3-2 チョイ悪オヤジと三つ編み娘
あけましておめでとうございます。投稿が遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします。
ギュス様の案内で、オレたちは調査隊の隊長室にやってくる。なんだかこの道もすっかり覚えちゃったな。
リッパな扉の前に立つと、ギュス様がノックして部屋の中の人物に声をかける。
「ギュスターヴです。皆さんをお連れいたしました」
「ああ、入ってくれ」
室内から渋い声が聞こえてくる。その声に、ギュス様が扉を開いてオレたちを中へと招き入れてくれる。いや、ホントすいませんね……。
「よう、久しぶりだな」
部屋の中に入ると、アゴにオシャレなヒゲを生やしたチョイ悪そうなオヤジが立っていた。調査隊隊長のリシュリューさんだ。
「どうも、お久しぶりっす」
「こ、こんにちは……」
「お久しぶりです」
「ああ、楽にしろよ。オレとお前らの仲だろ?」
軽いノリでリシュリューさんがニヤリと笑う。このチョイ悪オヤジ、チョーエラい人だってのに相変わらずだな……。
そのリシュリューさんが、オレの後ろに視線を向ける。
「お、そっちの嬢ちゃんが例の新人か」
「うっす」
あ~、見つかっちゃった。オレ、この人にこそ「ナンパすんな」って釘さしておきたいんだよなあ……。いや、ムリだけどさ。
ほら、やっぱこのオッサンめっちゃ食いついてる……。こっちに近づいてくると、オヤジが無遠慮にベティちゃんの顔を覗きこむ。
「どれどれ……ほお、ずいぶんと上玉じゃねえか」
ほらやっぱり! てか、この城の連中ナンパのことしか考えてねえのかよ!
こちらを振り向くと、ニヤリと笑いながらオレに向かって言う。
「ルイ、またいい女が増えたじゃねえか。ハーレム街道まっしぐらだなおい」
「そんなんじゃありませんって!」
思わず大声で否定する。気楽に言ってくれてんじゃねーよ! なんかオレ、ベティちゃんに嫌われてるっぽいし、気苦労がさらに増えてるんだよ!
そんなオレの気も知らず、リシュリューさんはふたたびベティちゃんの方を見る。おい、マジで手を出すんじゃねーぞ?
「さて、それじゃ気を取り直して……ふむ……?」
声をかけようとして、オッサンがふと考えこむような素振りをみせる。さすがに初対面でいきなりナンパはマズいとでも思ったのか?
「お前さん、どこかで……」
やっぱソレかよ! てか、アンタらナンパの仕方がワンパターンだな!
そこへすかさず、話をぶった切るかのようにベティちゃんが自己紹介する。
「はじめまして、リシュリュー様。ベティと申します。よろしくお願いいたします」
「……そうか、よろしくな」
早口の自己紹介に、リシュリューさんが意味ありげな笑みを浮かべる。ベティちゃんのつれない様子に、さすがのオッサンもあきらめたか? それにしてもベティちゃん、こんなお偉いさんを前にしても動じないな……。スゲえ大物っぷりだぜ。
「あの、ところで用事って……」
ベティちゃんが迷惑そうにしてたので、ここはオレがバシッと言ってやる。するとオッサンは、は? って顔でこっちを振り向いて言った。
「用事? この子に会いたかっただけだぜ? 俺は」
それだけかよ! やっぱナンパ目的じゃねーか! これだからこのオッサンは!
オレがギロリとニラむと、オッサンがガハハと笑う。
「冗談だよ、ジョーダン。お前らがどのくらいレベルアップしたのか聞こうと思って呼んだんだ」
「はあ、そうだったんすか」
「そういやお前ら、この前あの『氷帝』といっしょにクエストしたんだってな? どうだ、バケモノだったろ? あいつ」
「――――!」
記憶の彼方に消えかけていた名を耳にして、オレとリアが凍りつく。ヤバい、その二つ名を聞いただけで震えが……。
「……そうか、お前らよっぽどしぼられたんだな」
こりゃマズったって顔で、リシュリューさんが声をかけてくれる。うう、ホントに怖かったんですよう……。
「あ、あの、リシュリューさんはそろそろ大将軍になられるんですか?」
話の流れを変えようと、ステラが違う話題をふってきた。さすがステラさん、気がきくぜ。
「ああ、来月には就任式があるんだとよ。そん時はお前らも呼ぶかもしれんからな、気のきいたセリフの一つも考えとけよ?」
「う、うっす……」
そんな大事なイベントでスピーチとか、カンベンしてくださいよ。困った顔をしてるオレたちに、ギュス様が笑いかけてくる。
「大丈夫ですよ。皆さんはすでに晩餐会で上流階級の方々にもお顔を知られているのですし、堂々とすればいいのです」
「他人事じゃないぜ? ギュス。お前も隊長になるんだから、ちゃんとスピーチの準備しとけよ?」
「は、はあ……」
オッサンに言われ、ギュス様が頭をかく。そういや、オレたちが初めてギュス様と会ったのってゾンビ討伐でのスピーチだったよなあ……。アンタスピーチ超ウマいんだから別にいいじゃん。
「ほら、お前らいつまでも突っ立ってないで、そこに座れよ」
そう言って、リシュリューさんがオレたちに席を進める。いや、アンタがベティちゃんにちょっかいかけるから座るタイミングつかめなかったんだよ。
イスに座ると、メイドさんがお茶をついでくれる。てか、隊長様ともなると部屋にメイドがついてるのね。ああ、オレもメイド付きの部屋ほしいな……。
「ルイ……?」
「え!? い、いや別に!? オレん家にもメイドほしいなーとか思ってねーし!」
「ふーん……」
し、しまった、つい思ったことを口にしちまった……。リアがあきれた目でこっちを見てくる。い、いいじゃん別に! せっかくならメイドはステラがいいな!
気を取り直してお茶のカップに手を伸ばす。冷めちゃいけないしな。
カップを口に運ぼうとすると、外からパタパタと足音が聞こえてきた。ん、なんかイヤな予感がする……。いや、気のせいだ気のせい……。
気にせずにカップを口につけたその時、部屋のドアがドカン! とぶち開かれた! な、何事!?
「みんな、いらっしゃーい!」
「ぶうっ!?」
思わず口に入れたお茶を吹く。振り向くと、予想通りというか、そこには見慣れた中年の冴えないおっさん……王様が立っていた。




