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1-9 緊張の昼食タイム!





 いきなり『氷帝』セルヴェリアの圧倒的な強さを思い知らされたオレとリア。次の獲物を探しながら、リアがオレに話しかけてくる。

「ね、ねえ、ルイ……」

「言うな、わかってる……。あの強さ、人間じゃねえよ……」

「ぜ、絶対おかしいよ! なんで槍の一突きで地面に穴があくのさ?」

「ジャンプも人間離れしてたよな……。リアはあんな風に飛べるか?」

「で、できるわけないじゃん! 私はフツーの人間なんだよ?」

 ややヒステリックにリアが言う。お前も十分人間離れしてるけどな……。

「ギュス様も、本気出したらあのくらい強いのかな……?」

「そうかも……。石像倒した時はどうだったの?」

「ああ、メッチャクチャ強かったな……」

 そんなことを話していると、『氷帝』がこちらをじろりとニラんでくる。ひッ!  サ、サボってなんかいませんよ!?




 それからしばらくの間、オレたちはモンスターたちを狩り続けた。

 オーガにギガントード、デスサイズとかいう巨大カマキリ……。明らかにヤバげなモンスターたちを、主に『氷帝』が一人でばったばったとなぎ倒していく。正直オレら、出る幕がねえ……。

 それでもオレはずっと歌ってるし、リアも『氷帝』にうながされるたびに投げナイフを放っているんだけど、ホントにおまけ程度でしかない。

 だって、『氷帝』の槍の一突きで、3メートル近くありそうなオーガの分厚い胸板に直径60センチくらいの風穴があくんだもん……。あんなの食らったら、オレらなんか塵も残りやしねえよ……。






 そんな調子で五十階を探検していたが、少し開けた見晴らしのいい空間に出たところで、『氷帝』がオレたちに向かって口を開いた。

「そろそろ休憩……。お昼……」

「は、はい!」

「わ、わかりました!」

 その言葉に、オレとリアも即座に反応する。てか、よ、よかった! ちゃんと休憩取ってくれて! この人のことだから、えんえんと敵を狩りまくるのかと思ってたぜ!

 よく見れば、地面も平らでいい感じに芝生が生えてるし、お昼にはちょうどいい場所かも……。そこまで考えてここを選んだのかな?

「あの、セルヴェリアさん、ここってよくお昼に使う場所なんですか?」

 オレの質問に、『氷帝』が何やら唇を動かしながらうなずく。そうか、ここが『氷帝』のお昼スポットか……。うっかり踏みこまないように注意しないとな……。

 そうしてる間にも、『氷帝』はカバンからシートや弁当箱を取り出してお昼の準備をしている。ど、どうでもいいけど、シートや弁当包んでる布の柄や色味がやたらとかわいらしいな……。

「そ、それじゃオレたちも準備するか!」

「う、うん!」

 そう言って、オレたちも昼メシを食う準備を始めた。




 さて、準備もできたわけだが……。オレとリアが並んで座り、『氷帝』と向かい合っている……。し、視線が痛い……。

 てか、『氷帝』なぜかシートの上に正座してるし……。この世界、正座文化とかあんのか? さすが『デモグラ』、国産ゲームなだけあって、よくわからんところで和式だな……。なんか『氷帝』姿勢がメッチャいいし……。

 つられてオレも正座してしまう。すると、リアもオレのマネをして正座しようとする。おいおい、あんまムリすんなよ? 足シビれて『氷帝』に倒れこんだりでもしたら一大事だぞ……。

「え、えーと……」

 正座のまま微動だにしない『氷帝』を前に、オレたちも弁当に手が出せない。

 そんなオレたちに業を煮やしたのかどうなのか、『氷帝』が低いかすれ声で言う。

「あいさつ……」

「は、はい! そうっすよね! そ、それでは、いただきます!」

「いただきます!」

 オレとリアが慌てて手を合わせあいさつする。『氷帝』も手を合わせると、静かに目を閉じあいさつする……かすれ声しか聞こえないけど。

「さ、さーて、それじゃ食うか!」

『氷帝』の方をチラチラ見ながら、オレは弁当へと手を伸ばす。リアもおそるおそる弁当箱のフタを開ける。

 とりあえずフタを開けたものの、オレとリアはそのまま『氷帝』が弁当に口をつけるのをじっと待つ。なんとなく先に口つけるのがためらわれるんだよ……。

『氷帝』がサンドイッチをかじったのを確認して、オレたちもやっとこさ食い始める。うう、プレッシャーハンパなくて、なんか食ってる気がしねえ……。


 それからオレたちは、ムダ口も叩かずひたすら食うことに集中する。楽しいはずのお昼休みを、沈黙と静寂が支配する。な、なんか石運んでる時より体が重い気がする……。

 と、オレの視界に謎の弁当箱が入りこんでくる。な、なんだこれ……?

 顔を上げて見れば、目の前の『氷帝』がオレたちの方に弁当箱を一つ差し出していた。え、こ、これってどういうことっすか……?

「あ、あの、これって……?」

「……どうぞ……」

 どうぞって、食えってことっすか? い、いいんすよね? そ、それじゃ、失礼しまーす……。

 弁当箱を手に取ると、オレはおそるおそるフタを開く。なんかとんでもないマテリアルとかが入ってるわけじゃないよな……?

「お……?」

 フタを開けて、オレは思わず声を漏らした。中に入っていたのは……お、おにぎりじゃねーか。こっちの世界にも米なんてあったのかよ!

 隣から、リアも遠慮ぎみに中をのぞきこむ。初めて見るのだろうか、小声でオレに聞いてくる。

(こ、これなあに……?)

(前に話したことあるだろ、これがおにぎりだよ)

(へ、へえ……)

 てか、別に小声になる必要ないだろ! なんか陰口叩いてるみたいじゃねーか!

 別に悪口なんて言ってませんよアピールというわけではないが、オレは『氷帝』に向かって話しかける。

「あの、セルヴェリアさん、これってもしかして手作りなんですか?」

 こくり。

 返事の代わりに、『氷帝』は一つうなずいた。てか、そりゃ手作りだよな! どう見ても!

「ス、スゴいっすね! この米、どうやって手に入れたんですか?」

「……」

「あ、あはは……。やっぱ高かったっすか?」

 こくり。

「へ、へぇ~、そうなんだぁ~。さ、さすがっすね~」

 しーん。


 …………。


 ム、ムリムリ! 会話続かないって! イエスかノーで答えられる質問にしか答えてくれないんだもん!

(てか、お前もなんかしゃべれよ!)

(え、ええ~。だって、何も思いつかないんだもん……)

(オレだって思いつかねえよ! おにぎりもらったんだから、ありがとうとかおいしいとかくらい言えるだろ!)

(わ、わかった……)

 顔を前に戻すと、オレたちの作戦会議を特に気に留めるでもない風に無表情に眺める『氷帝』の目。なんかイヤな汗かいてきた……。

「こ、これありがとうございます。それじゃ、いただきます」

「い、いただきます……」

 今さらだけど、中に何かマターが入ってたりはしないよな……? ええい、ままよ!

 オレとリアはおにぎりを手に取ると、思い切ってパクリとかじりつく。

「ウマっ!」

「お、おいしい!」

 マ、マジか!? ウマいぞこれ!? こっちの米なんてロクに品種改良もされてないだろうし、実際パサついた感じがするんだが、でもウマいぞ!? なぜだ!? オレが日本食を離れて久しいからか?

 そう思って隣を見ると、リアも驚いた顔でおにぎりをパクついてる。や、やっぱこのおにぎり自体がウマいのか……。

「ウマい、ウマいっす! セルヴェリアさん、これマジでウマいっすよ!」

 オレの声に、リアもおにぎり食いながらひたすらうんうんとうなずく。いや、ウソやおべっかじゃないっすよ?

 当の『氷帝』は、特に関心を示す風でもなくこっちをじっと見ながら自分の弁当を食べてる。あいかわらず表情の動かない人だな……。

 あれ? でも、ほっぺがちょっとだけ赤くなってる? もしかして少し照れてるのか? いや、でも、光の当たり具合でそう見えてるだけかも? う~ん……。

 でもあれだな、こうして手料理を分けてくれるあたり、実は思ってたよりいい人なのかもしれないな。ま、それでも怖いモンは怖いんだけど……。


 とりあえず、今日一番意外だったのは『氷帝』が料理超うまいことだな……。あと、『氷帝』はかわいいデザインが好き、と……。






ツイッター始めました。更新報告にでも使おうと思ってるので、よければご利用ください。 @yukarichinaba

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