5-11 お城での朝!
「うぃ~っす」
「あ、おはよ……」
「おはようございます」
朝、超豪華な寝室で目覚めたオレは、とりあえず昨日メイドさんに言われてた通りに貴賓室にやってきた。中ではすでにリアとステラが席に着き、コップの中の飲み物を飲んでいた。まだ眠い目をこすりながら、オレも席に着く。
「ルイ様、冷水とレモン水、ぶどう水とありますがいかがでしょうか」
「あ、水でお願いします……」
「かしこまりました」
部屋についているメイドさんがすかさず注文を取りに来る。いやあ、教育が行き届いているねえ……。
「ルイもぶどう水にすればいいのにー。おいしいよ?」
「まあ、朝メシでウマいモン出るだろうしさ」
「ああ、ま、そっかぁ」
ぶどう水をぐびぐび飲みながら、リアが急に語り始める。
「私さぁ、ギルドでバシバシ稼いだらこーんな広いおフロに入って、こーんな大っきいベッドで寝るのが夢だったのね」
「ああ、いい夢じゃん」
「だけどさぁ、ここのおフロはとんでもなく広いし、ベッドもメチャクチャ大っきい上にふっかふかだったんだよねえ……。昨日は思わずベッドでぴょんぴょん飛び跳ねちゃったよ」
力なくコップを机に置き、はぁ~とため息をつく。なんでそんな憂鬱そうなんだ? てかベッドで飛び跳ねるとか、お前はホントにガキかよ。
「なんだよ、よかったじゃねえか」
「わかってないなぁ。私は昨日の時点で、ずっと先の楽しみだったものをはるかに超える体験をしちゃったんだよ? なんて言うか、これから何を目標にすればいいのかなってね……」
「ああ……」
なるほど、幸せってのも難しいもんだな。ネコとかにあんまりぜいたくを覚えさせるのはよくないとか聞くけど、それに近い感じかね? コイツもネコっぽいし。
「きっと、まだまだたくさんいい事はありますよ」
「そだね……ありがと」
ぜいたくな悩みに気落ちするリアを、ステラがにこやかに励ます。ついこないだまでぼっちだったステラが言うと、セリフにも重みが増すな。
ま、こんな時自分は能天気でよかったと心底思うぜ。せっかくゴージャスな体験してるんだから、余計な事考えずに楽しめばいいのにな。
しばらくして、朝食の準備が整ったという事でオレたちはまた「夏の間」まで移動する。扉を開くとそこには王様、王妃様と――。
「……マリ様?」
「皆さん、おはようございます」
昨日の豪華で超高そうなドレス姿から一転、シンプルですごくラクそうな普段着(もちろん超高そう)な服を着たマリ様がオレたちにあいさつする。お、おおお……。髪も昨日の夜は結っていたのを、またおやつの時みたいに下ろしていて超カワいい!
そんなオレたちの様子に目ざとく気づいたのか、王様が朝からテンション高くしゃべり出す。
「ほら、僕が言った通りでしょ? 男の子は女の子の意外な一面に弱いんだよ!」
「お、お父様、妙な事を大声で言わないでくださいまし……」
「いやいや! あのルイ君の目を見れば一目瞭然でしょ? ママだって普段はこんなだけど、たまにとっても優しいんだよ?」
「あ~ら陛下、まだ少々寝ぼけていらっしゃるのではないかしら……?」
「いっ、いはいよママ、ほんあいひっはわないれ……」
王妃様に左頬をつねり上げられながら、王様がなんか懇願してる……。お、王妃様怖ええ……。
てか、王様も王妃様も普段着なのね。王様なんか、普段着着てるとホントにただのオッサンにしか見えないわ。
「さあさ、皆さんも席にお着きなさい。お食事が冷めてしまいますわ」
王様のほっぺからは手を離さず、王妃様がオレたちに席を勧める。ごめんな王様、オレ王妃様怖いから、細かい事には突っこまずに座るね。
テーブルの上にはもう料理がそろってる。朝だからなのか、昨日の昼食に似た感じだな。食前のあいさつをすませると、オレたちはさっそくウマそうなサンドイッチやあったかいスープに手を伸ばしていく。王様たちも栗毛のメイドさんに食べ物をよそってもらってる。いいなあ、オレも頼も。
……しばらくメシを食っていたオレだったが、さっきからちょっと気になってる事があったので聞いてみる。
「あの~、王様……」
「うん? なんだい?」
「ほら、オレたちって基本的に外部の人間じゃないですか……」
「えー? そんな事ないよ、水臭いなあ」
「いや、そういう意味じゃなくてですね……」
少し室内を見回してみる。オレたちと王様たちの他には、栗毛のメイドのハルミさんの他数名のメイドさんしかいない。
「今日って、ギュスターヴさんもウェインさんもいないじゃないですか」
「そうだねー。二人ともお仕事あるしね」
「その、この部屋って衛兵もいないみたいですけど、警備とか大丈夫なのかなって……」
オレの言葉に、リアとステラの手が止まる。どうやら二人も同じ事を思っていたみたいだ。
そんなオレたちとは対照的に、王様たちは不思議そうに首をかしげている。
「警備? いつもいるじゃない」
「へ? いつも?」
部屋の中をきょろきょろ見回すオレたち。いや、メイドさんしかいないんだけど……?
「あ、もしかしていつも天井から見守っているとか? 忍者みたいに」
「あっははははは! 何それ、ずっと天井に待機してるの? そのニンジャって人。それはあんまりだよー!」
王様たちが爆笑する。いや、そんな笑うような事言ってないでしょ……って、なんでリアたちも笑ってんだよ!
「ちょっとルイー、朝からいきなり変なギャグかまさないでよー」
「ずっと天井裏で、ぷっ、くくくく……」
くっそ、ステラまでツボってやがる……。ま、マリ様にもウケたみたいだし、結果オーライか。しっかし、それじゃどこにいるんだ……?
「もっと他の所に隠れてるんですか?」
「隠れるって、いや、さっきからずっといるじゃない。ねえ」
横に控えるハルミさんに向かって笑う王様。いや、だからメイドさんしかいないじゃん。
「あ――っ!」
うっせえぇぇっ! なんだよ急に! 隣のリアが、驚いた顔で大声を上げる。
「もっ、もしかして……」
そう言って、リアが王様の方を指差す。ステラも何かに気づいたように目を丸くしてる。
「やっと気づいた? というか、みんな知らなかったんだねー」
そう言いながら、王様がハルミさんの肩に手をかける。
「そう、こちらのハルミさんこそが、いつも僕を守ってくれている最強のボディガードなのです!」
相変わらずの王様のノリと衝撃の新事実に、オレたちは朝から驚かされっぱなしだ。




