6-3 アヤしい洞窟、発見!
あー、遠い……。ホントに道これで合ってんのかよ……。
体感ではもう三時間くらい歩いてる気がする。今までよりはるかに広いダンジョンに、オレはすでに音をあげかけていた。
ちょいちょい出てくるモンスターは二人がさっくり倒してくれるんだけどなあ。早くつかないと、オレの足が先にまいっちまいそうだぜ……。
「おっかしいな~、そろそろのはずなんだけどな~」
周りをきょろきょろしながらリアが言う。おい! 道間違ってたらシャレにならねーぞ!
そんな事を思いながら歩いていると、先頭のリアが声を上げた。
「あ~、あった! あれだよ、あれあ……れ……」
喜びの声が、だんだんしぼんでいく。なんだ、どうした? オレたちもリアに続いてその視線の向こうを見る。
あー、こりゃリアも黙るわ。リアの視線の先には、今までより一段とせまく暗くなっている洞窟が口を開けていた。天井のあたりには例の文様が刻まれてる。周りの空気とあいまって、めちゃくちゃ不気味なフインキが漂ってるな。
「ようやく着きましたね。お仕事がんばりましょう」
「う、うん……」
リアのテンションが目に見えて下がってるのがわかる。さっき道中でさんざんバカにされたから、ここらでちょっとうさばらしでもしておくか。
「あー、こりゃ出るわ」
「で、出るって何が?」
「見ればわかんだろ。オバケだよ、オ、バ、ケ」
「ひっ……!」
あ、あれ? めっちゃ怖がってる? この前克服したんじゃなかったっけ?
「お、おい、リア? お前、オバケはもう大丈夫なんじゃないのかよ?」
「だ、だって、今日はお守り持ってないんだもん……」
そ、そうなの? ヤバい、こんなにヘコまれちゃ、オレただの超感じ悪いヤツじゃん!
「ルイさん?」
「ひいっ!?」
ステラがめっちゃ怖い顔でオレを見てる! す、すいません! 後ろからリアのピンク頭をなでながら、ガクブルするオレにキツい声で言う。
「こんな場所でその冗談、笑えませんよ? リアさんがこういう話に弱いのはわかってるでしょう?」
「は、はい! すいません!」
怖ええぇぇ! ステラに素直に謝ると、すかさずリアにフォローを入れる。
「す、すまんな……。王様もオバケの話はしてなかったし、ここには出ないだろうから安心しろって」
「ホ、ホント……?」
リアが上目づかいで聞いてくる。うおっ、目がうるうるしてカワイイ……じゃなくて、悪いことしちゃったな……。
「ホントホント」
「絶対? ウソついたら生爪全部はいだ後切り落とした指を口につめて王都を逆立ちで十周できる?」
はああぁぁぁああぁっ!? ハリセンボンじゃねーのかよ! コイツ何さらっとスゲえグロい事言ってやがんだ! ちょっと想像しちまったじゃねーか! え、これ、うんって言わなきゃならないの……?
変な脂汗をだらだら流しながら、覚悟を決めてリアに言う。
「あ、ああ、絶対さ。だから安心しろって」
「そう、よかった……」
「リアさん、私のお守りならありますから、よかったら……」
「ううん、大丈夫。それはステラのなんだから、ちゃんと持ってなきゃ」
はぁ、よかった。なんとか立ち直ってくれたか。よーし、それじゃあ気を取り直して探索始めますか。
うーん、この洞窟、なんかヤだな……。さっきまでよりさらにせまいから、精神的にもかなりめいってくるぜ……。
「特に変わったところないね~」
「そうですね……」
とりあえずあの変な紋章を探しながら歩いていたが、今のところリアもステラもそれらしきものは発見できていない。
と、リアが洞窟の一角を指差した。
「ねえ、あのあたり、妙に人の手が入ってない?」
リアの声に見てみると、なんとなくそんな感じがしないでもない穴が開いていた。言われてみれば、階段っぽく見えなくもないような……。
「オレにはよくわからんけど、お前がそういうならそうかもな。盗賊だし」
「そうですね。では、あのあたりを調べてみましょう」
「おっけ~。じゃあ行こっか」
リアの勘を信じ、オレたちはその穴へと入っていった。
微妙に階段っぽいせまい通路を、少しずつ進んで行く。
しばらく進むと、リアが大きな声を上げた。
「わあ! ねえねえ、ここ、部屋になってるよ!」
そう言ってリアが駆け出す。おいおい、オレたちを置いてくなっての。
リアを追いかけ、少し広い空間に出る。
おお、なんかホントに部屋みたいになってるよ。家具も一通りそろってる。こんなにボロボロになってるって事は、もう長い事使われてないのかね。
「あああああ! あったああぁぁぁぁああぁぁっ!」
うっせーな! 何があったんだよ!
「見て見て! 宝箱! 宝箱ゲットー!」
部屋の奥からリアが嬉しそうに持ってきたのは、なんだか古ぼけた宝箱だった。おお、なんか初めてだな、こんなの見つけるの。
「罠とかはないのかよ」
「ないない。私を誰だと思ってんのさー」
ああ、盗賊なら罠くらい回避できるよな。今まさに箱を開けようとするリアに、ステラが不安げに言う。
「あの、拾い物は王国に届けなくていいんでしょうか……?」
「へーきへーき、届けるにしたってどうせ箱はジャマだし」
そう言いながら、リアが箱に手をかける。さーて、何が入っていますかねえ……。
「ん? んんん~?」
箱を開けようとするリアだが、なかなか開かない。
「おーい、どうしたー?」
「う~ん、どうもカギがかかってるみたい……」
リアが箱をいったん地面に置く。おいおい、こういう時のための盗賊だろうがよ……。
「開錠スキルくらいあるんだろ? 盗賊だし」
「カギ開けろって事? 失礼だね、それくらいすぐできるよ!」
頬をふくらませると、鍵穴に針金をつっこんで動かし始める。おお、なんだか盗賊っぽいじゃねえか。
「んんん~? う~ん……」
……なんだか、いっこうに開きそうな気配がないんだが……? 針金のカチャカチャ音だけが、静かな部屋に空しく響く。こいつ、ホントに開けれるのか……?
「む~ん、むむむ……」
なんか、リアの頭から煙が出てる……。目をぐるぐる回し始めたリアは、動かしていた手を止めるとおもむろに立ち上がった。そして……。
「とおりゃぁぁぁぁあああ!」
気合を吐きながら、右の拳を宝箱に振り下ろしやがったぁぁ!? バキャアアァッってスゲえ音立てて、箱が粉々に砕け散りやがったぞ! オマエどんだけバカ力なんだよ!?
「おい! 中身が壊れるだろーが!」
「なにさ! 開いたんだからいーじゃん!」
「力づくじゃねーか! お前、カギははずせねえのかよ!」
「え、え~と、それは……。そ、そう! あの箱、魔術施錠されてたんだよ! だから私の腕前でも開けられなくてさぁ……。あは、あははははー!」
いや、絶対ウソだろそれ……。てか、この世界魔法ねーじゃん……。
「で、箱の中身は?」
「うん、こんなのが入ってたよ」
そう言ってリアが取り出したのは……なんだこれ、ナイフか……? なんだってこんなモンが……。
「鞘にはあの文様が入ってますね……」
「やっぱりここには何かありそうだね」
そう言って、リアがさらに奥へと入っていく。なるほど、どうやらここは当たりって事か。じゃあ他にもいろんなお宝が眠ってるかもな。よーし、もっとじゃんじゃんお宝見つけて、いっちょ王様をビックリさせてやるぜ!




