3-3 王様、アンタもかよ!
突如ドカンと開かれたドア。驚くオレたちの視線の先にいたのは、微妙にだらしない腹をした、これまただらしない顔のおっさんであった。我らが国王、アンリ4世陛下サマである。……4世で合ってるよな?
盛大に吹いたお茶を拭き拭きしながら王様にあいさつしようとした矢先、王様があたりをキョロキョロしながら大声あげだした。
「ねえ、どこ!? 新しい子、どこどこ!?」
いつものことながら、今日もマイペース全開だな王様!
そんな王様に、ニヒルな笑みを浮かべながらリシュリューさんが言う。
「そんなにはしゃがないでくださいよ、陛下。逃げやしませんって」
「おお、そうでした!」
リシュリューさんの言葉に、王様がピタリとへんちくりんな動きを止める。
それから、ようやくオレらに気づいたかのように声をかけてきた。
「やあ皆さん、ひさしぶり! 元気だった?」
「ええ、まあ……」
アンタには負けるけどな。
席から立ち上がるとリアとステラが王様にあいさつし、そしてベティちゃんが王様に頭を下げるとそのままうつむく。
そんなベティちゃんに気づくと、王様は無遠慮に顔をのぞきこもうとしながら声をかけた。
「おお! キミが新人ちゃんですか! はじめまして、王様のアンリです!」
テンション高く王様があいさつする。なんか全然王様っぽくないあいさつだなあ……。
ベティちゃんも面食らったんだろうな。なんかもじもじしながらあいさつする。
「はじめまして、ベティと申します……」
「うんうん、ベティちゃんね! ねえ、もっとちゃんと顔を見せてよ!」
やたら大きな声で言うと、王様はベティちゃんにそううながした。まあ、あいさつはちゃんと相手の顔を見てっていうしなあ。
王様の言葉に、いかにも渋々といった様子でベティちゃんが顔を上げる。気持ちはわかるけど、あんまり失礼のないようにな。オレが言えた義理じゃないけど。
伏し目がちに顔を上げたベティちゃんを、王様が無遠慮にのぞきこむ。この人もデリカシーがないというか……。
「ん~……?」
ベティちゃんの顔を見ながら、王様が不思議そうに首をひねる。なんだ、なんかオレ、この流れ今日何度も見てる気がするぞ……?
そんなオレの予想通りの言葉を王様が口にする。
「ねえベティちゃん、君どこかで僕と会ったことない?」
やっぱりだよ! アンタまでナンパかよ! もういいよこのくだり! この国じゃあナンパはこのセリフがデフォなのか!?
てか、この王様いっつも手当たり次第に声かけてやがるよな! 初めて会ったときもいきなりステラをナンパしやがったし! とぼけた顔して、やることやりやがって!
当たり前というか、めっちゃ困った顔でベティちゃんが頭をたれる。
「めっそうもございません。わた……わたしのような者が、陛下の御前になど……。陛下のご尊顔、拝謁恐悦至極にございます」
だよな、王様となんて会えるわけないじゃん! フツーはよ。いくらテンプレのナンパゼリフとはいえ、そりゃいくらなんでも無理があるってもんっすよ、王様。
てか、ベティちゃんのセリフがやたらカタい……。まるで城に初めて来たときのステラみたいだ……。マジメな人ってのは、言葉づかいからして違うモンなのかねえ。
やたらと堅苦しいベティちゃんに、王様が手をぶらぶらと振る。
「いーよいーよそういうのは。僕まで疲れちゃうから。まあ、ギュス君はそういうのうるさいけどさ」
そう言いながら、王様がギュス様をチラリと見る。まあ、ギュス様とベティちゃんならフインキ的にはイイ感じかもな。
困った顔をするギュス様をよそに、王様はリシュリューさんに尋ねる。
「でもさ~、どこかで見た気がするんだよね~。リシュリュー君、君はどう?」
「どう? って陛下、俺が知るわけないでしょう」
首をひねりながら、リシュリューさんが肩をすくめる。オレもそこに乗っかった。
「そっすよ、王様。庶民が王様に会う機会なんてないんすよ? フツー」
「そっかなー、気のせいかなー」
なおも不思議がる王様に、リシュリューさんが忠告する。
「そのくらいにしといた方が身のためですよ、陛下。これ以上となると、さすがに俺も王妃様にご報告しないわけにはいかなくなりますから」
それを聞いて、ずっとウキウキしていた王様の表情が凍りつく。
直後、聞いたことないような震え声でリシュリューさんにしがみついた。
「それだけはやめて! もう言わないから!」
「はいはい、大丈夫ですよ。俺だって王妃様の怒りモードを見るのはごめんですからね」
な、何が起こるっていうんだ、王妃様が怒ると……。何やら薄ら寒いものを感じ、オレのみならずリアもすくみあがる。しっかし、こんな王様の姿、初めて見るな……。
安心したのか、王様がリシュリューさんから離れる。服を整えると、チョイ悪はベティちゃんに向かってウィンクしやがった。このオヤジ、単にアンタが狙ってるだけじゃねーか! 嫁さんにチクるぞ!
そんなオレの視線には目もくれず、リシュリューさんは王様に尋ねた。
「陛下、立ち話はこのくらいにして、とりあえず茶でも飲みませんか? ほら、お前らも突っ立ってないで座れよ」
「あ、は、はい」
「う、うっす」
リシュリューさんにうながされ、オレたちはふたたび席につく。リシュリューさんも席をずらし、お誕生日席には王様が座った。
「さーて、それではお茶でも飲みましょー!」
いっしょについてきたメイドのハルミさんにお茶を注いでもらうと、王様が陽気に言う。あーあ、なんだかオレ、さっそく疲れてきたよ……。
先日モンスター文庫大賞の一次選考が発表されましたが、本作も無事通過できました。応募した他の2作も通過しており、今までの中ではいくらか期待ができそうです。本作の一次通過は3回目なので、ぜひとも三度目の正直といきたいものです。
今後も地道に投稿をがんばりたいと思います。




