6-5 ヤバい、超つええ!?
リアの奴がトラップ踏んじまったために、お宝(?)を守るガーディアンが動き出してしまった。あ、あらためて見てもめっちゃ強そう……。
リアとステラが、武器を構えて戦闘態勢に入る。こちらへと少しずつ歩み寄る石像を前に、やや緊張した面持ちでリアがささやく。
「あいつ、相当強いよ」
「見ただけでわかるのか?」
「そりゃ、ある程度はね。ほら、見てみなよ」
「おう?」
そう言われて、石像をよく観察する。じーっ……。
「腕が六本で、超強そうだな」
「そだね。他には?」
「うーん……。硬そう?」
「そう、硬いんだよ。よくできました」
よくできましたって、お前は学校の先生かなんかかよ。
「ま、超絶美少女盗賊のリアちゃんにかかれば楽勝だけどね~。ステラもいるし、へーきへーき!」
「そうですね、こんな危ない物を放置しておくわけにもいきません。早く片づけてしまいましょう」
自分の背丈よりも大きい大斧を構えて、ステラが一歩前に出る。今日のクエストで、ステラもずい分自信をつけたみたいだな。頼もしいぜ。
「お前ら、油断はするなよー」
「だーいじょうぶだって。ルイの方こそ、早く歌の準備しなよ」
「あー、はいはい。それじゃお前ら、がんばってなー」
二人を送り出すと、オレはちょっと気合を入れて歌い始めた。
「よーし! ステラ、いっくよー!」
「はい!」
かけ声とともに、リアとステラが猛然とダッシュする。あっという間に石像との間合いを詰めると、二人して目にも止まらぬ斬撃を繰り出し始めた! は、速ええ!
敵もさるもの、そんなリアとステラの容赦ない攻撃を六本の腕で次々と受け止める。おお、強ええ! よくあれだけの手数の攻撃を全部さばけるな! 二人とも、本気出していかないと足元すくわれるぞ?
「へえ、結構やるじゃん!」
感心したように言うと、リアが左手を懐へと持っていく。お? 何をやるつもりだ?
「それじゃ私も、とっておきを見せてあげるよ!」
そう言って、懐から何かを引き抜いた。おお、あれはもしかして……。
「じゃーん! 必殺・二刀流! これで勝負ありだぁー!」
二刀流だと!? あいつ、いつの間にそんな技を!? 両手に大き目のナイフを握ったリアが、猛然と石像に襲いかかる。凄げえ! もう目が追いつかねえ!
対する石像も、リアの攻撃を右側の三本の腕で必死にさばいている。単純に考えて手数がざっと二倍になってるってのに、なんて反応だよ。
だが、さすがに全てはさばききれないのか、少しずつリアの攻撃が石像の身体にヒットし始めた。リアの刃が胴体に当たるたびに、硬い音が部屋に響く。
「くっそぉ、硬ったいなあ!」
リアが苛立たしげに吐き捨てる。あいつの攻撃受けて特にダメージ受けた様子もないとか、それだけで驚異的だな。まあ、だけど、攻撃が当たり始めてるんだから次第に効いてくるだろ。
左側からはステラが斧を振り続ける。こちら側はわりと余裕を持ってステラの攻撃をさばいているようにも見える。あのステラの攻撃がこんな風にあしらわれるなんて、初めて見るな……。
まあ、そうは言ってもこっちは二人、攻撃もヒットし始めてるんだ。この調子でいけば、勝つのはいつも通りオレたちさ!
……あれからしばらく経った。おかしい。明らかに、おかしい。
ステラの攻撃が、全く当たる気配がない。今や完全に読みきったのか、必死の形相で斧を振るうステラをまるで子供をあやすかのようにあしらっている。
しばらく見ていて、オレも原因に気づいた。このフロアがせますぎるのだ。天井もせいぜい2メートルちょっとしかない。その上、ところどころに柱が立っていてジャマになっている。自身の身長よりも大きな斧を振るうステラにとっては最悪の地形だ。
そのせいで、ステラの動きにもいつものキレがない。彼女の性格もあいまって、常に周りに遠慮しながら攻撃してるような印象を受ける。
一方のリアはと言えば、二刀流で終始押しぎみに戦いを進めているものの、決定的な一撃が出ない。火力が致命的に足りていないのだ。まさか盗賊の弱点が、こんなところで露呈しようとは。
さらに、二刀流がリアの体力を大きく削っているようだ。きっと運動量は通常の二倍どころではないのだろう。少しずつではあるが、リアの攻撃が鈍り始めているようにも見える。
「ステラ! 動きが小さくなってる! もっといつも通りに!」
「は、はい!」
オレも歌の合間に声を上げる。わかってるよ、いつも通りに動けない地形だってくらい! マズいぞ、これはマジでヤバい!
と、これまで二人を正面から迎え撃っていた石像が、くるりとステラの方を向く。そして四本の腕で激烈な攻撃を仕掛けてきた!
「くっ!」
ヤバい! リアの二刀流の比じゃねえ! 一転してステラが防戦一方に追いやられる。
「こいつ、どういうつもりさっ!」
背中を向けられ、怒りの声を上げながらリアが斬撃を繰り出す。だがその攻撃は石像の背中から生える二本の腕に阻まれ、それをかいくぐって背中に当たった攻撃もさしたるダメージにならない。くそっ、リアの攻撃は腕二本で十分って事かよ! このままじゃステラが危ない!
「このおおぉぉぉっ! 無視すんなああぁぁぁぁ!」
逆上したリアが、さらに一歩深く踏み込む。おい、そこは相手の間合い……。
「ぐはあああぁぁぁぁっ!?」
そこを狙っていたかのように、石像の右脇から生えた腕がリアを弾き飛ばす。リアの身体はあっさりと吹き飛び、入り口の方の柱にぶつかってそのまま床へと落下した。
「ぐっ、うう……」
「リア!?」
「リアさん!?」
うずくまるリアに、石像がゆっくりと歩み寄る。ステラが必死に食い止めようとするが、六本の腕に軽くいなされその足を止める事ができない。マ、マズい! マジでやられる! オレは竪琴を投げ捨て、なりふり構わず雄叫びを上げながらリアの方へと駆け出した。リアはオレが守らねえと!
だが、無情にも石像はリアの目の前で立ち止まると、その右腕を高く振り上げる。くそっ、間に合わねぇ――――!
キャァァァァァン――――。
思わず目をつむるオレの耳に、背筋がざわめくような高い金属音が突き刺さる。絶望的な気持ちで目を開けたオレの目に、驚くべき光景が飛び込んでくる。
それは、リアの目の前で石像の一撃を受け止める一人の剣士――王国調査隊副隊長ギュスターヴの姿だった。




