2-7 下着のヒ・ミ・ツ
「ぜぇ、ぜぇ、ベティちゃん、なかなかやるね……」
「はぁ、はぁ、あなたこそ……」
川の中ほどで、お互い肩で息をしながら二人が見つめ合っている。どうやら水かけ合戦も終わったようだな。
てか、案の定二人とも濡れネズミだよ。あーあ、言わんこっちゃない。
「お二人とも、そろそろ上がってくださいね。今火を起こしますから。ちゃんと服を乾かしてくださいね」
ステラの声に、リアが駄々をこねる。
「え~、せっかく涼んだのに~。こんな暑いとこで火なんて焚かなくてもいいよ~」
「ダメですよ、カゼを引きますから。着替えもないでしょう?」
「そうだけどさ~。ステラのケチ~」
言ってる事がホントガキんちょだな、あいつは。それにしてもステラのしっかりした事。オレ、嫁さんはこういう人がいいなあ。
ステラに言われて、リアがしぶしぶ川から上がってくる。ベティちゃんもそれに続く。
「あーあ、もうびしょ濡れだよ~」
そう言いながら、リアが頭をプルプルと振る。うん、ベティちゃんも濡れてるけど、リアはもうびしょびしょだ。この勝負、ベティちゃんの勝ちだな。
とは言っても、ベティちゃんも結構濡れてるんだけどな。ほら、あのスカートのあたりとか……って、うおおお!? スカートが水にぬれて太ももにピッチリ張りついてるぞ!? ヤバい、実に健康的だ! エロい!
「ちょっとルイ、アンタ何ジロジロ見てんのさ」
くっ、相変わらず鋭いな! いいだろ、別に減るモンじゃねえんだし! 誰もお前のまな板なんか見ないから安心しろ!
一通りオレを威嚇し終えると、ステラの方に向かってリアがぼやく。
「いーなー、ステラは。そんなカッコしてれば濡れるとか関係ないもんね」
「そ、そんな事言われても困ります」
ジトーッとステラを見つめると、リアは短パンをつまみながらため息をついた。
「あーあ、これ、きっとパンツまでグショグショだよ……」
まーそうだろうな。そんだけ水かぶりゃあなあ……って、ちょっと待て?
「お前、今、パンツがどうのとか言わなかったか?」
「何? 今度は私? 見せないよ?」
誰が見るか! いや、そうじゃなくてだな!
「お前、パンツはいてんの?」
「はあ……?」
一瞬、何言ってんだコイツって顔でリアが固まる。そしてすぐに、満面の笑みをその顔にたたえながら、リアはオレのそばに寄ってきた。そして……。
「ぐはあぁぁぁああっ!?」
オレの腹に、拳がめりこんだ。
「がっは、し、死ぬ……」
「いくらなんでも、女の子に聞いていい事と悪い事ってものがあるでしょ」
「いや、確かにそうだけど……オレが言いたいのはそういう事じゃなくて……」
「そういう事じゃなければどういう事?」
「す、すいません……」
再び拳を振り上げるリアに、オレはひとまず謝る。だって、痛いし。
で、あらためてオレの驚きの原因について聞く。
「オレが聞きたかったのはさ、女物の下着なんて売ってたのか、って事」
それを聞いて、リアが笑顔のまま拳をおろす。そして、
「あっはははは!」
爆笑しやがった!
「ルイったら、バッカでー! そんなの売ってるに決まってるじゃん!」
「知らねーよ! だって男物の下着なんて売ってねえじゃねーか!」
「そりゃ別に男に下着なんていらないじゃん。でもだからって普通、女の子の下着を知らないって……」
そこまで言って、急に憐れむような目でオレの事を見やがる。な、なんだよ?
「あー、そっかぁ。ルイ、女の子と服を買いに行くなんて機会ないもんねー。そりゃ女性向け下着なんて見かける機会もないか。その年で下着を知らないとか、かわいそー」
とか言ってクスクス笑いやがる! 腹立つなコイツ!
「てか、なんで女には下着があって、男にはないんだよ!」
「そんな事知らないよ。だって、男が下着はいててもキモいじゃん」
キ、キモいって……。あ、こいつらは女物のパンティーしか知らないのか。そりゃ確かにキモいな。
「じゃ、じゃあさ、ブラもあったりするのか?」
「ブラ? ブラジャーの事? そりゃあるに決まってるじゃん。てゆーか、もしかして今までないと思ってたの?」
普通に通じるじゃねーかブラジャー! ビキニは通じなかったのによ! こっち来て結構長いってのに、いまだにわけわかんねえ!
ひとり混乱するオレに、リアがなぜか冷たい視線を向けてくる。
「て事は、もしかして今までステラの事、ノーブラだと思って見てたって事……?」
「え? ああ、うん……」
「えっ……」
思わずうなずいたオレに、火を焚く準備をしていたステラが顔を赤くして胸元をかばう。え? ヤバい、オレうかつな事言った? てか、さっき「ブラ」の意味を聞いてきたわりには「ノーブラ」なんて単語は知ってるのな!
「じゃ、じゃあアンタは、今の今まで私たちの事ノーパンノーブラだと思って見てたって事……? そんな痴女みたいなカッコしてると思って……」
「ち、違う! 誤解だ! いや、知らなかったんだ! 悪気があるわけじゃないんだって!」
再び拳を振り上げたリアに、オレは必死で言い訳する。だって、拳がめっちゃ震えてるんだもん! ごめんなさい! お願いだから許して! ホントに知らなかったんだよう!
涙目で頭を抱え、ぎゅっと目をつぶって懇願するオレ。しかし、いつまでたっても拳は落ちてこない。
「はぁ~、それじゃしょうがないか~」
目を開くと、意外にもそんな事を言いながら拳をおろすリアの姿があった。た、助かった……。
「でもアンタ、普通に考えればわかる事じゃない? 何もはいてなかったらベティちゃんみたいなスカートはけないじゃん」
「そ、そうだな……」
いやでも、こっちの人たちって長いスカートが多かったしさ……。
そんな事を思いながらベティちゃんの方をチラリと見ると、手でお尻をかばいながら不機嫌そうにこちらをニラんでくる。カワいい……じゃなくて、オレそんな下心ないってば。
いや、でも待てよ? そうなると新たな問題が浮上するぞ? あんなに水で濡れてたら、見えるんじゃないかな、その、パンツの線が……。
「こちらを見ないでください」
「はい、すいません……」
先にクギ打たれちまった。見ないって、言われなくても。そこにグーパン構えてるヤツもいるし。
あ、でも最後にもう一つ疑問が。
「なあ」
「何さ」
「じゃあ今のステラはどういう状態なんだ? あれがもうパンツみたいなモンなのか?」
「え? まあそうなんじゃない? でも直につけたらヘンな感じしないのかな? いや、うーん、どうなんだろ……?」
リアもわからないらしく、カクンと首をかしげる。ビキニアーマーってやっぱ金属だよな? 直につけるのはキツそうだけど……。
リアに聞いても答えが出ないので、オレはステラに直接聞いてみる。
「なあステラ」
「はい、なんでしょう」
「ステラのそれってさ……、素肌にそのまま着けてるの?」
「は、はい……?」
ド直球で聞くオレに、ステラが顔を真っ赤にしながら焚火の手を止める。ヤバい、聞き方がマズかったか!? いっしょに聞きにきたリアも、非難めいた目でオレをニラんでくる。
そんなオレに、ステラが恥ずかしそうに答える。
「ちゃ、ちゃんと下着は着けてますよ? 専用の物ですけど」
「専用の?」
「は、はい。こんな細い布ですけど……」
メチャクチャ恥ずかしそうな顔でステラが説明する。カ、カワいい!
てか、その形状は見覚えがあるな……。
「なるほど、ハイレグでTバックの下着をはいてるのか」
「はいれぐ? てぃーばっく?」
「ああ、こういうキューっとしてケツに食いこむようなキワどいヤツの事だよ」
「ウソ!? ステラ、そ、そ、そんなのはいてるの!?」
「は、はい……」
いよいよ恥ずかしさがピークに達したのか、ステラがうつむいてしまう。くうっ、たまんないぜ!
「そ、そんな事より皆さん、今火をつけますから服を乾かしてください」
「は~い。あーあ、私もそんな下着がはけるようなスタイルになりたいな~」
「も、もうその話は終わりにしてください!」
おお、珍しくステラさんが大声出した。ベティちゃんもあきれたような顔でこっちにやってくる。
オレも長年の謎がついに解けて、なんとも有意義な時間だったぜ。そうか、ステラはTバックか、メモメモと……。




