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いつになったら、目を覚ましてくれる?
僕はここにいる。ここにいるよ?
さっきは離れてしまったけど、もう離れないよ?
ねぇ、謝るよ。助けるよ。見捨てないよ?
える君の側にいつまでも、離れることはないから、どこにもいったりしないから、心配しないで大丈夫だから。
自分を見失わないで――。
僕は僕自身を教えるようにえる君の手を握りしめた。
える君の目線は僕のその奥にあるものを見つめている。やがてドアの隙間から溢れる光は途絶えても、不気味なほど暗い部屋の奥をただ見つめる。
える君のその目には……もう何一つ映してはいなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
える君の両親がトラックと衝突した。しかも、突然乗っていた家族の車の目の前で。
僕は、怯えた。える君は、理解が追い付かなかった。
炎上した車の炎は、
焔は赤黒く見えて僕の知るものとなる。
黒い焔――それは死を現す。
僕は、怯えた。あの焔が、この力が、える君の両親を殺してしまう。そう感じたのに、動けなかった。
僕はただ怯え、両親は何とか助けようと車を飛び降りるように、すぐさま駆けつける。
える君は……。
「える君」
「…………」
える君の表情は凍り付いたように強ばっていた。名を呼ぶも、反応すら示さない。
「える君」
「…………」
再度呼び掛け肩を揺するも、える君に変化は見られない。もう一度するも、結果は変わらない。何度やろうが変わらなかった。
僕は、える君の事を目を離せなかった。
離した瞬間に消えそうで、消えてしまいそうな気がして、黙ってえる君を見つめた。
しばらくすると両親は車に戻ってくる。雰囲気は重く、誰一人として喋らない。車のエンジンをかけ直し、救急車の運ぶ先である病院に無言で向かう。
僕の目は未だえる君を捉える。
病院につくと、える君は、車から勢いよく飛び出た。
僕もすぐさま車から飛び出して、える君と共に救急車の運び先である手術室の方向に向かう。
それを見てた両親も遅れながらも後を追う。
家族も僕もえる君も気持ちは同じである。
助かる事をただ願う。
ボンヤリトと光続けていた手術中という文字のランプが消え、扉から医者の人が出てくる。顔には汗ベッタリで何処か疲れたようにも見えたが、自分等を見て顔がポーカーフェイスに戻る。
それを見た両親は慌てたように急いで医者に問い詰めている。
それは一言で切られた。
「最善の手は尽くしました。ですが、■■■■■」
何て言ったのだろう? 死亡が確認された?
内蔵への傷や火傷も酷く、治療が追い付かなかった?
誠に……申し訳ございません。と一礼。
両親はその言葉を聞き、先程まで座ってた座席にヨロヨロと戻る。僕は、その言葉を聞いて、頭を抑え後悔した。
える君は、泣くことはなく――凍り付いたように無表情だった。
その後、寝台に横たわる2つの死体を見ても、える君の表情は変化など無く、静かに冷たくなりつつある死体に触れている。
そして、僕でさえも冷静に死体を見て、
える君と同じく雲散霧消とした感情を共有した。