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3-6 アンジェラって、もしかして……!?





「ここで行き止まりだよ~」

 暗くじめじめした洞窟の先頭を歩いていたリアが、俺たちに振り返って言う。

「なんにもねえなあ……」

「これで全部まわったんじゃない?」

「ということは、ここははずれだったということですか……」

 やや疲れた顔でステラが言うと、後ろでベティちゃんが大きくため息をつく。

 今日は王様からの依頼で、例の探索クエストにやってきた。前の石像事件もあり、上からはくれぐれも無理はしないようにと言われている。そりゃ言われなくたって無理なんかしねえよ、オレまだ死にたくねえもん。

 で、今回はまたちょっとあやしい洞窟を探索していたんだけど、前の時と違って、人の気配が全然しないんだよなー。てか、ホントタダの洞窟って感じ。そのくせムダに広いから、オレたちもいいかげんうんざりしているところだった。

「あーもう終わり終わり! さっさと帰って今日は打ち上げしようぜ!」

「あーあ、今回はお宝ナシかぁ~」

 オレが投げやりに言うと、リアが残念そうに肩を落とす。こいつ、ホントお宝好きだなあ……。

 しょぼくれるリアの肩に、ステラが後ろから手を乗せる。

「こんなこともありますよ。ダンジョンはここだけじゃありませんから、ね?」

「そだね……。よーし、今日はたくさん肉食べる!」

 びっくりするほど唐突に気分を切り替えると、リアはそんなどうでもいいことを宣言する。

「ステラ、ベティ、誰が一番たくさん食べられるか勝負ね!」

「はぁ!? どうしてわたしがそんなことをしなければならないんですか! だいたい、わたしはやりませんよ、そんな下品なこと!」

「え~、ノリ悪いなあベティ。若いんだから、もっとガンガン食べないとダメだよ~」

「あなたこそ、少しは女性らしい振る舞いというものを身につけられてはいかがです?」

 あー、また始まった。この頃この二人の口論が絶えないなあ。ケンカするほど仲がいい……のか? ステラの方を見ると、ちょっと困った顔でオレに微笑を返す。カワイイ!

「ほら、それじゃギルドに帰るぞ」

「何さ、ルイに言われなくても帰りますよーだ」

 そんなことを言いながら、リアが今来た道を戻っていく。そうそう、さっさと帰ろうぜ。これだけ歩いて収穫ゼロってのもなんだかアレだけど、ま、別にいいよな。オレも店に行っていっぱい食おっと。


 ゲートをくぐってギルドに帰ると、オレたちは受付のアンジェラのところへ向かう。

 受付についてみると、アンジェラは他のパーティーの相手をしていた。どうやら雑談してるようだ。パーティーの若い男が言う。

「マジだって! 見たんだよ俺! あの湖でこーんなでっかい魚のバケモノと出くわしたんだって!」

「またまた。どうせ木の枝か何かを見間違えたんでしょう?」

 あー、あの兄ちゃんか。ホラ吹きで有名な。このギルドじゃちょっと知られた存在だ。ま、本人もわかっててネタでやってるみたいだけどな。

 アンジェラも慣れたもので、軽くあしらっていく。それをフリと思ったのか、男が力強く熱弁を振るう。

「いーや! あれは絶対でかい魚だったね! 俺の見たところ、あれはあの湖の主だね!」

「はいはい、その話はまた後でね」

 ひらひらと手を振ると、アンジェラは指をピストルの形にして男に向け、ウィンクしてみせた。

「証拠の一つもないんじゃあ、信じらレーナちゃんだゾ☆」

「……は?」

 瞬間、周囲の空気が凍りつく。な、なんだそれ? 信じらレーナちゃん? そのポーズといい、BBAムリすんな臭がプンプンするセンスなんだけど……。当のアンジェラも、「あ、あら?」とか言いながら困った笑みを浮かべてる。アンジェラさん、何かツラいことでもあった?

「ぶははははは!」

 と、静寂を引き裂くかのように近くにいたパーティーのおっさんたちが爆笑しだした。目元の涙を拭きながらアンジェラに言う。

「おいおいアンジェラちゃん、よくそんなの知ってるな! 今の若いのにはわからんだろ、それ!」

「それ、俺たちがガキの頃にはやった流行語だぜ? アンジェラちゃん、ホントは歳いくつなんだ?」

「あ、あら、そうだったかしら? おほ、おほ、おほほほほ!」

 明らかに四十は越えてそうなおっさんたちにからかわれ、あの沈着冷静なアンジェラが冷や汗を流しながら笑ってごまかす。そういやオレ、アンジェラの歳って聞いたことないな……。てっきり二十代前半かそこらと思ってたけど、実は意外とステラより年上だったりするのかね……。

 そのアンジェラがオレたちに気づき、コホンと一つせき払いをする。いや、別にオレたち気にしてないって。

 ホラ吹き一行を送り出し、入れ替わりに近づくオレたちにバツが悪そうな顔をしながら声をかけてくる。

「お……おつかれさま。……さっきのは、気にしないでね?」

「しないしない。別に気にしてないって」

「アンジェラがオバさんっぽいのは今に始まったことじゃないしね~」

 バ、バカ! 余計なこと言うな! ほら、アンジェラからなんかオーラみたいなのが出てる!

「……リアちゃん、それはいったいどういう意味かしら?」

「ご、ごめんなさい」

 わりとマジで気にしてるっぽいアンジェラの謎のオーラを前に、リアが一転してブルりながら謝る。

 そのまま怯えながらステラの後ろに隠れるリアはほっといて、オレとステラで今回のクエストについての報告や次回のクエストの話を進めていく。つとめてクールに事務的に仕事をこなしていくアンジェラの姿に、こりゃマジで気にしてんだなと思ったが、決して口には出さなかった。命惜しいし。


 

 一通り用事がすんだところでギルドを出ようとすると、ステラが恥ずかしそうに言った。

「あ、あの、すみません……」

「ん? どうした、ステラ?」

「私、ちょっとお手洗いに行ってきてもよろしいでしょうか……」

「ああ、いいぜ。オレらここで待ってるから行ってこいよ」

「はい、すみません……」

 そう言って、ステラがやや急ぎ足でトイレの方へ歩いていく。美人がトイレ……うん、何かこう、ずいぶんとそそるものがあるな。あの恥ずかしがりよう、ひょっとして大かな? 恥ずかしがる女の子ってイイよね。

「ルイ、今もしかしてすんごくヘンタイなこと考えてない?」

「い”!? いや!? オレなんにも考えてないぜ!?」

 なんだよコイツ! ムダに鋭いな! じゃなくて、別にオレは変態なことなんかこれっぽっちも考えてねーぞ!?

 反論しようとするオレに、冷たい目を向けながらベティちゃんが一言ボソリとつぶやいた。

「……不潔です」

「ぐはぁ!」

 ひ、ひどい! 別にオレ、ステラさんカワイイねくらいのことしか思ってないのに! てか、そのゴミでも見るような目はやめて! マジでヘコむから!

「さーて、ヘンタイは放っといて……」

「だーから、そんなんじゃねーって!」

「ベティ、今日はどんな店がいい?」

「話聞けよ!」

「そうですね、わたしは……」

「ベティちゃんまで無視かよ!」

 いつの間にかやたら息が合ってんな、コイツら! オレの立ち位置がいよいよあやしくなってきたじゃん!

 周りも騒がしい中そんなやりとりをあれこれとやっていたオレたちだったが、そんな雑然としたギルド内が、突如凍りついたかのように静まり返った。何事かとオレたちはギルド内を見回し、入り口の方を見たところで硬直した。

「ひ、『氷帝』……」

 入り口から入ってきたのは、表情がピクリとも動かないクールビューティー、『氷帝』セルヴェリアだった。結構混んでいたギルド入り口付近の人ごみが、無言でサーッと割れていく。まるでモーゼみたいだな……。

 思わぬ人物の登場に、ついさっきまでヒートアップしていたオレとリアが縮みあがる。見れば、多分初対面のはずのベティちゃんも顔を真っ青にして立ち尽くしていた。

 てか、なんかこっちに向かってきてないか、アレ? いや、絶対こっちに来てるよ! ヤベェ、オレらなんかマズいことでもしたのか!?

 足音一つ立てずにこちらへと近づいてくる『氷帝』。間近までやってきた彼女に、オレはとにかく全力で礼をする。

「ちわっす! お、おつかれっしたー!」

「し、したー!」

 オレは九十度どころか額がスネにつくぐらいの勢いで、渾身の礼を繰り出す。地元の不良はとりあえずそうしとけばオッケーだったんだよ! リアもオレのマネして、必死に舎弟風の礼をする。

「……」

 あ、頭の上の方から例のうめき声が聞こえてくる! こ、ええ! 頭下げてるからオレたちに向かって言ってるのかわからねーけど!

 オレたちに一声かける(?)と、『氷帝』はそのまま通り過ぎて受付の方へと歩いていく。頭を上げると、『氷帝』はアンジェラと何事か会話を交わしてそのままゲートの方へと去っていった。

「こ、恐かったぁ~」

 カタカタと細かく震えながらリアが言う。オ、オレもチビりそう……てか、ちょびーっとだけチビったかも。

 オレとリアが顔を見合わせていると、ベティちゃんがいつになく震える声で言った。

「な、ななな何ですか今のは!? わたしとしたことが、恐怖で身動き一つできないだなんて……!」

「あ、やっぱベティちゃんも怖かった? 今のは『氷帝』っつって、このギルドのトッププレイヤーなんだよ」

「私らもこの前いっしょにクエストしたことがあるんだけど……。もしかしたら、またいっしょになるかも……」

「あ、あの人といっしょに!? い、いえ、別に怖がってなどいませんよ? そう、このギルドにはあんな化け物がいるんですね……」

 真っ青な表情のまま、ベティちゃんがぶつぶつとつぶやく。お城でも全然ビビんなかったあのベティちゃんをここまでビビらせるとは、やっぱ『氷帝』マジパねぇ……。

「皆さん、お待たせしました」

 と、トイレから戻ってきたステラがこちらに戻ってきた。ああ、この優しい声、癒されるなあ。すっと現実に引き戻されていくよ。

「ステラってば、ズルい~! 今私たち、『氷帝』と出くわしてスゴい怖かったんだよ!?」

「あら、そうだったんですか? 私もごあいさつしたかったです」

「ステラは『氷帝』に会ったことないからそんなのん気なことが言えるんだよ! もうホンットに怖いんだから! ね、ベティ!」

「わ、わたしは別に怖くなんか……。でも、これに関してはリアさんにおおむね同意です」

 リアに話を振られ、ベティちゃんが強がりながらもリアの意見を肯定する。ま、オレも同感だけど。てか、ステラがビビる顔ちょっと見てみたいな。で、「ルイさぁ~ん、助けてぇ~ん(はぁと)」みたいな感じでオレに抱きついてきたりして……ぐへ、ぐへ、ぐへへへ……。

「……ルイ、マジでキモい……」

「本当ですね……」

「ひ、人目があるところでは少し気をつけた方がいいですよ?」

「ぐっ!?」

 ヤバい、オレの思考が外に漏れてたのか!? 女性陣の厳しすぎるまなざしに気づき、オレは慌ててキリッとした顔を作る。

「さ、さて、それじゃ打ち上げ行こうか! どこにしよっかな~」

「全然ごまかせてないんだけど……。まあいっか、バカは放っといて早く打ち上げ行こ!」

「ですね」

「もう、ルイさんったら……」

 三者三様のリアクションがオレの精神にきっちりダメージを与えてくれるぜ……。

 それはさておき、オレたちはアンジェラにあいさつしてギルドの外へと繰り出していく。やっぱまたやるのかな、『氷帝』との特訓クエスト……。





今回は少し遅れてしまったので、分量をいつもの倍近くにしてお送りします。


先日モンスター文庫大賞の二次選考がありましたが、本作は残念ながら落選となりました。応援してくれた皆さん、ありがとうございました。まずは本編をしっかり進めていきますね~。

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