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6-7 オレたち、まだまだだ!





 王城に戻ったオレたちは、報告は明日以降でもいいとギュス様に言われたのでお言葉に甘えて明日にしてもらい、今日のところはそのまま帰らせてもらう。

 リアもすっかり正気に戻っている。特にケガもなかったようで何よりだ。ただ、精神にはかなりダメージを受けてしまったようだ。そして、それはオレたちも同様だった。


 王城を出たオレたちは、夕暮れの中、がっくり肩を落としながら大通りを歩いていく。

「はあ……」

 三人同時にため息をつく。それだけ今日のクエストがショックだったのだ。

「私たち、まだまだ全然ダメだね……」

「そうですね……」

「結構強くなったと、思ってたんだけどね……」

「ホントだよな……」

 オレたちはもうすっかりヘコんでいた。ギュス様に助けられた直後こそピンチを脱した高揚感でテンション高かったものの、次第に自分たちの不甲斐ない戦いっぷりを思い出しどんどん気持ちが沈んでいったのだ。詰所に着く頃にはギュス様もなぐさめの言葉が尽き果ててすっかり弱っていた。報告は今日じゃなくていいってのも、オレらの事を気づかっての事なんだろう。ギュス様、余計な心配かけてすいません……。

「あんなに強いモンスターがいるなんてね……」

 話題が例の石像に戻る。これでもう何度目だろうか。

「私の攻撃が通じないなんて、今までで初めての経験だよ……」

「私も、場所が変わるだけであんなに身体が動かなくなるとは思いませんでした……」

「今日のために必殺技まで開発してきたんだよ? なのにまるで歯が立たないんだもんね……」

「私、どんな敵でも攻撃を当てさえすれば倒せると思っていたんです。でも、当たらなければどうにもならないんですよね……」

「おまけに一撃もらってあっさり気絶しちゃうんだもん、あまりにカッコ悪くてさ……」

 二人の声音がどんどん沈んでいく。さっきもこの話題になるたびにギュス様が「あのモンスターは私が精鋭を率いてようやく倒せるレベルの強敵でしたから」なんて言って励ましていたが、全然効果がなかったんだよな……。

 リアが天をあおぎながらつぶやく。

「ギュス様、強かったよね……」

「ええ……」

「超強かったな……」

「正直、全然格が違うよね……」

「ええ……」

「ああ……」

「私の二刀流より速いんだもんね……。全然バテないし……」

「私、実は今ならギュスターヴさんとも互角に戦えるんじゃないかと少しだけ思ってたんです。今思えば思い上がりもはなはだしくて、顔から火が吹き出そうです……」

 ああ……せっかくステラに自信がつき始めたと思ったのに、一気にマイナスまで振り切っちゃったな……。あの調子こきのリアでさえ、これだけヘコんでるんだもんな……。

 どうでもいいけど、オレたちの今の会話を文章に書き起こしたら「……」どのくらいあるんだろ……。




 ため息ばっかつきながらしばらく歩いていると、おなじみモンベールの店前にさしかかった。

「あ……」

「今日は、どうする……?」

 リアが聞く。ダンジョンでは『マイスター・ハウゼン』の肉を食うんだってみんなで目をキラキラさせてたけど……。

 オレとステラが、いかにもしょんぼりしたカッコで顔を見合わせる。

「今日は、やめとくか……」

「そう、ですね……」

「気分じゃないもんね……」

 三人、首をがっくりと落としてモンベールの前を通りすぎる。ステラが自嘲ぎみに吐き捨てる。

「私なんかにモンベールや『マイスター・ハウゼン』なんて百年早かったんです……。私にはギルド前の酒場くらいがちょうどお似合いなんです……」

 うわ、とうとう自虐モードに入っちゃったよ……。整った顔に影が差す。キレイな金髪のツインテールが、なんだか寂しげに揺れた。

「とりあえず、明日はお城で報告したら酒場で反省会しようか……」

「そうだな……」

 ホントならこの後『マイスター・ハウゼン』でウマいモン食いながら祝勝会だったのになあ……。まあ、あの酒場も料理はウマいけどさ。

「私は反省点が山積みです……。今までの戦闘スタイルや武器のチョイス、そもそもダンジョンの情報収集が不十分だった点が……」

「ステラ、反省は明日にしようぜ。今日は考え事をすればするほど、どんどんヘコむ……」

「はい……すみません……」

「私、今日、超カッコ悪い……。泣きたい……」

 リアが半ベソになってる。ダンジョンじゃあれだけ「盗賊のスキルが活かせるー!」って生き生きしてたのにな……。

 なんか、オレたちお通夜の帰りみたいだな……。




 やがて、大通りが交差する広場に着く。

「それでは、私はこちらで……」

「うん、また明日ね……」

「ステラ、あんまり落ちこむなよ……?」

「はい、ありがとうございます……」

 そう言ってあちらへと去っていくステラ。夕日を浴びるマントが悲哀をかもしだしてるな……。

 てか、あの後ろ姿はスゲえ心配になってくるんだけど……。ステラさん、精神的に大丈夫なのかな……。まあ、ここでオレが考えてもしょうがないよな……。

「オレたちも行こうか……」

「うん……」

 そう言って、オレたちも家の方へと歩き出した。


 しばらく歩いてると、リアがオレに話しかけてきた。

「ねえ、ルイ……」

「なんだ……?」

「えっと、あの……」

 もじもじしながら言いよどむ。なんだ? なんか言いにくい事でもあるのか……?

 しばらくオレに視線を向けたりはずしたりを繰り返した後、リアが聞いてくる。

「その……さっきは石像にやられて、ごめんなさい……」

「なんだ? 謝るような事か? それ」

「だって……あのせいで、私足手まといになっちゃったし……」

 うつむきながらぼそぼそとつぶやくリア。なんていうか、こいつも今日はヤラれてるな……。こんなにしおらしくなってると、さすがに心配になってくるぜ……。

「足手まといとか別にないだろ。お前がサボってたわけでもないし」

「でも、私が勝手にキレて無理しなかったら……」

「その場合もギュス様が来なきゃどうせ勝てなかっただろ? 別にお前のせいとかはねーよ」

「う、うん……」

 そう言ったきり、リアがうつむいて黙りこむ。オレも無言でしばらく並んで歩く。


 いつもの交差点にさしかかる所で、リアが顔を上げた。

「あのさ、ルイ」

「ん、なんだ?」

「あの時さ……どうして、私の方に飛び出してきたの?」

「あの時?」

「ほら、私が石像に吹っ飛ばされた時……」

「ああ……」

 あの時か。憶えてるって事は、あの時はリアにもまだ意識あったんだな。

「そりゃ、お前を守るために決まってるだろ」

「守るって、ルイは武器も防具も持ってないじゃん。私の身がわりになって死ぬ気だったの?」

「バカ、死ぬ気なんかねえよ」

「じゃあ、どうして?」

「どうしてって……」

 どうしてだろうな。

「どうしても何もないだろ。お前が危ないと思ったから守らなきゃと思った。それだけだよ。理由なんかいるか?」

「……ううん、いらない」

 オレの顔を見つめていたリアが、ふるふるとピンクの頭を振る。

 少し歩いて、リアが言った。

「ありがと。少し元気出た」

「そうか? そりゃ何よりだ。お前はやっぱ元気な方がいいよ」

「そだね」

 そう言って、リアがオレの目を見つめてくる。

「……なんだよ」

「ルイ。私、ちゃんとルイの事守れるように強くなる。もうこんなのヤだから」

「お、おお? ずい分やる気になってきたな」

「うん。もうルイを危険な目に合わせたくないもん」

「へえ、そりゃありがたいね」

 いつもの調子でオレが言うと、リアが小さくつぶやく。

「私のために傷つくなんて、絶対ダメだもん」

「え? 何?」

「ううん! 何でもない!」

 強い口調で言うと、リアがオレから離れる。

「それじゃまた明日ね! 寝坊しないでよ!」

「わかってるよ。どうせ迎えに来るんだろ?」

「当然! あんたは私がいないとダメなんだから! じゃ!」

 ビシッと手を挙げると、ダッシュで帰っていく。な、なんだ……? まあ、元気が出たならそれでいいか。




 そんなこんなで、オレたちの王様初クエストは、波乱のうちに終わったのだった。






これにて第二部終了です。ここまで読んでいただきありがとうございました。第三部開始は一週間くらい時間が開くかもしれませんし、いつも通りかもしれません。そこはまだちょっと未定です。


第三部では、今回の件で自分たちの限界を知った三人の成長と新たな登場人物たちとの出会いがメインになっていくと思います。がんばりますので、これからもご愛読よろしくお願いします。

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