5-10 王様の夕食、ヤベえ!
王女様と超楽しいティータイムを過ごした後、オレたちはしばらく貴賓室で休憩した。そこからまたしばらくして王様たちと夕食を食べるため、「夏の間」に招かれていた。
すでに席についたオレたちの前には、昼食時よりさらに豪華な食事の数々が並んでいた。これ、フツーに元の世界でも食った事ないレベルの料理なんですけど。ローストレッグとかフライドチキンがこっちで食えるとは思ってなかったよ。
思ってなかったと言えば、魚介類もスゲえ久しぶりな気がする。別にオレそんなに魚とか好きじゃないけど、なんかでっかい魚の丸焼きとかソテーとか、貝がじゃかじゃか盛られた皿とか見るとビジュアル的に超ウマそうに見えてくるな。
昼食時とは違う大きな丸いテーブルには、王様と王妃様、王女様が並んで座り、席一つ分空けてオレ、リア、ステラが続く。その隣にはウェインさんとギュス様が座り、周りにはメイドさんが何人かスタンバイしてる。
みんな手元には思い思いの食べ物を取り寄せ、飲み物片手にパクパク食べている。なんかリアの食い方、絶対おかしいよな……。ナイフでザクザク切って、フォークでズボズボ刺してるんだけど……。
「お前……もっとキレイに食えないのかよ……」
「え、ちょっ、そんなにヘン?」
「いやまあ、いつも通りだけどさ。お前学校トップで卒業したんだろ? マナーとか習わなかったのかよ」
「そ、そんなの習っても使う機会なかったし、しょうがないじゃん」
いや、それにしたってそれは……。なんかあっちではウェインさんがステラのグルメリポートに愛想笑いしっぱなしだし。まあ、ずい分と緊張が解けてきたよな、こいつらも。
あ、オレあっちのロブスターっぽいエビ料理食ってみたいな。テーブルがデカくて向こう側の料理には届かないので、オレはそばにいるメイドさんに声をかける。
「すいませーん、そっちのその料理、取ってもらえますかー?」
「はい、ただいま」
それを見ていた王女様が、
「私にもそれをいただけますか」
同じものをメイドさんに頼むと、王女様がオレに微笑みかけてくる。
「ルイさんもあの料理がお好きなんですか? あれ、とってもおいしいんですよ」
「あ、食べるのは初めてなんすけど、おう……マリ様のおすすめなら楽しみっす」
「まあ、ルイさんったら、ふふふ」
ヤベえ、超カワいい! そんな事言われると料理も八割増しでウマくなりそうだぜ!
「あ――――っ! ルイ君がマリちゃんの事名前で呼んでる――!」
うっせえぇぇ――ッ! 王様、声デケえぇぇっ! なんだよ急に!?
「マリちゃんもルイ君の呼び方がさん付けに変わってるし! いつの間にそんなになかよくなったの!?」
ああ、そういう事か、ビックリしたぁ。興奮しすぎだよ、王様。
……あれ? 王様、もしかして怒ってる? なんか顔真っ赤だし。はっ、もしかして「お前みたいなヤツが気安くうちの娘に近寄るんじゃねえ」みたいな事思ってる!? だって王女様をよろしくって言ったのは王様じゃん! ヤバい、やりすぎた!?
「す、すすすすいません! 悪気があったわけじゃないんです! 王女様のお願いだったからでして、やましい気持ちとかはないんです!」
慌てて立ち上がると、オレは必死に頭を下げる。こ、今度こそ土下座が必要なのか!?
「ええっ、マリちゃんからお願いしたの? 意外と大胆だね、ねえママ?」
「ふふっ、マリもしっかり女の子してるのですね」
「お、お母様……」
王様夫妻がなんかニコニコして話してる。王女様が顔を赤くしてうつむいた。あれ、別に怒ってはいない……?
「う~ん、マリちゃんもルイ君となかよくなれたようだし、めでたいねえ。ほら、ルイ君も飲んで飲んで!」
「は、はぁ……」
なんだ、嬉しくてはしゃいでたのか……。ほっとして席につくと、果実酒の入ったコップを手に取り一気に飲み干す。
「孫が見れるのはいつかなぁ? ママ、ワクワクするね!」
「ぶふうっ!?」
「お、お父様!?」
突然何言い出すんだ!? このオッサンは! 吹いた酒が器官に入るだろが! リアとステラも食ってたモン噴き出してるし!
「な、何をおっしゃるんです、お父様! 私とルイさんは、そ、そういう関係では……」
「今そうじゃないなら、これからそうなるようにがんばればいいじゃない。いつも言ってるでしょ? 我が家の教え」
「そ、それはそうですけど……。ルイさんの都合だってあるでしょうし」
なんか微妙にいい事言ってるっぽいけど、そりゃムチャクチャだよ王様。いくらなんでもマリ様ほどのお方がオレなんて、マトモに相手しないでしょ。オレはいつでもウェルカムだけどな。
「そうだ……リアちゃん、ステラちゃん」
「は、はい!」
「なんでしょうか」
口元を拭いながらオレたちの話を注視していた二人が、急に王様に声をかけられて慌てて返事をする。今度は何言い出す気だ?
「二人はルイ君とはつきあってるの?」
「はいっ!?」
「ふえぇぇっ!?」
おい! 直球すぎんだろ! てか何聞いてやがんだ、このオヤジ! 二人とも顔真っ赤にしながら口パクパクさせてるし! お前らもさっさと否定しろよ!
「そそそそんなわけ、あるわけないじゃないですか! こんなヤツとつきあうなんて! あは、あは、あははー!」
「ル、ルイさんとは、パーティーでよくしてもらっているだけです……」
照れ隠しの時のようにリアが頭をガシガシかき、ステラが恥ずかしそうに視線を下へそらす。ま、そりゃそうだよな。てかリアのヤツ、言いたい事言いやがって! こっちだってごめんだよ!
それを聞いた王様が、満面の笑みでマリ様にウィンクする。
「よかったねマリ! 今のところルイ君の隣は空いてるみたいだよ! 二人に取られちゃう前に奪い取っちゃえ!」
「で、ですからお父様! 私はそんなつもりでは……」
王様に抗議しながら、マリ様がちらりとこちらを恥ずかしそうに見てくる! 超カワいい! お願いだから、ぜひオレを奪って!
てかマリ様、お昼の神々しさがどっかに消え去って、すっかりフツーのかわいいお嬢さんになってるな。 マリ様のオーラすら打ち消す王様の無効化フィールド、恐るべき威力だぜ……。
「それにしてもマリちゃん、昔はあれほどギュス君に懐いていたのにね」
オレがエビ料理を味わっていると、王様がなんだか聞き捨てならない事をサラッとつぶやいた。マリ様の顔がまた赤くなる。
「と、突然何をおっしゃいます、お父様」
「本当、私もてっきりマリはギュスターヴ卿を好いているのだと思っておりました」
「好きだったのは間違いないよ。でもこの頃は、昔みたいなラブラブ光線放ってないもんね」
「ら、らぶらぶ……!?」
耳まで真っ赤にしてマリ様がうろたえる。お、チラチラとオレの方を見てるのは、「誤解ですのよ、ルイさん」っていうアイコンタクトかな? なーんちゃって。
「そのような事、あろうはずもございません。おそれ多い事にございます」
「またまたー、ギュス君だって気づいてたでしょ? 僕らも、ギュス君にだったら安心して任せられたんだけどねー」
さすがだな、ギュス様。イケメンで超強いと、黙っててもお姫様に惚れられるのか。もう嫉妬する気も起きないぜ。
「その……ギュスターヴ卿は、あくまで私の憧れなのです……。それに、ギュスターヴ卿は骨の髄まで騎士。私を護ってはくれても、恋愛対象としては見ていただけませんから……」
「臣は殿下をお護りする剣。主君に恋心など、許されようはずもありません……」
「あー、確かにー。そういうあたり、ギュス君は融通きかないもんねー」
「だから未だに独り身なのですよ、ギュスターヴ卿」
「なっ、そ、それは……!?」
なーるほど、マジメすぎるってのも考えモンだな……。てか、また言われてるよ、結婚の事……。結構言う事キツいというか、遠慮ねえな、王妃様。さすが、あの王様の嫁なだけあるぜ。
「でもさー、ギュス君にフラれてどうなるかと思ってたけど、ルイ君が現れてくれてよかったね、マリちゃん」
「なっ!? どうしてそうなるのです、お父様!?」
「へっ、陛下!? 臣は殿下を、フ、フッてなど……!」
うーん、ホント王様が一言なんか言うたびに嵐が吹き荒れるね。こりゃ周りの人たちも大変だわ……。
その後も一波乱、二波乱あった後夕食が無事(?)終わり、オレたちはそれぞれ寝室へ案内された。リアとステラは後で浴場に行こうとか盛り上がってたな。
しかし残念だな、フロは混浴じゃないのか……。できれば、マ、マリ様のお背中流したりとか、したかったのに……。あ、でも、もしかして、女湯の時間だと思ってたらまだ男湯でしたーなんてラッキースケベイベントがあるかも……!
もちろんそんなイベントが起こるわけもなく、失意のうちにオレは床についた。




