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ピ、ピピ……ピピピガチャ!
目覚ましが本格的になり始める前に、丸まった布団から伸びる細く白い腕。
私はまだ眠気が取れない状態ながら起き上がろうと布団を捲る。
「う、う~ん……ん?」
朝早く目を覚まし、ストレッチ感覚で腕を天井へと伸ばしては、なんとも艶めかしい声を出す中、私はふと体に違和感を覚える。
体を見渡しても特にこれといった変化はない。今日の悪夢はそれほど酷くなかったような記憶もある。
となると、勘違いかと思い直す。
ベットから出ては制服をクローゼットから取りだして着替える。もはや1分と掛からぬ早業。
私は窓から見える空を見上げる。
まだ春は始まったばかりの明るい空を。
「「行ってきます」」
「行ってらっしゃい」
母親に見送られる中、私とえる君は仲良く手を取り合い元気に登校する。
私の鞄の中には、あの設計図と碌に取る気もないノート達。筆記用具は勿論あるが、教科書に関しては常に机の中であるがゆえに無い。
歩く度に揺れる鞄は私の肩に負荷を掛けつつ、多少の筋トレの一部になるのだろうかと、くだらない事を考えてしまう。
「える君、私ね……面白いものを作ろうと思うんだ。ね、なんだと思う?」
私は坂道を登る所で彼より先に前に立ち、後ろを振り向いては彼に問う。
答えはロボットもしくは機械なのだが、える君の珍回答を期待……じゃなかった話題一部として聞いてみた。
「面白いものか。ゲーム、とか?」
「ちょっと惜しい! 答えは――」
「ロボット、だろ?」
「む、今いう所だったのにぃ……」
「知らないよっと」
える君は少しだけ考えて答える。なるほどゲーム……それはロボットの後にでも挑戦してみようかな。
私は答えを教えようとしたところで遮られる。
誰かと思えば空気を読まない、読むことをしない、KY蒼君ではないですか。
遮られて、更には100%の答えを言われたことに対して私は不満を持つ。頬をやや膨らませたら、蒼に手で頬を掴まれて、ブフーっと情けない音を出てしまう。
どうやら意地悪蒼君でもあるようだ。
「ハハッ、おもしれっ」
「ムカッ」
「ハハッ、じゃあな」
そういっては去る蒼。
「む~~」
ちょっかいだけして、笑うだけ私を笑って行きやがった蒼に対して、私はイラつきのあまりに地面に地団打を踏む。
「ミソラん」
そんな軽いやり取りで、隣ではえる君は暗い表情で影を落としていた。
私は蒼に対しての怒りでこの時はまだ気付くことが出来なかった。
昼休みには足は自然と旧校舎二階の部室に赴き、先輩を除く私達四人は寛いでいた。
いや、正確には各々が自由に行動し、文字通り寛いでいたのは、女々ちゃんのみだろう。現に【絶対執事!?】の小説を頭に被せ寝ている。
私は蒼とロボットに関しての話し合い、える君には書記を任せている。
そんなカオスな部室の扉がバンッと力強く開かれる。言わずもがな真久津先輩である。
「クハハッ! 今日も勉強かと思ったかや、残念違う……って、誰一人やってすらいないのかや!?」
「先輩、煩いです」
「スミマセン」
手を全面に突きだしては叫んで何かを言っているが、こちらとしては別のことで集中しているので注意する。
先輩は精神面が弱いのか、すぐに謝り、部屋の端っこへと向かい膝を抱え体育座りをする。
その内、いや既にのの字を床に描いて、構ってオーラを出す。が、勿論皆無視を決め込む。
「で、足なんだが、階段とかキツイしどうするつもりだ? ミソラ」
「階段……浮かせるとか駄目?」
「駄目だな、技術はあっても少なくとも積載重量が重い。キャタピラの様なもので補うか」
「何かどんどん可愛くない」
「知らんし」
当初考えてた物は、いつの間にか無骨な物へと変化している。理由は簡単、効率重視だからだ。
でも、さすがに無骨過ぎてつまらないと言えば、蒼は知らないと聞く耳を持たない。……ちょっとショックです。
える君には悪いが、一生懸命消しゴムで消してもらって書き直してもらっている。
まさかのえる君の絵の才能が発揮されている瞬間でもあるが蛇足だろう。
「の、のう……何をやっとるんじゃ?」
おずおずといった感じで、先程まで塞ぎ込んでいた筈の真久津先輩はこちらを覗いてくる。
「私なりに考えて、認可を別のことで取る計画です。……といっても今は原案作りで」
特にこれといって隠すことも無いので、私は正直に答えると先輩は増々興味を感じたのか、設計図を覗き見る。
「ん? ロボ……ット?」
その時、先輩に電流走る! 的な副音声が流れる。背景、音声元は先輩の後ろでスタンバってる黒子達だ。
とりあえず、黒子達から目をはずし、再び先輩の方へと顔を向ければ、キラキラと輝いた目で肩を揺さぶられる。
「こ、これ! 作るの!?」
「あうあうあう~~!?」
「何で教えてくれないのー!!」
「あうーーー!!」
「落ち着け、お前ら」
先輩は興奮を隠せないといった感じで、私が悲鳴? を上げようが気にすることもなく肩を揺さぶり続け、最後の方では私は意味のわからない奇声を発しながら先輩の攻め苦から逃げ出す。
そんな光景に呆れた声を出す蒼は、最後まで助ける事はしない。える君に関しては呆気を取られ動けなかった模様。
女々ちゃんには期待してないが、騒ごうが何しようがマイペースにも寝続けている。
「ロボットだぞ! 落ち着けと言うのが無理ですよ! 少なくとも、私には」
「言葉遣いが地になってるぞ」
「今はそんな事どうでも良いのです」
「ですか」
蒼は最後に疲れたため息を吐き、気にしない方向で行くのか私の考案に耳を傾ける。
それを見て、私はまたこれは駄目か、あれは大丈夫かと蒼に確認をとっては、える君に蒼が色々と書き加えたぐちゃぐちゃな物を、綺麗に纏める。
「何やら本格的じゃが、ロボットだなんて余計に時間が掛かるのではないか? それにこれを一から作るつもりかや? それこそ謎じゃな」
「ああ、それについては私が」
真久津先輩は現実的な問題を指摘する。
私は蒼に説明させても良いのだけど、任せっきりにはしたくないので今回は受け持つ。
先輩の知的好奇心が高いのは意外と面倒だなと思ってしまうのは仕方ないだろう。
とりあえず率直に簡潔に答えることにする。
「全部、蒼に丸投げします」
「は?」
至極当然とばかりに堂々と私は言うと、先輩は呆けた顔をする。
はて? 何処か間違ったかな?
「見宙……お前説明下手過ぎる」
隣では嘆息する声もして、結局蒼が事情を一から十まで話す事となる。
わ、私だって分かりやすく伝えたつもりだよ。
そう抗議しようとしたが、無駄だと悟ってしまう自分の経験が悲しくなる。




