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3-8 キチンと準備しないとな!





 王様からの新たなクエストに、オレとリアはしきりにため息をつく。

「はあ……。前の『氷帝』といい、氷つながりだね……」

「そうだな……」

 露骨にげんなりするオレたちに、ベティちゃんが腰に手を当てて言う。

「あなたたち、何を不服そうな顔をしているのです! 陛下よりの直々の勅なのですよ? これほど光栄なことはないでしょう!」

「あ……ベティちゃんってそっち系の人だったの?」

「そっち系とはなんですか! そっち系とは!」

「あ、いや、お国のためならとか、国王陛下ばんざーいとか……」

「当然でしょう? わたしは栄光ある……王国の臣民なのですから」

 いやまあ、確かに王様いい人だし、気持ちはわかるけどさ。

 もうあきらめた、とばかりにリアが声を上げる。

「まーしょうがないよ。王様からのクエストだし。次回はがんばろっか」

「ああ、そうだな……」

 オレもあきらめた。まあ、やるしかないよな。

 アンジェラに預けていたマントをはおったステラが言う。

「それじゃ、衣類を準備しておかないといけませんね。カゼをひいてはいけませんから」

「ああ、そうだよね」

 あ、そっか。氷取りに行くんだもんな。きっと寒いとこなんだろ。いつものカッコで行ったらカゼひくか。

「でもこの時期に冬物なんて売ってるのか? 今真夏だぞ?」

「大丈夫です、ダンジョン向けのお店なら各階の特徴に合わせた商品をそろえていますから」

「ああ、そっか」

 ステラの言葉に、オレも納得する。

「どこかいい店ってあるのか?」

「そういうのはステラがくわしいんじゃない?」

 リアに聞くと、サラッとステラに丸投げする。お前、知らないんだろ、いい店。

「ええと、そうですね……」

 形のいいあごに人差し指を当てながら、天井の方を見上げて少し考えこむステラ。かわいい。

「それなら『バルバロイ』などはいかがですか? 防具には強いお店です」

「へえ、いいんじゃないか?」

 うちのメンバーの中じゃ一番冒険者歴が長いだろうステラが言うんだから、異論をはさむ余地はないんだけどな。

「よーし、それじゃさっそく行こっか! アンジェラ、またね~」

 アンジェラに手を振ると、リアがずいずいと前に行く。お前、その店どこか知ってんのかよ。

 オレたちもアンジェラにあいさつすると、ギルドを後にした。


 王都の東側、リアの家からわりと近いところに『バルバロイ』はあった。

「お前、家から近いのになんで知らないんだよ……」

「しょ、しょうがないじゃん。誰だって知らないことの一つや二つくらいありますよーだ」

 ふくれっ面で言うリアはスルーし、オレはステラに言う。

「それに引きかえステラはスゴいな。家からずっと遠いのにこんな店知ってるなんて」

「そ、そんなことはありませんよ。たまたま知っていただけです……」

 あー、謙虚だなあステラは。いろいろ知っててもそれを鼻にかけないし。嫁にするならやっぱこういうタイプだよな。

「ルイ、デレデレした顔でいったい何考えてんのかな~」

「どうせまたよからぬことでしょう」

 う、二人の冷たい視線が突き刺さる……。この頃はベティちゃんもすっかりオレに冷たくなっちゃったな……。いや、初めからか?

「さ、さあ、それじゃ入るぞ」

 二人の疑念をごまかすように、オレは店の中へと入った。


「お~、いろんな防具が並んでるね~」

「武器も結構あんのな」

 店内には、さまざまな武器や防具が並べられていた。田舎の方のちょっとデカいコンビニくらいの広さがあるな。こっちじゃかなりデカい部類の店だ。

「ステラはよく来るのか? この店」

「いえ、私はあまり来たことがないんですが……。防具は基本的に必要ありませんので」

「ああ、そっか」

 ある意味コスパ最高だよな、斧兵の装備。布も節約しまくりだし。

「さーて、それじゃ装備を選びますか」

 そう言うと、リアがずいと奥の方へ行く。

「あ、このあたりがそうじゃない?」

「そうですね」

 リアとベティちゃんの視線の先には、ずいぶんとあったかそうな防寒具が並んでいた。

「へえ、結構いい感じじゃん」

「何さルイ、あんたこんな上等な服なんて持ってないでしょ」

「ま、まあそうだけど」

 日本で見たやつと比べてんだよ。お前に言ってもしゃーないけど。

 あれこれ言い合うオレとリアの隣で、ステラが品物を手に取った。

「私、これとこれと、あとこれをいただこうと思います」

「おお、いいねー」

 ステラの手には、もこもこした耳あてと毛編みのマフラー、そして毛糸の手袋。意外に女物っぽくてかわいいデザインだ。

「かわいいじゃん。それなら普段からつけててもいいんじゃないか?」

「そ、そうですか……?」

 ステラがポッと頬を染める。ああ、かわいいなあ。ま、今真夏だから身につけようもないけど。

「私もなんかいいのないかなー」

 ステラに負けじと、リアが冬物コーナーに頭を突っこむ。おいおい、それ売り物なんだからな?

 少し離れたところでは、ベティちゃんが意外に真剣な顔で服を選んでる。スカートに素足じゃ寒いだろうし、タイツはいた方がいいかもな。

 と、出し抜けにリアのバカ笑いが鳴り響いた。

「ぶははははははは!」

「な、なんだよ急に!?」

 なんつー笑い声だ! 少しは恥じらいってものを学べよ!

「ホラこれ! これ見てよこれー!」

 そう言ってリアが手に取った服をオレたちに見せる。

「ぶっ!?」

「でしょでしょー? 何これ、おばあちゃんっぽーい!」

 これ……ドテラか? えらいもっこもこしてんな! いや、これ自体はあったかくていいモンだけどさ、これ着てクエストに行くヤツはいねえだろ! どうでもいいけど、オレがガキの頃これ着たヒーローが出る謎アニメやってたな……。

「ねールイ、あんたこれ着なよー。絶対ウケるって」

「着ねえよ! てか、ウケるってなんだ!」

「えー、ノリ悪ーい。ノリワ・ルイ君にはごほうびあげませーん」

 なんだよ「ノリワ・ルイ」って! てか、なんで日本式っぽい名前なんだよ!

「じゃあベティ、これ着てよ~。絶対あったかいって~」

「着ません! そんなの着て、どうやって矢を射ろと言うんですか!」

 むりやり着せようとするリアを、ベティちゃんがめんどうそうに手で追い払おうとする。

「おい、店であんま騒ぐんじゃねーぞ」

「何さー、ルイのくせにいい子ぶってー。あんたこそさっさと着るもの決めなよ」

「うっせ。今選ぶよ」

 なんで注意したのにこっちが怒られなきゃならないんだよ。

「なあステラ、どれがいいと思う?」

「そうですね、こちらなどいかがですか?」

 オレの問いに、ステラがかいがいしく服をすすめてくれる。お、なんかこれ、ちょっとデートっぽくね?

「……何、あれ」

「……だらしない顔……」

 う、二人の視線がめちゃくちゃ冷たい……。い、いいだろ少しくらい。

「ほ、ほら、お前らも服決めろよ」

「はいはい、それじゃベティ、私らは私らで決めよっか」

「そうですね。ステラさん、そちらは適当にお願いします」

「は、はい……」

「おいおい、適当にってなんだよ適当にって」

 オレの言葉には耳を貸さず、二人は手元の服を手に取り始めた。うーん、なんか居心地悪いな……。


 しばらくして買い物を終えたオレたちは、近くにあった喫茶店でお茶して解散した。はあ、次回は氷集めか……。気が重いな……。


 

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