2-10 パーティー名、決まったぜ!
前回から少し間があいてしまったので、今回はいつもより少しだけ長めにしました。
四人のトークをお楽しみください。
三人がきゃあきゃあ盛り上がっている間に一人女の子のファッションチェックをしているのがバレたオレは、こっぴどくお灸をすえられてしまった。いいじゃんよ、それくらい……。
「ホンットルイって、最っ低-だよねー。さっきクエストでさんざんステラのことジロジロ見てたクセにさー」
「そ、それは仕方ないだろ!? ステラはいつもあのカッコなんだし」
「それにしたってさー、あんなにジロジロ見られたんじゃたまったもんじゃないよねー、ステラー」
「え、いえ、そんなことは、いえ、恥ずかしいですけど……」
もじもじしながら言うステラさんかわいいなー、とか思いながらも、リアとベティちゃんの視線が痛い……。ベティちゃんなんか、リアの言葉にいちいちうんうんってうなずいてるし。どうやらさっそく彼女の中でオレのポジション確定したっぽいな……。
「まあこんなヤツだけどさー、ベティもこれからなかよくしてやってよ。そんなに悪いヤツでもないからさ」
オレはどっちかと言えば悪いヤツ寄りなのかよ! てか、一応この子は「ルイ一行」の名を聞いてパーティー加入を希望してきたはずだろ! なんでそんな扱いになるんだよ!
「……善処します」
いやちょっと待て! がんばらなきゃなかよくなれないレベルなのかよ! アンタ初顔合わせの時、皆さんの理念が素晴らしくてとかなんとか言ってただろ! オレはそこに含まれてないのかよ!
「で、でも、ルイさんにもいいところはありますから……」
うう、ステラさん相変わらずやさしいよう。
ん? でもオレにもいいところはあるって、ビミョーにステラの中でのオレのポジション後退してないか? い、いや、気のせいだ、気のせい……。
そんな感じで肩身せまくイスに座ってると、店員さんが料理を持ってきた。おお、と声を上げるリアの目の前に、店員さんが手際よく皿を並べていく。なるほど、ベティちゃんは魚料理を選んだのか。リアもベティちゃんと同じもの、オレの目の前にはステラと同じ肉料理が並べられる。
「おー、さすが久々のモンベール。おいしそうだねー」
両手にナイフとフォークを構え、リアが今か今かと待ち構える。そんなにしなくたって、料理は逃げていかねーぞ。
「それじゃ、いっただっきまーす!」
「いただきます」
みんなであいさつすると、待ちきれないとばかりにリアが猛然と料理を口に放り始める。なんか腹すかした幼稚園児みたいだな……。ま、いいや。オレも冷めないうちに食っちゃおっと。
クエスト後ということもあり、オレたちはうまいうまいと言いながら皿の食事をどんどん食っていく。てか、やっぱモンベールのメシはウマいぜ! 久々だからなのか、文字通り箸が止まらない状態だな。いや、箸ないけどさ。
しっかし……。リアはもう少しキレイに食えないのかねえ……。オレも魚そんな上手に食えないけどさ、なんかせっかくキレイに盛りつけられた魚が、見るも無残な姿になってるのを見ると気の毒になってくるっていうか……。
同じ料理を食ってるだけに、ベティちゃんの食べ方のキレイさがより際立つぜ。魚もキレイに骨だけ残して、皿の汚れも全然ないし……って、いくらなんでもキレイに食いすぎじゃないか? てか、食べる姿勢からしてメチャメチャキレイというか、サマになってるよな……。
「ベティちゃん、食べ方メチャクチャうまいな。しつけに厳しい家なの?」
オレが聞くと、ベティちゃんは左のまゆをピクリと動かした。
「何を言っているんです。こんなことは当たり前ではないですか」
「いや、当たり前じゃないヤツがそこに……」
「そこ? ってリアさん、あなた何をしてるんですか!」
「ふぇ?」
オレがリアを指さすと、ベティちゃんがその惨状に思わず叫ぶ。これはあれだな、今の今まで無意識にリアの皿を見ないようにしていたんだな。
間抜けな声を出して振り向くリアに、ベティちゃんの声がキンキンモードになる。
「ふぇ? じゃありません! なんですかその食べ方は! あなた女性でしょう? お食事くらい綺麗に食べることができなくてどうするんですか!」
「えー、ベティってば、オバさんくさーい。いいじゃん、どうせ最後はお腹の中に入っちゃうんだしさー。それに、今どき男も女もないって。だって、私たちより強い男なんてそうそういないじゃん?」
「そういう問題ではありません! まったく、これだから……」
「もー、お堅いなぁ」
おー、ベティちゃんってこういうことにはうるさいんだな。オレも怒られないように気をつけなきゃな……。
てか、うちのステラもすごくキレイに食べるけどさ、ベティちゃんのはホント正式な作法って感じだよな。言ってることも結構古風だし、やっぱ頑固オヤジと教育ママ的な家の子なのかね……。ま、そうだとするとなんでこんな冒険者なんかやらせてるのかがナゾなんだけど。
「ところで」
料理を食べ終えたベティちゃんが、口元をお上品にぬぐいながらオレたちに聞く。
「ん、なになに?」
「このパーティーなんですが、名前はないのですか?」
「名前?」
「そうです。ないとなにかと不便です。というよりも、わたしが不便でした。なにせパーティーに入ろうにも名前がないのですから」
「あ、そうだったの? なんかゴメン」
思わず頭を下げる。そういえばパーティーの名前なんて考えたこともなかったな。基本オレとリアがつるんでるだけだし、ステラもすぐになじんじゃったし。
ベティちゃんの問いに、リアがはいはーいと手をあげる。ああ、絶対ロクなこと言わないなこれ。
「じゃあさじゃあさー、『美少女盗賊リアちゃんとそのなかまたち』でどお?」
「どお? じゃねえよ! ダメに決まってんだろ!」
「えー? なんでさー! 私の名前なら、シティでも通りがいいじゃん」
まあ確かにそうだけど……って、ダメだダメ! うっかり納得するところだったぜ! まあ、さすがにステラですら困った顔をしてるのを見て、リアもあきらめたみたいだけど。
オレもなにかいいアイデアないかなーと考えていると、ステラが口を開く。
「私としては、やはりルイさんを前面に押し出すのがいいのではないかと思うのですが。このパーティーの精神的支柱はルイさんですし、対外的にも一番よく知られていますから」
オ、オレのことをそんな風に思ってくれていただなんて! さすがステラさん! よくわかってる! 結婚しよう!
「まーねー、確かにそうだよねー。ベティもルイが目当てで来たっていうしさー」
「べ、別にわたしは目当てとかそういうことで来たわけではありません!」
金切声で抗議するベティちゃんをよそに、リアも渋々といった調子でうなずく。
「じゃあさー、フツーに『ルイ一行』でいいんじゃない? 今までもわりとそう呼ばれたりしてたし」
「いや、それはテキトーすぎるだろ!」
てか、オレが恥ずかしいわ! もう少しカッコいいの考えてくれよ!
「じゃあルイもなんか考えてよー」
「え? そ、そうだな、う~ん……」
何かないかなーとうんうん考えこんでいると、ベティちゃんが口を開く。
「では、『夜明けの詩』というのはどうでしょうか? 詩人というルイさんのイメージを盛りこみつつ、新たな未来を切り開く、そんなメッセージをこめてみたのですが……」
へえ、カッコいいじゃんそれ。オレがいいねとホメようとしたその時、リアが席からガタッと立ち上がって叫んだ。
「いい! それいいよ! すごいじゃんベティ! 超カッコいい! センスあるよ! ナイス中二!」
「ちょ、ちょっと!? 中二って、あなたねえ!」
目をキラキラさせながら絶賛するリアに、ベティちゃんが猛然と抗議する。この前も思ったけど、中二病の概念はあるのね、この世界……。
ベティちゃんの言葉にはロクに耳も貸さず、照れなくていいってー、とか勝手なことを言ってるリア。ま、どうやらリアは気に入ったみたいだけどさ……。
と、二人を見ながらほほえんでいたステラが口を開く。
「私も素晴らしいと思います。ベティさんの言う通り、ルイさんの特徴と私たちの行動理念が端的に表現されている、私たちにふさわしいパーティー名だと思います」
おお、ステラも太鼓判を押す出来か。ま、文句ナシだよな。オレ全然代案思い浮かばないし。
「よし、それじゃそれで決まりだな! ナイスネーミングだったぜ! ベティちゃん!」
「そ、それほどでも……」
おー、照れちゃって、カワいい!
「でもアレだよな、新たな未来を切り開くって、オレらってそんなスケールのデカいパーティーだったっけ?」
「当然です! このわたしが入るほどのパーティーなのですから、当然そのくらいのことはやってのけてくれないと困ります!」
「ひッ!?」
冗談めかしてオレが言うと、ものスゴい剣幕でベティちゃんがまくし立ててくる! ひぃ、ごめんなさい! てか、オレらそんなスゴそうなことを目標にしなきゃいけないの?
若干おびえるオレから目をそらすと、ベティちゃんがぼそぼそとつぶやく。
「まったく、あなたはこのわたしが認めるほどの方なのですから、その程度のことはできて当たり前なのです……」
「え、まだ何かあるの?」
「なんでもありません!」
「ご、ごめんなさい!」
なんでオレこんなに怒られてるんだ? まあでも、カッコいいパーティー名も決まったし、よしとするか!




