6-2 四十三階、探索開始!
「おお~、ここが四十三階かぁ~」
先頭を歩いていたリアが、額に手を当てながらあたりを見回す。ほぉ~、この階は正統派の洞窟なんだな。ちょっと暗いけど、まあ問題ないだろ。
「じゃあ、ちゃっちゃと終わらせようぜ」
「そだね。終わったら、たまにはモンベール以外のお店で打ち上げしよっか。ステラはどこかいい店知ってる?」
「そうですね、夜の打ち上げでしたら『マイスター・ハウゼン』などはいかがですか? お肉やソーセージがおいしいお店です。それに、おいしいビールも……」
お気楽だな、二人とも。ステラはあいかわらず食いモンの話になると嬉しそうだねえ……。よだれをたらさんばかりに語っちゃってるよ。
でも、肉料理はかなり魅力的だな。ソーセージも、王様のとこで食ったのはスゲえうまかったし。
「オレも行ってみたいぜ、そこ。王様のところで食ったヤツとどっちのがウマいかな?」
「『マイスター・ハウゼン』は王室御用達のお店なんですよ。この前王様のところでいただいたのも『マイスター・ハウゼン』のソーセージでしたね」
「マジで!?」
てか、味で店までわかるのかよ! ステラさんマジでパねえな!
「でもそんなスゴい店、メチャクチャ高いんじゃないのか?」
「そうですね、ディナーだとだいたい300リルから500リルが相場でしょうか。モンベールのディナーと同じくらいですね」
「高っか!」
おい! なんかのお祝いでもないのにその値段はぜいたくしすぎだろ! 何度も言うけど、それオレの一ヶ月の食費くらいあるんだぞ!
「何ケチな事言ってんのさ。今回は王様直々のクエストなんだから、きっと報酬もたんまりもらえるって」
「まあ、そうだけどよ……」
「それじゃ今日の打ち上げはそのお店で決まり! あ、でもそこって予約なくても大丈夫なのかな?」
「ある程度は大丈夫なはずですよ。当日客用のスペースもありますから」
「なるほど、それじゃ問題ないね! そうと決まれば早くクエスト終わらせて、おいしい肉屋へゴーだぁ!」
いや、肉屋じゃないだろそこ……。ツッこむ気力もないオレをよそに、リアがどんどん先へと進んで行く。
「このダンジョン、結構広いんだよね~。北東は……こっちかな?」
リアが指にツバつけて方角を決める。おい! そんなんでホントに合ってんのかよ! てか、それって風を読む時のやり方じゃねえのかよ!
「よし、あっち! それじゃみんな、早く行こー!」
「はい!」
よっぽど肉を食いたいのか、リアが妙に先を急ぎたがる。ステラも食う気まんまんだし……。まあ、別にいいけどさ……。
ひ、広い……。天井低くて道もせまいのに、規模だけはムダにデカい……。もう結構歩いてるのに、まだ着かないのかよ……。
「リア、ホントに道あってるんだよな?」
「失礼な事言うね、キミぃ。ちゃんとこの地図の通り歩いてるってば」
そう言いながら、リアがダンジョンの地図をピラピラする。いや、その地図がより一層オレの不安を増大するんだよ……。なんだよ、その子供の落書きみたいな地図。しかもそれを読んでるのが、子供の絵心どころかシュールレアリズムの画伯級の絵の腕前のリアなんだから、安心しろって方がムリあるだろ。
「さすが四十三階ともなると、ダンジョンも広くなってきますね」
「この下のも、全部こんなに広いんかね……」
「ありえますね。それで探索もなかなか進まなくて、私たちにも依頼が来たのかもしれません」
「マ、マジかよ……」
ヤダよオレ、そんな広いところで石運びのクエストとか! この前の牙集めだって結構大変だったんだぞ!
気を取り直して、リアに聞いてみる。
「で、あとどのくらいで着くんだ?」
「えーと、これで半分くらいだよ」
「マジかよ!?」
なんだよこのダンジョン! どんだけ広いんだよ! てか、ホントのホントに道あってんのかよ!
リアの道案内に若干、いや、かなりの不安を覚えながらも、オレたちは薄暗いダンジョンをずいずいと進む。
と、先頭のリアが立ち止まってあちらを指差す。
「ねえ、そろそろあいつらで肩慣らししない? 初めて戦う敵だけど、そんなに強くなさそうだし」
「そうですね……。この辺で、少し準備運動をしておいた方がいいかもしれません」
「う~ん、ま、お前らがやりたいならいいんじゃねーの?」
「ちょっと~、アンタもマジメに考えなさいよ~」
リアが非難のまなざしを向けてくる。いや、オレは戦いたくねーけどお前らが戦いたいって言ってんじゃん。
「まあ、ルイも賛成してることだし、それじゃはりきっていきましょうか。ルイ、歌の方よろしくね」
「あいよ」
適当にうなずくと、オレは竪琴をスタンバイする。しっかし、あれ、弱そうかぁ? なんかメチャクチャ凶暴そうなオオカミだぞ? 三匹いるけど、討ちもらしたりしないでくれよ……?
「それじゃあ、おりゃぁっ!」
いつものように、リアが足元の石を敵の足目がけてぶん投げる。なんかだんだん投球フォームがプロ野球投手のそれに近づいてきたな……。うなりをあげて飛んでいく石は、寸分違わずオオカミの前足に命中する。いや、冗談抜きでプロ野球でも通用するんじゃねえの? コイツ。
「やあああぁぁっ!」
突然の石つぶてにうろたえるオオカミの群れに、ステラが雄叫びをあげながら突っこんでいく。一閃、二閃と斧が舞い、オオカミが真っ二つになる。あ、あいかわらず強ええ……。一匹がステラの脇をすり抜けてこちらへと向かってくるが、その進路をリアに阻まれ、二、三回切りつけられるとそのまま動かなくなった。
「ふー、腹ごなしにはちょうどよかったかな?」
いや、メシからはだいぶ時間経ってるだろ。それにしても、あいかわらず強ええな、こいつら……。
「あっれ~? 一発で倒せるかと思ったんだけどなあ」
おっかしいな~、とリアが軽く首をかしげる。いや、十分だろ、あんだけ強けりゃ。
「このダンジョンはちょっと狭いかもしれませんね……。斧で戦うには少し窮屈な気がします」
「そうか? そのわりにはさっくり倒してたじゃん」
「本来なら三匹目も倒せるはずだったんですが……。この狭さでは、さすがに斧を大きく振りかぶる事はできませんね」
「へえ、そうなんだ」
別にそれくらいいいんじゃね? まあ、ステラ的には不満なんだろうな。
「う~ん、やっぱり私たち強いね!」
「まあ、それは間違いないな」
「は、はい……!」
「あ、ステラも自信ついてきた?」
「す、少しだけ……」
「よっし、今日の目標はステラに自信をつける事だな!」
本日のテーマが決まったところで、オレたちはさらにダンジョンを進んで行く。ま、この回の敵の強さもだいたい見当ついたし、今回はだいぶラクできそうだぜ!




