1-3 それって、メチャクチャエラいじゃないっすか!
「ほら、適当に席に着けよ」
「う、うっす!」
「は、はい!」
「ごめんなさい!」
調査隊隊長のリシュリューさんに言われ、オレたちは慌てて席に着く。リアはなんか怯えちゃってるな……。
このおっさん、あいかわらず悪そうだな……。なんで服を着崩してるんだよ……。
「さて、それじゃ話を聞かせてくれよ」
「う、うす! 昨日はオレたち三人でダンジョンに入って……」
なんか知らんけど、オレの返事もつい体育会系(?)になっちゃうわ……。
「ほう、それで宝箱の中にこれがあったわけだ?」
そう言いながら、リシュリューさんが目の前に置かれた文様入りのナイフをつまみ上げる。リアがぶっ壊した宝箱に入ってた、あのナイフだ。
「う、うっす」
「で、他にも何かないかと思ってさらに奥に入っていったのか」
「は、はい……ごめんなさい……」
さっきからこいつ、謝りっぱなしだな……。別にそこは謝る必要ないところだろうによ……。
「さらに進むと、妙に整備された区画に出て、奥の部屋には怪しげな石像がありました」
「腕が六本あるとかいう奴だな?」
「はい」
うん、やっぱ説明はステラに任せるに限るわ。リシュリューさんがうんうんとうなずきながら、テーブルの上に置かれた赤い宝石を手に取る。
「なるほど。それで、こいつを台座から取りはずしたらその石像が動き出したってわけか」
「ご、ごごご、ごめんなさい!」
何気なく言うおっさんに、リアが半べそかきながら頭を下げる。いやいや、別に怒ってないだろって。おっさんも困ってるじゃねーか。
「待て待て、落ち着けって。この宝石の隣には、もう一つ穴が開いていたんだな?」
「う、うっす。それと同じくらいの大きさでした」
「ふ~ん……」
それから少し考えこむと、おっさんがギュス様に話しかける。
「昔似たようなヤツがいたよな? あれは何階だったか?」
「確か、五十五階だったかと」
「そうだそうだ。あん時はヤバかったな。死人が出るかと思ったぜ。結局あの区画の探索はあれ以来ストップしてるんだよな」
「そうですね。今ならば行けるかもしれませんが」
「あの時の功績が認められてギュスは副隊長になったんだよな。ま、認めたのはオレなんだけどよ」
なんか昔話してる……? てか、この人らが死にそうになるとか、どんな化物だったんだよそいつ……。
「あいつと比べてどうだったよ? その石像とやらは」
「はい、奴ほどの強さではありませんでしたが、私一人では正直倒せそうにありませんでした。失礼ながら、隊長でも一対一ではかなり厳しいかと……」
「お前がそう言うってことは、そいつはオレより強かったってことだな」
マジかよ! あいつそんなに強かったのか! ギュス様が謙遜してたんじゃなかったのかよ!
驚くオレたちに、リシュリューさんが笑いながら言う。
「お前ら、昨日の戦いでずいぶんとヘコんでるそうだが、ギュスの言うとおりそいつは相当な化物だ。そんな奴と戦って無傷で生き延びたって時点で、お前らは大したパーティーだよ。もっと自信持っていいぞ」
マジで!? こんなエラい人にほめられちゃったぞ!? オレらってマジで強いの?
「あ、ありがとうございます……」
「もっとも、今の強さで満足してもらっちゃ困るぞ? お前らには早いとこもっと強くなって、五十階の先まで行けるようになってもらわないと困るからな。今まで以上に精進しろよ?」
「は、はい! がんばります!」
口をそろえて返事する。それでいい、と笑うと、今度はギュス様に向かって言う。
「お前もだぞ? ギュス。もうすぐ隊長になるんだから、早くオレより強くなってもらわないと困る」
「はい、精進いたします」
厳しいなあ、このオヤジ……。ギュス様はもう十分強いだろって……。って、隊長?
「あの、ギュスターヴさん、隊長になるんですか?」
「はい、まだまだ未熟者ですが、近々正式に就任いたします」
「う、うそおおおぉぉぉっ!?」
「スッ、スッゲええええぇぇ!」
「お、おめでとうございます!」
マジか! ギュス様、その若さで隊長かよ! 出世街道爆走中じゃん!
「あれ、でもそれじゃリシュリュー様は? もう引退するんすか?」
「おいおい、勝手にクビにすんな。オレはまだそんなジジイじゃねーよ。ヨーゼフのじいさんが引退するんで、オレが後を引き継ぐんだよ」
「ヨーゼフ?」
「あああああああああ!」
「ええええええぇぇぇぇ!」
ポカンとするオレの隣で、リアとステラが大声を上げた。うっせえな! もう! なんだよ!
「リシュリュー様、ついに大将軍に就任されるんですか!?」
「おう、そういうことだな」
「すっ、すっご――――い!」
だ、大将軍!? 大将軍って、軍の一番エラい人か! マジかよ! スゲえってモンじゃねーだろ! ヤベえな、気軽に話しかけれる相手じゃねーぞ!
「マジすか! おめでとうございます、リシュリュー様!」
「おう、ありがとよ」
そう言って笑うと、オレたちの顔をぐるりと見回す。
「それと」
「はい、なんすか? リシュリュー様」
「それだそれ。その”様”ってのやめろ。気持ち悪りぃな」
「えっ、ええええ!? ムリっすよ! だって、大将軍様っすよ!?」
「そんなモン知るか。キモいモンはキモいんだ。ギュスみたいにさん付けでいいじゃねえか。そうだ、そうしろ。次期大将軍命令だ」
聞く耳持たずと一方的にしゃべるリシュリューさん。さすがに、あんたにさん付けはハードル高いんだよ……。でも、仕方ないか……。
「わかりましたよ、リシュリュー……さん」
「なんだよ、今の間は。ほら、お前たちも呼んでみろ」
「リシュリュー……さん」
「リシュリュー、さん……」
「結構結構! やればできるじゃねえか! はははは!」
はははは! じゃねーよ! アンタここをキャバクラかなんかと勘違いしてんじゃねーのか!?
とにかくそんな感じで、オレたちは昨日のクエストの報告を終えた。




