1-11 ステラ、少しは元気になった?
特訓クエストが終わった次の日、オレとリアはいつもの道を歩いていた。
だけど、オレたちはシティギルドの前を素通りして、さらにそのまま歩き続ける。
「ステラ、大丈夫かね」
「おととい行った時は峠を越えたって言ってたから、多分大丈夫だと思うけど」
今日はオレたち、これからステラの家までお見舞いだ。ホントは昨日行きたかったんだけど、さすがにあのクエストの後じゃかえってステラに気を遣わせちゃいそうだったしな……。
「お見舞いは何を買ったんだ?」
「うん、シルバーマケットのクッキー。王都でも一、二のお菓子屋のクッキーだよ」
「へえ、そりゃステラも喜びそうだな」
グルメだしな、ステラさん。
「てか、ステラの家って初めて行くな……」
「あんたはそもそも女の子の家に行くこと自体が初めてなんじゃないの?」
「うっせ!」
まあ、そうだけどよ! てか、リアの家にも行ったことってないのかね。
ステラの家は王都の北西のあたりなので、オレたちの住んでるあたりとはちょうど反対側だ。なので、結構ぐるっと回ることになる。
南西のあたりまで歩いたところで、オレたちは道を右へと曲がる。街の西側を貫く大通りだ。この街、結構碁盤の目みたいなつくりになってるんだよな。
「オレ、こっち側には全然来たことないんだよなあ」
「あー、私もあんまり来ないね、こっちには」
「ステラってモンベールから帰る時いつもオレたちと南の噴水まで歩いてから帰るけどさ、あれって遠回りなんじゃね?」
「なんかうまく西側に出られる道がないんだってさ、あのあたり。だから私らと同じ道で帰ってもあんま変わりないんだって」
「そうなんだ」
そんなことを言いながら歩いてると、リアが向こうの方を指し示す。
「あ、あれがステラの家だよ」
へえ、ここか。まあ、見た目はフツーの家だな。あ、でもドアについてる鐘がかわいいな。
家の前に来ると、リアがドアをノックする。
「ステラー、お見舞いに来たよー」
リアの声に、中からなじみあるアニメ声が聞こえてきた。
「どうぞ、上がってください……」
あ、やっぱいつもより声が弱々しいな……。ステラ、大丈夫なのかな?
「それじゃ、おじゃましまーす」
「おじゃまします」
ドアを開けたリアに続き、オレも後ろから入っていく。
おお、これがステラの部屋か……! なんか完全に女の子の部屋だぜ……! ピンクのカーテンがフリフリしてるし、テーブルもイスも丸っこくて、やたらとかわいらしいな。しかもなんか、かすかにいいニオイがする……。
そんな部屋の向こうでは、ベッドから身を起こしたステラがオレたちにほほえんでいた。バスローブみたいなのを着て、髪をおろしてる。
窓からの光が顔にさして、そのせいかちょっとやつれた感じがしなくもないが、それ以上に妙に色っぽくみえるぞ。まあ、ステラはいつも色っぽいんだけどな!
「皆さん、お見舞いありがとうございます……」
「あ、いいよいいよ、そのまま横になってて。自分でお茶入れるから」
立ち上がろうとするステラを制して、リアがお茶を注ぎにいく。なんかもう、勝手知ったるって感じだな。
「ステラ、具合は大丈夫なのか?」
「はい、おかげさまで。だいぶよくなってきました。ご迷惑をおかけしてすみません」
「いやいや、ステラが回復したなら何よりだよ」
頭を下げるステラにオレが言う。
「ステラー、熱はもうないのー?」
「ええ、もうだいぶ下がりました」
「どれどれ~? あー、うんうん、ずい分下がったね~」
お茶をテーブルに置いたリアが、自分とステラの額に手を当てる。あー、いいなー。オレもさわりたいなー、ステラのおでこ。
リアが注いだお茶をステラに手渡す。オレもお茶を口にしながら、ふと思ったことをステラに告げた。
「そういやステラ、カギ開けっ放しにしちゃダメだぞ? いくらステラでも、今ヘンなヤツが来たら追い返せないだろ」
「あ、さっきのあれ? あれは私がカギ開けて入っただけだよ」
「は?」
「この前言われたんです。カギは開けれるからそのまま寝ててって。なので今回もお言葉に甘えさせてもらいました」
へー、なんだ、そうだったのかー……って、お前そんなカンタンにカギ開けられるのかよ! 戸締りの意味ねーじゃねーか!
「てか、それってヤバくね? 盗賊ってそんなカンタンに人の家に入れちゃうのかよ!」
「いやいや、その辺の盗賊にはムリだって。私は数少ないBランクの盗賊なんだよ? その辺のコソ泥といっしょにされちゃたまりませんなぁ」
いや、そんな得意げに薄い胸張らなくていいから。まあでもなるほど、そういうことなのね……。
「そんなことよりほら、ステラ、私たちからのおみやげだよ~」
「わざわざすみません、ありがとうございます……って、こ、これは!」
「お、さすがステラ、この価値がわかってもらえるかな?」
「も、もちろんです! これは朝一番に並ばないと売り切れ必至な、先着十名限定のクッキーセットじゃないですか!」
「えへへ、今朝急いで並びに行ったんだ~。こういう時、盗賊って便利だよね~」
「こんな貴重なものを……。リアさん、ルイさん、ありがとうございます!」
おお、ステラがめっちゃ感激してる……。まあいつも率直に感謝してくれる人だけど、今日のは一際だな……。そんなにスゴいのか、このクッキー。
ステラはと言えば、興奮ぎみにクッキーをオレたちにも勧めてくる。
「皆さんも、どうぞ召し上がってください! 本当においしいんですから!」
「あの、おみやげだから全部ステラが食べていいんだよ?」
「そんな、とんでもない! こんな素晴らしいもの、一人で食べたらバチが当たります!」
「そ、そう? それじゃ遠慮なく、いっただっきまーす!」
「おう、オレもいただくぜ」
「どうぞどうぞ。お茶にもよく合うんですよ?」
差し出されたクッキーを、オレも一枚手に取って口にする。どれどれ……。
「ウメぇ!」
「でしょう」
思わず叫ぶオレに、ステラが満面の笑みで小首をかしげる。かわいい。
「てか、マジでウメぇなこれ。サクサクだけどそれだけじゃないっていうか……」
「気に入ってもらえてよかったです。その通り、サクッとしているにもかかわらず軽やかな食感と口どけ。甘みもほどよく上品で、香ばしい香りがふわりと鼻を抜ける……」
あ、始まったよステラさんのグルメレポート。どうやらもうすっかり治ってるみたいだな。鼻詰まってなくてよかったね。
リアもその味に声を上げる。
「私も初めて食べたけど、ホントおいしい!」
「それはよかったです。お茶にとっても合うんですよ」
「おお、確かに」
スゲえなあ、オレこんな上等なクッキー、日本でも食ったことねえよ。まあ、単にオレが知らないだけだろうけど。クッキーだけなら、あのモンベールさえも遥かに上回ってるなこりゃ。
「ステラが体治ったら、快気祝いしないとね」
「ああ、いいなそれ。どこに行こうかね」
「う~ん、今はモンベール断ちしてるからなぁ。酒場もアレだし、普通の喫茶店に行こうか」
「い、いろいろとありがとうございます……」
「いーのいーの、私たちが集まりたいだけだから」
「そうそう、早く本調子に戻ってくれよ」
ステラのビキニアーマー姿も恋しくなってきたしな。とにかく調子が戻ってるみたいでよかったぜ。
それからオレとリアは、ステラといっしょにしばらくの間お茶とクッキーを楽しんだ。




