*29
「俺は……神様の遣い……もとい天使だからな」
蒼は当然だろうと自信ありげに言う。
それは数年前から聞かされていた事実。
神は、神の遣いは空から大地を眺める。眺めて、眺めて、暇潰しに巨大低気圧。
大地には次第に生き物が――ウジャウジャと気持ち悪いと神は感じる。神からしたら気持ち悪いも良いところ。
例えるなら、一種類その生き物がいたら百匹は覚悟しろ的な。
だから神は言った。
「生理的に無理」
余りにも無情な一言を。
そしてそれが発端で蒼が嫌々ながら来た。一応、そう聞かされている。だから、天使だという事実を私は信じている。
ただ私としたら、彼が真面目な顔して天使だなんて……ブフッ! 思わず吹き出しそうですから止めて欲しい。
「ブフッ!」
「おい、こら」
女々ちゃんも堪えきれなかったようで実際吹き出してしまう。女子なんだからせめてゲラゲラとその後、豪快に笑うのはどうだろうか。
「だって~、蒼が真面目な顔して天使……だなんて……ブフッ! 腹筋痛い……」
「女々ちゃん笑い……過ぎ……」
「はぁ、お前らな」
女々ちゃんはがまだ笑うから思わず私まで笑いが移ってくる。堪えきれているかどうかはともかく蒼にはバレバレのようで、声からして呆れてるね。
「ふぅ、スッキリした!」
「さっさと自己紹介しろ!」
「ハイハイっと、ちょっと時間頂戴……」
「おう」
そして、数分してゲラゲラと笑ってた女々ちゃんも佇まいを直し、その立ち姿は凛として真剣な雰囲気を醸し出す。
時間が欲しいのは、きっとどこまで話すかを今は考えているのだろう。蒼の、いや先輩の言う“天才”は女々ちゃんの事だろう。
ちなみに異常だと、化け物だと言われるのは私達。
でも、える君は化け物だなんて言わせないよ。こんなに可愛いんだ、化け物だなんて言ったら激怒プンプン○です。
「~っ!」
ただ、また空気がピりつくのを私は感じる。
蒼は別に良いとして女々ちゃんにまで……ムカつく。
黒子さんたちには悪いが私も友達にこれ以上殺気を向けるのが嫌いなので、自身の目に力を入れて【死を望まぬ庭園】に繋ぐ。
ギロリと擬音語が付き添うなくらい黒子たちを睨む。気づいた黒子は一目散に消えたがまだ気づいてないやつがいる。
見えるだろう殺意の紺色を持つものには、同じ紺を。
私は――今、情緒不安定だから。
だから、殺意には殺意を。
白黒反転とした景色には、紺の焔が合計5つ。
私にしか見えないだろう紺の焔に、“遠距離から無理矢理”道を繋ぐ。
流石に魂を、心臓を捕まれるような物なのだから、自身の違和感に気が付く。そして、私に目がいき震え出す。
(ああ、見えてるんだ……)
たちどころに震え、怯え、恐怖し、黒子たちは膝をつく。その姿に私は無感情な思いを抱く。
私は――今、情緒不安定だから。
だから、どんなに後悔しようが殺すと決めている。
私の紺の焔は断頭台のように彼等の首に纏わりつく。
そして、後は死ねと言うだけ……。
「死――「ミソラん、駄目だよ」」
「……」
「落ち着いて、ほら女々ちゃんの自己紹介が始まるから」
「……分かった」
える君の言葉が耳に届く。
多分、もし届かなかったら今頃殺していただろう。
不完全燃焼な思いを抱きながらも、殺意を消す。目にも力を抜き、目頭辺りを指で揉む。
黒子たちはもうすでに居ない。
真久津先輩もなにも言わない。
「私は――」
女々ちゃんは一回、区切る。そして、深呼吸をし冷静になる。
彼女が“天才”と呼ばれる由縁を言う。
「私は、エジソンの娘。デザイナー・ベビーよ」
遺された偉人であり狂人の魂を身に宿してしまった哀れな“天才”。そして、私達の中でも最も固く心を閉ざしてしまった試験管で生まれた娘の話を。
「私は無感情な人間だった」
それが私達の女々に対する第一印象。
それは周りの環境もとい研究員達が作り出した人格。研究員達は彼女に生まれる頃から知性を際限無く与えた。
「結果こそ全てで、それが私の意義」
三歳には全国の言葉を話し、五歳には医学的論文を。
研究員は彼女に期待し、それは重圧であり普通なら立ち竦む。だけど彼女は失敗すら恐れず結果を叩き出す。
「ある時に、学校に行くように言われた」
次第に感情が無い彼女を恐れた者達は彼女を事実上逃がした。
「学校はつまらなかった」
でも、彼女にとってそれは苦痛でしか無い。
「私はとある時に彼女と出会った」
数年前、私が呪われて間もない頃。私はまだ壊れてなかった頃。
「私は初めて救われた」
小さな子供に私はまた罪なことをした。
「彼女に私は今でも感謝してる」
そこでまた一旦女々は区切る。思いふけるのは過去の記憶、彼女は天才であったが一人の人間でもある。
「それが私、今を形作る私」
時間に、過去に取り残された哀れな娘。
今でも彼女は結果のみを望む。




