*37
ほんの少しだけグロい……のかな。
ほんの少しでも苦手な人は注意!
「ミソラんが、ミソラんが消える。ミソラんが消えてしまう……僕を置いて、置いていく。
それは駄目。絶対に駄目。
僕には君にいて欲しい」
「どうしても消えるのなら、僕は。
僕はどうしたら良いんだ……教えてよ」
「ねぇ、ミソラん」
夜に儚く泣きそうに彼女を求める声が聞こえてくる。壁に腰掛けては扉の方へと意識を向けて、彼は一人言を何度も呟く。
目は虚ろで写してるようで、何も写してなかった。
昔のように、彼の腕には消え入りそうな小さな灯火を宿す。まだ生きる希望はミソラんがいる間は捨てることも出来ない。
だけど、小さな灯火でありながら輝く焔を持ちながら、消えることは無くも彼の精神は確実に蝕んでいた。
ギシ、ギシ。
扉越しに軋む音が聞こえてくる。
どうやら、彼女とその両親の話し合いが終わったようだ。彼女は自室へと戻るのだろう。
そして眠ったら、悪夢に魘される。
僕はそんないつ壊れてもおかしくない彼女を見ているのも辛い。
出来ることなら、君だけでも死ぬ以外での救われ方をして欲しい。そのためには、やはり彼との接触は免れ無いだろうが。
梟が鳴く音に耳を傾け、彼――恵留は静かに眠る。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「こんばんわ、そして久しぶり、と言っても通じるかな? 五年前にも会って名乗ったと思うけど、もう一度名乗るね。
自分は【羽川 終】。
こんな時間帯だけどお邪魔させてもらってるよ」
アルビノ特有の白い髪、白い肌、赤い目を持つ童顔の青年。名前を終。五年前に私を呪った張本人である。
その終は私とは目すら合わせず、私の私室を物珍し毛に見回しては、苦笑しながら語りかける。
こんな時間とはいえ、まだ9時では?
そんな疑問を壁に掛けられている時計を見れば、不思議な事に短針も長針もピッタリと12の所で止まっていた。
これには冷や汗が隠せなかった。
表情にも驚愕か、何かは出てるだろう。
それなのに終は気にした素振りすらしない。むしろ、その程度の反応かとつまらなそうに、また部屋の周りへと視線をあちこちに移す。
私は一人、混乱するなか精一杯の言葉を紡ごうとするも、上手く纏まらず言葉にすら出来ない。
何がどうしてか、どうして今なのか、どうして居るのか、どうして、どうして? と頭の中ではパンク状態に近い。
私が混乱するのが可笑しいのか、終はまた笑う。
「居ちゃ駄目だったかな? でもね、君が自身の死に対しての思いが僅かに揺らいでいたから来たんだよね。
自分って親切だと自負してるからね、これでも」
終はあははと作ったような笑い声を上げてはお腹を抱える。対して痛むことすらない腹を。
何が可笑しいのか理解に苦しむ私は、顔を歪めるほど感情的になりつつも、冷静に彼の動きを視界で捕らえ続ける。
「あはは、可笑しい。君も笑えば良いのに。
ほら、笑顔。笑顔。スマイルとも言うけど。
……あれ? さっきから全然喋らないけど昔と違って無口さんになってしまったんだね。
時間の流れとは悲しいね……。ねぇ、ねぇ」
私は混乱し続けた。
もはや望んで止まないはずの終が目の前に居るのに、私は動けない。喋れない。何も出来ない存在のような気分にもなる。
ふと彼は笑うのを止めて、親指と人差し指でパチンっと鳴らす。
視界の色が変わる。それは白黒反転とした景色。
そうここはまるで――。私の知ってる――。
「【死を望まぬ庭園】」
終は白黒反転さえせず元々の姿で立ち、惜しげもなくこの空間の真名を言う。
私だけが知っていると思っていた空間に、私だけの空間だと思っていたのに、彼は無断で私の領域を侵す。
私に宿る青い焔は、私の不安な心情を表すようにゆらゆらと揺れて、終の首元で燃える白い焔は生きてるかのように笑ってるように見えた。
「死神ちゃん。駄目じゃないか。
君の固有空間であるこの場所はちゃんと厳重にしなきゃ。こんなに簡単に入れてしまってるよ。
ほら、領域が荒らされちゃうよ、指パッチンで」
そういって終は親指と人差し指でパチンっと指を鳴らす。彼以外静かな空間ではそれが周りへと響き渡る。
パチンっ、パチンっと二度、三度と鳴らす。
その度に私の中で何かが消える感覚に陥る。
「これは……あはは、あはは。
あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
10は鳴らした所で終の指は止まり、彼は突然破裂するような、先程のような作った笑いでなく、狂った笑い声を叫ぶ。
あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ……。
止まる事の無い笑い声は、私の神経を逆撫でし、今までの恐怖が殺意へと変わる。
少しずつ……少しずつ……。
私の青は黒色に侵食されて、殺意の焔の色――紺色に変わる。
「あひゃひゃひゃ……ん?」
そして笑い続けては私を苛つかせる終の首筋へと一本の刃が向けられた。
その瞬間、終は笑うのを止めた。
私は、今から彼を殺そうとして――笑っていた。
あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ……。
耳元で聞こえくる不快な声を自ら出してる事に気付くことが出来ないのは、私の能力が一番精神に多大な影響を与えたからだろう。
私は紺の大鎌を勢い良く降り下ろした。
鎌からは肉を無理矢理引き裂く感触と、何かにぶつかる度にそれを押し出そうという力が働く感覚に私は更に笑みを深めてしまった。
そんな気味の悪い私に終は、血を口から流しながらこう言った。
「……気持ち悪いな」




