいなもんなのかね。てか、お、重い……。オレとステラで一個ずつ持つとするか。

「何この説明書~、おもしろ~い」

 ノミみたいなものを受け取っていたリアが、説明書を見て笑い出す。

「どれどれ、何がおもしろいんだ?」

「ほらほら、なんか絵がいっぱいだよ」

 お、ホントだ。てか、ちょっとしたマンガみたいだな。ムダにクオリティが高いぜ。担当者ヒマなのか? それはさておき、ふむふむ、こうやって取り出すのか……。

 荷物を受け取り、オレたちはゲートへと向かう。

「じゃあ、そろそろ行こっか」

「いってらっしゃい。四十八階はすべるから、転ばないように気をつけるのよ」

「平気平気~。それじゃ行ってきま~す」

 アンジェラにあいさつすると、オレたちは四十八階へと向かった。


 ゲートをくぐり、四十六階の詰所から出て下をめざす。

 四十七階、薄暗い洞窟を歩いている途中でオレはベティちゃんに聞いてみた。

「なあベティちゃん、タイツとかはかなくていいのか? 素足だと寒くない?」

 あいかわらずちょっと短めのスカート姿のベティちゃんが気になってたんだよな。それ、絶対寒くね?

 ベティちゃんはいつものようにツンとした口調で言う。

「大丈夫です。わたしはそんなヤワな鍛え方をしていません」

「そ、そうか……」

 うう、心配して言ってるのに。てか、寒さに鍛え方とか関係なくない?

 そんなオレを、リアがなぜがブスーッと不満そうな目でニラんでくる。

「な、なんだよ」

「あのー、私も素足なんですけど……」

 はあ? そんなの知ってるよ。だから何なんだ?

「なんでベティの心配はして、私は心配してくれないのかなー、って」

「いや、だってお前、どうせカゼなんかひかないだろ。ただでさえ化け物みたいに鍛えてるんだし、女の子のデリケートさとは無縁……」

「デリケートさと無縁なのはアンタだあぁぁぁあ!」

「ごはぁぁああ!」

 オレがしゃべり終わる前に、リアの強烈なボディブローがオレの腹をとらえる。し、死ぬだろ! オマエのボディなんか食らったら!

 その場にうずくまるオレを、ベティちゃんが冷ややかな目で見おろしてくる。

「本当、デリカシーのない人……」

 うう、少しはオレの心配してくれよ……。

「ルイさん、大丈夫ですか? リアさん、やり過ぎです。ちゃんと謝ってください」

「は、はぁ~い、ごめんなさい……」

 意外に厳しい口調で叱るステラに、リアがしゅんとしてオレに謝ってくる。なんかステラ、お母さんみたいだな。

「うう、心配してくれるのはステラだけだよ……」

「でも、さっきのはルイさんもよくないですよ? リアさんだって女の子なんですから。いくら親しいとはいえ、言い方というものがあります」

「は、はい……すいません……」

 な、なんかオレもめっちゃ怒られた……。てか、今ので三人の好感度が確実に下がった気がする……。な、なんで? オレ、ベティちゃんの心配しただけのはずなのに。どうしてこうなるか……。


 氷集めが始まる前から、オレはなんだか居心地の悪い状況に身を置くはめになってしまった。身から出たサビ? うう、今日は楽しく氷集めと思ってたのに……。四十八階に着くまでに機嫌直してくれるかな、みんな……。


 



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