2-4 ベティちゃんといっしょに初バトル!
詰所からほど近くにある階段を下り、オレたちは四十五階へと向かう。
「四十五階ってさ、どんな所なんだろうね~」
「アンジェラさんが緑の多い階だと言っていましたね」
「まあ、魚を集めてこいってクエストだしな」
そう言いながら、オレは後ろのベティちゃんに聞いてみる。
「ベティちゃんは行った事あるか?」
「……いいえ」
ぶっきらぼうに返事する。やっぱ嫌われてるのかな、オレ……。
「おお、ここが四十五階かぁ~……って、暑っ!」
「なんだよココ!」
階段を下り、ダンジョンの入り口をくぐり抜けると、もわっとした熱風がオレたちの頬を打った。てか暑っ! 東京の夏みたいな暑さだな! オレん家横浜だけど!
なるほど、ここは熱帯風のフロアか……。南国っぽい植生というか、テレビで見るアマゾン的なフインキだ。どおりで暑いわけだぜ……。
リアがさっそくブーたれ始める。
「えー、こんなにあっついの~? ヤダな~。ステラ、そのカッコでよかったね」
「そ、そうかもしれませんね……」
答えるステラも、でも早くもしっとりと汗をかき始めてるな……。てか、ビキニアーマーで素肌に汗が浮かんできて、こ、これはエロい……。
「ねー、ちゃっちゃと片づけよー? 私早く帰って水浴びしたーい」
胸元をパタパタさせながら、リアがそんな事を言い出す始末だし。
「そんなせかすなよ。てか、今日はいろいろとやる事があるんだろ?」
「まーそうだけどさー」
不服そうにボヤくと、リアが先頭に出て例の魚がすむ川の方へと進む。オレたちもその後に続いた。
しばらく歩いていると、リアが手を上げてその歩みをゆるめた。
「どうした? 敵か?」
「うん、あそこに」
そう言って、リアが前方を指さす。どれどれ……?
あ、あいつらか。なんか動く食虫植物みたいなやつが二体と、でっかいクワガタがいるな。てか、あいつスッゲえ硬そうだな……。
「モビルプラントとメガシザーズですか……。私たちの力を確認するにはちょうどいい相手かもしれませんね」
そう言うステラの腕と足には、前に買ったスゴい値段の腕輪と足輪がはめられている。さて、お値段に見合う効果はあるのかな?
「あいつら、まだこっちには気づいてないね。それじゃ、まずはベティちゃんの弓の腕を見せてもらおうよ。いいかな?」
「ええ」
リアの言葉に、一つうなずくとベティちゃんが弓を構える。おお、小柄な体に大きな弓が勇ましいな。
「じゃあオレもいっちょ歌いますか」
ちょっとカッコつけた感じで言うと、オレも竪琴を構えて演奏を始める。
お? 今ベティちゃんがピクッてこっち見た。もしかしてオレのイントロに惚れた?
そんなオレを、リアがジト目でニラんでくる。
「ベティちゃんの前だからって、はりきっちゃって」
「うっせ!」
オレが歌を歌い始めると、弓を構えるベティちゃんの腕にも力がこもる。矢をギリギリと引っぱってる姿がカッコいいぜ。
「はッ!」
気合の声と共に、ベティちゃんの手から矢が放たれた。って、速ええ! いや、矢なんだから速いのは当たり前なんだけど!
放たれた矢は、空を切り裂きながらうなりを上げて植物野郎に迫り……うおお!? モンスターの胴体(?)に命中すると、そのまま体をぶち破りやがった! てか、バズーカかなんかでもぶちこまれたのかってくらいデカい穴が開いてるぞ!? なんつー威力だよ!
「す、凄い……」
「私の投げナイフの比じゃないよ……」
ステラとリアも驚いてベティの方を振り返る。いや、あれは驚くよな……。
ところが、当のベティちゃんはもっと驚いているようだった。自分の両手を見つめながら呆然としている。
「な、何? 今のは……」
「あ、ルイさんの歌は私たちの力を強化してくれるんです。だからベティさんの力も強化されたんだと思います」
「強化って、あなたそんな力を持っていたの!?」
興奮ぎみにベティちゃんが叫ぶ。この子、普段は声が低いのに、興奮すると結構甲高い声になるのな……。
「まあそうらしいぜ。おっと、あいつらも気づいたみたいだぞ」
見ればもう一匹の植物野郎とデカいクワガタがこちらへと迫ってくる。よし、じゃあオレたちもいいところ見せますか。
「それじゃベティちゃん、もう一匹の方も頼むよ。クワガタはステラが片づけてくれるか?」
「はい、任せてください」
「ちょっと待ちなさい、あなた一人では危ないでしょう!?」
「へーきへーき、見てればわかるって。ベティちゃんはあいつをよろしくー」
「わ、わかったわよ!」
少し慌てながら、ベティちゃんが再び弓を構える。その目の前で、ステラが不敵な笑みを浮かべてる。ひ、久しぶりのクエストだから少し高揚してるのかな……?
「それでは、行きます」
静かに告げると、化け物クワガタに向かってステラが猛然と突進していく。てか、毎度の事ながら速ええな! 斧兵って他の職業より足遅いって聞いてるんだけど!
矢のように飛び出していったステラが、みるみるうちに敵に迫る。でも、あいつ硬そうだし、フツーに強そうだぞ?
「はあっ!」
斧を高々と振りかざしたステラが、気合と共にそれを振り下ろす。ガッキィィィン! とメタリックな音を立てたかと思うと……うおぉぉっ!? あの巨大クワガタが、頭から真っ二つになってるよ! なんかキモい緑色の体液がステラにぶっかかって、不謹慎かもしれんがちょっとエロい!
と、オレの視界の隅で一筋の閃光が走る! おお、ベティちゃんの矢か!
矢はまっすぐに植物野郎へと飛んでいき、さっきと同じようにモンスターの体を貫いた。てか、ホントにスゲえ威力だな!
「ふう……」
弓を下したベティちゃんが、深く息をつく。さっきも歌での戦闘力強化にとまどってたみたいだもんな。やっぱ普段より疲れるものなのかね?
そんなベティちゃんに、大声を上げながらリアが駆け寄る。
「ベティちゃん、スゴいよ! あんなに強いなんて!」
「きゃっ!?」
いきなり手を握ってくるリアに、驚いたベティちゃんが悲鳴を上げる。おいリア、そんなにブンブン腕振んなって……。
「ホントだぜ、とんでもない腕だよ」
「べ、別に大した事ではありません……」
顔を赤くしてベティちゃんがそっぽを向く。あれ、もしかして照れてる?
「そんな事ないですよ。あんな援護射撃があれば、私も心底頼もしいです」
「あ、ステラ大丈夫? タオルあるよ」
「ありがとうございます」
向こうから戻ってきたステラに、どこから取り出したのかリアがタオルを手渡す。リアの奴、あいかわらず準備いいな。ステラさん、よかったらオレが拭こうか?
タオルで身体を拭き拭きするステラに、ベティちゃんが少し興奮ぎみに声をかける。
「そんな事よりあなたですよ! なんですか、あのデタラメな威力の攻撃は! あんな硬そうな敵を一撃で倒すなんて!」
「あー、そうだよね。ステラ絶好調じゃん。そのアイテムの効果もあるのかな? 出足めっちゃ速かったよ?」
「そうみたいですね、力もいつもよりみなぎる感じがありました」
「とても病み上がりとは思えない強さだよな。やっぱりオレたちのパーティーにはステラがいないと始まらないぜ」
「そ、そんな……。ありがとうございます……」
おお、赤くなっちゃって……。あいかわらずステラはカワいいな!
「でもさー、スゴいよねー。弓矢の攻撃ってあんなに威力あるんだねー」
「あ、あれは多分歌による強化があったからです。いつもあの威力を期待されても困ります」
「いや、うちに入るんだったらその心配はいらないって。いつもルイが歌ってくれるしね。あの威力ならさ、この前のワイバーンも倒せたんじゃない?」
「ああ、確かにそうかもな。現状空飛ぶ敵には手も足も出ないから、弓兵の存在は大きいな」
「でしょー? ステラもパワーアップしたしさ、このパーティーなら『氷帝』がいなくても五十階行けちゃうかもよ?」
すっごいノリノリな様子でリアが言う。てか、新メンバーの加入を一番渋ってたリアがここまで乗り気になるとはな。
いや、でも確かに気持ちはわかるわ。こんなに腕が立つなら、是が非でもパーティーに入ってほしいもん。カワいいし。
「でも、これじゃ私のいいところが見せられないね。よーし、次はいっちょがんばるかー!」
どうやらリアも対抗意識みたいなものが芽生えてきたようだ。さっそく次の獲物はいないかとあたりを見回し始める。おーい、モンスター狩りもいいけど、まずはクエストの魚のいる所にいこうなー?
そんな感じで、ベティちゃんを迎えての初バトルは幕を閉じたのであった。




