2-3 新人さんを迎えまして!
ベティちゃんを加えてのクエストの日。オレたちはギルド前の正門に集合していた。
「な、なんだか緊張するな……」
「もー、シャキッとしなさいよー」
「私も緊張してますけど、きっとベティさんはもっと緊張してるんでしょうね」
「ああ、そっか」
いやー、なんかそわそわしちゃうんだよね。こう、違う環境になるとさ。
そんな調子でオレたちはギルドに入り、受付へと向かう。
受付ではすでにベティちゃんがオレたちを待っていた。
「おはよーアンジェラ、ベティちゃんもおはよ」
「いらっしゃい、みんなそろってるわね」
「おはよう」
笑顔のアンジェラと対照的に、ぶっきらぼうな感じでベティちゃんがあいさつしてくる。
ベティちゃん、今日は動きやすそうなスカートか。うちのパーティー、スカートはいてる子いないからちょっと新鮮ね。それと、結構デカい弓を使うのな。
「よう、おはよう。今日はよろしくな」
「……」
……無視された。地味にショックだ。き、きっと緊張のせいだろ。
「さて、それじゃ今日は四十五階で痺れツノウオの肝集めね。四十六階行きのゲートを使うといいわ」
「りょーかーい。それじゃ、行ってくるね~」
「いってらっしゃい。みんな、気をつけるのよ」
「おう」
「あ、アンジェラさん、これをお願いします」
「あら、そうだったわね」
ステラが身に着けていたマントを脱いでアンジェラに手渡す――と、ベティちゃんが驚いて声を上げる。
「なっ!? あ、あなた、なんて恰好してるんですか!?」
「え?」
ベティちゃんがステラを指さしながら目を白黒させる。あー、そうか、この子はステラのビキニアーマー見るの初めてだったか。そりゃびっくりするよな。
「ご、ごめんなさい。私、クエストではこの恰好なんです」
「そ、そうなの!? だ、だったら仕方ないわね……」
おお、なんかベティちゃんの口数が多いぞ。興奮してるからか知らないけど、結構メタリックな声でしゃべるんだな。
てか、なんか視線がステラの胸元にいってる気がするな、ベティちゃん。見ればベティちゃんの胸もリアといい勝負な感じだし、気になるのかね。
どれどれ、まだうちのパーティーにも慣れてないだろうし、ここはオレも一つベティちゃんに声をかけてあげようか。
「まあ、オレたちこんな感じだけど、今日はよろしくな」
「……」
そ、そっぽ向かれた……。オレ、マジで嫌われてんのかな……。
ゲートを抜けて、四十六階の詰所に出る。前の五十一階もそうだったけど、さすがにリアの知り合いもいないらしく、ちょっと遠慮ぎみに部屋の人たちにあいさつする。
「お、おはようございま~す」
「お、おはよっす」
「おはようございます……」
「……」
オレたちに気づいた冒険者たちが、こっちを向いてあいさつしてくる。みんな見た事ないおっさんやお姉さんだな……。
「お前ら、見ない顔だな。新入りか?」
「は、はい。ここには初めてきました」
「ん? お前さん、うちのギルドの子じゃないか?」
三十過ぎくらいのおっさんが、リアの顔を見て言う。
「あの、私たちシティギルドですけど……」
「おお、やっぱり! お嬢さんがリアちゃんだよな? て事は、お前らが今うちで話題のルイ一行か!」
「へえ、そんなに有名な子たちなのかい?」
「ああ、今じゃうちで一番の注目株だぜ。なんせあのギュスターヴをピンチから救ったって連中だからな」
「ギュスターヴって、あのギュスターヴかい!? あの化け物がピンチになるのも想像できないけど、それを救ったってのかい?」
「そうらしいぜ。今じゃ国王陛下とも懇意にしてるって話だ。な、そうなんだろ?」
「は、はい……」
「スゴいね、アンタたち! 国王陛下なんて、雲の上すぎてあたいなんか一生お話する機会ないよ!」
「は、はあ……」
な、なんかこんなところにまで話が広まってる……。別に間違ってもいないだけに、否定もできねえ……。
はっ、こんな話聞いてベティちゃんは引いてないよな……? オレはこっそりと彼女の顔色をうかがう。
ほっ、特に反応はしてないみたいだぜ……。てか、詰所の人たちがこれだけ盛り上がってるのにこうも反応が薄いと、これはこれで気になるな……。
一通り盛り上がったところで、別のおっさんがオレたちに尋ねてくる。
「ところでお前たち、このあたりは初めてなんだろ? レベルの方は大丈夫か?」
「それなら多分大丈夫だと思います。私が46で、この子が47、ベティちゃんは45だよね? で、彼が49ですから」
「49!?」
その言葉に、部屋のみんなが驚きの声を上げる。
「49って、俺たちより上じゃないか。というか、もうすぐAランクじゃないか」
「さすがギュスターヴといっしょに戦ってるだけの事はあるね。なんだい、シティギルドは人材豊富じゃないのさ」
「お姉ちゃんは斧兵なんだろう? 女斧兵でレベル47なんて、どこのギルドにもいないだろうな」
なんかまたオレたちちやほやされてる……。恥ずかしいからカンベンして……。
と、勇敢にもステラが詰所の皆さんに向かって口を開く。
「あ、あの、そろそろ出発しようと思うのですが……」
「ああ、ごめんよ。活きのいいのがきたから、つい長話しちまった」
「帰りにまた話を聞かせてくれよ」
「それじゃ、気をつけるんだよ」
「あ、ありがとうございます」
詰所の人たちも素直にオレたちを解放してくれた。ふう、助かったぜ……。
てか、この前の大剣のベンさんもそうだったけど、マジでギルド内では知られちゃってるのね、オレたち……。いまだに実感が湧かないわ……。
詰所を出ると、リアがベティちゃんに謝る。
「ごめんねベティちゃん、私たちの事でごたごたしちゃって」
「大丈夫。気にしないで」
ほっ、ベティちゃんは気にしてないか。こういうところはあっさりしてて助かるぜ。
さーて、それじゃいよいよクエストに向かいましょうか。今日はベティちゃんのお手並み拝見して、オレの歌を実験して、なんとかって魚をつかまえて……。やる事いっぱいあるけど、いつものようにがんばろうかね。




