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1-4 そ、それは高すぎだって!






 城でクエストの報告を終え、オレたちは王城前の大通りを歩く。ギルドにちょっと寄ってから、行きつけの酒場で反省会だ。

 オレの隣で、リアが首をかしげる。

「特別特訓クエストってなんだろうね」

「まあ、あの王様が考えることだからなあ……」

 リアが口にしたのは、王様がセッティングしたとかいうクエストのことだった。報告が終わった後にギュス様が教えてくれた。後でギルドで確認しておくようにって言われたので、今こうしてギルドに向かっているわけだ。

「凄腕の冒険者がいっしょについて特訓をしてもらうって言ってましたけど」

「昨日やらかしたばっかりだもんね……」

 またリアがため息をつく。ずい分引きずるな……って、昨日の今日だししかたないか。

 てか、強い人についていって経験値稼げって事か。いわゆるレベリングってやつだな。

「いったいどんな奴が来るんだろうな」

「そりゃあんた、強い人でしょ」

「わかってるよ、んなことは」

「普通に考えれば、シティギルドのメンバーですよね」

「え~、私ギュス様がいいなぁ~」

 ギュス様がいいなぁ♪ じゃねーよ! あの人は忙しいっつってんだろ!

「フサじいだったらいいんだけどな~」

「ああ、元Sランクとかいうじいさんか? でも旅してて今いないんだろ?」

「そうなんだよね~」

「私は、強い方ならどなたでも。しっかり勉強させていただきます」

 熱心だな、ステラさん……。今朝からずっと意気ごみがハンパねえよ……。

「順当に考えれば、Bランクの先輩かな? Aランクの人に当たればラッキーだね」

「でも王様のクエストだから、それ相応の人が来るんじゃないか?」

「あ、そっか。じゃあAランクかもね」

「私もAランクの方をお願いしたいです。もっと強くならなければいけませんから」

 なんかステラが戦闘民族みたいになってる……。うんうんとうなづいて、それからリアが少し怯えたような顔になった。

「あ、でも『氷帝』だけはカンベン……。あの人、ホントにおっかないから……」

「そんなに怖いのかよ……」

「ホントだってば! ルイなんか絶対――」

「あー、チビるチビる。そんなにイヤならお守りにでも祈っとけ」

「あ、このお守りそんな効果もあるの?」

 リアが不思議そうに、胸元から取り出したオレの手作りお守りを見つめる。お前いっつも持ってるのかよ。なんか恥ずかしいんだけど。

「よし、私祈る! ルイがチビりませんよーに……」

「って、そっちかよ!」

 余計なお世話だよ! 『氷帝』に出くわさないことをまず祈れよ!





 ギルドについたオレたちは、受付で王様のクエストの確認をする。今日は珍しくアンジェラが休みの日に寄ったので、白髪まじりのおっちゃんのところで話を聞く。

 クエストの日取りを確認して、オレたちはギルドを去る。やっぱまだ誰がいっしょに来るかは決まっていないらしい。はてさて、はたしてどうなることやら。


 そのままギルド向かいの酒場に入り、奥の席に着く。ビールと焼き鳥を注文して、いよいよ反省会を始める。

「私さぁ、まず自分の装備から見直そうと思ってるんだよねー」

 リアが自分の服を引っぱりながら言う。

「ほら、いつもの服も動きやすいんだけどさ。ちゃんとした戦闘服買おうかなって思って」

「戦闘服? そんなのあるのか?」

「まあ、見た目は同じなんだけどね。素材が違うんだよ。やっぱり高いだけあって、動きやすさが違うんだよねー」

「へえ、そういうもんなのかね。いくらくらいするんだ?」

「一式そろえるとっかいよ。5,6000リルくらいするかな」

っか!」

 思わず大声を上げる。いやお前、それどうやって払うんだよ!?

「それムリだろ! お前そんなに貯金でもあるのかよ!」

「いや、さっき王様のクエストの報酬もらったじゃん? なんか迷惑料込みとか言ってたけど、一人5000リルももらっちゃったしさあ。このお金は全部自分の強化にあてるべきかなあって」

「ああ、なるほど……」

 ずいぶん思い切った金の使い方するな、こいつも。オレは残念ながら金かけるようなモンがないからなあ。


 店員のお姉ちゃんが持ってきたビールを片手に、オレたちは乾杯する。

「それじゃ、かんぱーい」

「うーっす」

「乾杯……」

 グラスをコツンとぶつけて、オレたちはクイッとビールをあおる。グラス片手に、オレはステラに聞いてみる。

「ステラも何か買ったりしたのか?」

「はい……私はこんなものを……」

 そう言って、懐から腕輪と足輪のようなものを取り出す。結構かわいいデザインだな。

「てか、もう買ったのか。早いな」

「ええ……」

「ス、ステラ、それってもしかして……」

「はい、腕力と脚力を増す強化グッズです」

 グッズを見て、リアが口をパクパクさせてる。そんなにレアものなのかね、これ。

「本気だな、ステラ」

「はい、もちろんです。私がしっかりしないといけませんから」

 力強い目だな……。ホントに強くなりたいのね。

 オレは一つ気になっていることを聞いてみた。

「ステラ、それっていくらくらいするの?」

「はい……こちらの腕輪が20000リル、足輪の方は30000リルですね」

っか!」

 てか高すぎるわ! んなモンどこで売ってんだよ!? リアが固まってるのはそれが原因か!

 驚きもあらわにオレはステラに問いただす。

「ちょ、ちょっと待てステラ! それ、どうやって買ったんだ!?」

「どうって、別に普通にですよ……?」

「んなワケあるか! まさかステラ、力を求めるあまりムチャなことを……!? 早まるな! 今からでも遅くはない、早く返しに行け! オレも謝るから!」

「は、はぁ……?」

 オレの剣幕に、とまどいを隠せないって様子のステラ。こんなところでシラを切らなくても大丈夫だって! オレたち仲間だから!

「あの、ルイさん……? これは、普通に買ってきたんですよ……?」

「普通にって、そんなワケあるか! どこに50000リルもポンと出せるヤツがいるんだよ! はっ! まさかステラ、昨日皇太子様に夜のおつとめをして……?」

「ち、違います!」

「ひっ!?」

 ご、ごめんなさい! そんな大金、それくらいしか用意する方法が思いつかなかったんだよう!

 ビビって黙ったオレに、ステラがため息をつきながら説明する。

「50000リルなんて大金、私だって持っていませんよ。これは、お店の人に分割払いでお願いしたんです」

「あ、なるほど」

 この世界でも分割なんてあるのね。

「よく分割払いなんてオッケーしてもらえたな」

「それはこのメダルのおかげです」

 そう言って、ステラが懐からメダルを取り出す。ああ、前に王様からもらったヤツか。

「調査隊や一流の冒険者が利用するお店なので、こういうものが通用しやすいんです。なんといっても王様から賜ったメダルですから、信用力が尋常じゃないんですね。おかげで分割払いに応じてもらえました」

「へぇ~、このメダル、そんな使い方があったのかぁ~。今度私もやってみよ……」

 リアがポケットに無造作に突っこんでいたメダルを引っぱり出すと、不思議そうにしげしげと見つめる。あんま雑に扱うなよ。王様、泣くぞ?

「頭金に5000リル、毎月3000リルの十六回払いで買うことができました。断られなくてよかったです」

「いやいやいやいや! それにしたって高すぎるだろ! そんなの支払えるのかよ!」

「大丈夫です。しばらくは私の貯蓄もありますし、それが尽きる頃には私も強くなってもっと報酬のいいクエストを受けられるでしょうから」

「ダメだってば! ステラばっかりそんなに負担をしょいこんじゃ! 私たちも払うから!」

「そんな! これは私が勝手に買ったものです! 皆さんに支払わせるなんてとんでもない!」

 ヤバい……。このままじゃステラ、きっとオレたちのためにってムリしすぎて破綻するぞ……? ここはオレがリーダーらしく落としどころを示さないと……。

「待て待て。まずステラ、ステラがそれを買ったのは自分を強化することでオレたちの危険がぐっと減るからだよな?」

「はい、その通りです」

「うんうん、てことは、それによってパーティー全体に大きな利益があるんだよな? だったらステラが全額負担するのはおかしいんじゃないのか?」

「で、でもそれは……」

「いや、わかってる。それを所有するのはステラだから、全員で同じ額払うのはおかしい。そこでだ」

「はい」

「オレとリアは毎月それぞれ750リル、合わせて1500リル支払う。ステラは毎月1500リル。これでどうだ?」

「そ、それでは皆さんが……」

「このくらいがちょうどいいだろ? ステラはオレたちの倍払うんだし、頭金はもうステラが払ったんだろ? それに、オレらの負担が気になるなら早く強くなってオレたちにもっといいクエスト受けさせてくれよ。その方がプレッシャーになっていいだろ?」

「……」

 何かを考えるようにステラが黙りこむ。まあ、正直オレなら自分が破産しそうな状況の方がよっぽどプレッシャーだけど、ステラの場合は他人のためって方が効果あるだろ。

 やがて、ステラが顔を上げる。その顔には穏やかな笑みがあった。かわいい。

「わかりました、お言葉に甘えさせていただきます。皆さん、ありがとうございます……」

「おお、わかってくれたか」

「難しい話はまとまったー? それじゃ、より一層パーティーが強くなることを祝って、かんぱーい!」

 リアが再びグラスをかかげる。ま、みんなもやる気まんまんだし、今日はがっつり飲むか。



 その後、昨日のうっぷんを晴らすようにみんなで飲む。例によってステラは底なしの食欲を見せ、リアはべろべろになってオレに家まで送られていくのだった。






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