2-9 久しぶりで、なんか緊張するぜ!
リアとベティちゃんを追いかけてギルドから出ると、外は太陽がだいぶ下りてきたところだった。もう夕方なのか、どおりで腹が減ったわけだ。
ベティちゃんとじゃれ合ってるリアは放っといて、オレはステラに聞いてみた。
「なあ、店はどこに行く? いつもの喫茶店か?」
「そうですね、あそこでいいのではないでしょうか」
「まあ、それが無難だよな」
「あの、それなんだけどさぁ」
うなずき合ったオレたちに、リアが言う。
「せっかくなんだしさ、今日は久しぶりにモンベールに行かない?」
「モンベール?」
リアの言葉に、オレとステラが少しびっくりする。そう言えば、石像野郎に負けて以来長いこと行ってなかったな。
「でも、しばらくあそこはガマンするって話じゃなかったか?」
「今日だけ! 今日だけ特別に! ベティも来てくれるんだしさ」
その言葉に、オレとステラも少し考えこむ。う~ん、そうだよな。せっかくのお祝いだし……。
ステラにも聞いてみよう。
「なあ、どうする? オレは今日くらいモンベールでベティちゃん祝ってあげてもいいかなって思ってるんだけど」
「そうですね、おめでたい席なんですし、私も今回はモンベールがいいかなと思います」
「やった! それじゃ行こ! モンベール! ほら、早く早く!」
「だ、だから手を引っぱらないでください!」
あーあ、モンベールに行くって決まったとたんにはりきっちゃって。ベティちゃんにも見せたいんだろうな、モンベール。
どんどん先へ進んでいく二人を、オレとステラも苦笑しながら追いかけた。
「ひ、久しぶりだとなんだか少し緊張するね……」
「そ、そうかもしれませんね……」
「だな……」
モンベールのおしゃれな入り口の前で、オレたちはしばし立ちすくむ。思えば近頃は高級店どころかお城にもちょいちょい行ってるってのに、なんでお店に入るくらいでこんな緊張するのかね……。
「あの、皆さん、まだ入らないんですか?」
「あ、そうだよな。うん、じゃあ入ろうか」
ベティちゃんにうながされ、オレたちは恐る恐る店のドアを開く。
なんだか全然動じてないな、ベティちゃん……。実は常連なのか? モンベールの。これじゃまるでオレたちがベティちゃんのお供みたいだよ……。
ドアを開けると、ダンディなおじさまが声をかけてくる。
「いらっしゃいませ。これは皆さま、お久しぶりですね。お席へご案内いたします」
「ど、どうも……」
「失礼します……」
さすがモンベールのベテランウェイター、ちゃんとオレたちのこと憶えてるよ。この人だって、オレたちと会ったのはまだ三、四回くらいだろうに。やっぱ高級店の店員ってのは、よく訓練されてるんだな……。
おじさまが窓際の結構いい席へとオレたちを案内してくれる。オレたちもその後についていくんだけど、ベティちゃん、ずい分堂々としてるな……。やっぱ常連なのかね。
席について水をもらうと、オレたちはなぜか一斉にため息をつく。
「はあ、なんだかもう疲れちゃった……」
「なんていうか、初めてモンベールに来た頃を思い出すよな……」
「そうですね……」
そう言って、三人で顔を見合わせる。なんなんだ、この緊張感は……。
それから、ただ一人どこ吹く風とばかりにメニューに目を通すベティちゃんに聞いてみる。
「ベティちゃん、モンベールにはよく来るのか? なんかずい分と慣れた感じだけど」
「いいえ、今回が二度目です」
メニューに視線を落としたまま、ベティちゃんがサラッと言う。マジで? タダでさえオレらみたいな初対面の人間に囲まれてるってのに、この子度胸よすぎじゃね?
「それにしちゃ落ち着きすぎじゃないか? あ、もしかしてモンベールは二度目だけど、このクラスのお店にはよく行ってるとか?」
「いえ、わたしはあまり外で食事はしませんので」
そうなのか? Bクラスだからそういういい店によく行ってるのかと思ったんだけど。うーん、やっぱりよくわからん子さね。
「ほら、あなたたちも決めなくていいのですか?」
「あ、そ、そうだな。じゃあオレは、えーっと……ステラと同じものを」
「え、私とですか!? そ、それでは、本日の紅茶とこちらのものを……」
急に言われ、ステラが慌てて品物を選ぶ。隣のリアが非難がましい目でオレをニラんできた。
「ルイ、なんで自分で決めないのさ」
「だって、ステラが選ぶものなら間違いがないだろ」
「あ、そっか。じゃあ私はベティと同じものにするね」
「な、どうしてそうなるのです?」
「いや~、ベティの直感を信じてみようと思って」
「はあ……まったく、あなたという人は……」
そう言って、ベティちゃんがやれやれとため息混じりに首を振る。なんていうか、もうすっかりコンビができあがってるな。あれ、でもそうなるとオレの立ち位置はどうなるんだ? ま、いいか。オレはステラとよろしくするってことで。
「でもさー、ホント久しぶりだよねー、モンベール」
「そうですね。やっぱりこのお店は素晴らしいです」
「それについては、わたしも同感です」
「おー、話がわかるじゃんベティ。今日は思い切って連れてきた甲斐があったってモンだよ」
女三人、さっそくモンベールの素晴らしさについて語り始めてる。こうなるとオレの入る余地がないんだよな……。仲がいいのはいいことなんだけどさ。あーあ、早くメシ来ないかなあ……。
「お客さんも、夏だからか薄着の方が多いですね」
「あ、あの人なんかヘソ出しルックだよ? スゴいね、私もやろうかな」
「およしなさい、お腹を壊しますよ」
「えー、だってステラはいつももっとスゴいカッコじゃーん。大丈夫だよ」
「わ、私のは神様のご加護がありますから……」
あまりにヒマなので、三人娘の話し声をBGMにオレもお客をチェックする。確かに薄着の姉ちゃんが多いわな。あの子も肩を丸出しにしちゃってさ。向こうの姉ちゃんはホットパンツだし。やっぱ夏は人を開放的にさせるのかね……。眼福、眼福……。




