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「money……お金」
「あう」
蒼は小声で英単語帳に書いてある所を音読をする。
「monkey……猿」
「あうあう」
妙に発音が良く、耳に通るような声音である。
「monster……化け物……ね」
「あうあうあう~!」
蒼はモンスターもとい怪物となる訳を敢えて化け物と言い直す。そこには自嘲めいた言い方で、儚く、小さい声で。
そして、この奇妙な声を上げているのは私ことミソラです。
私は未だかつて無いレベルの羞恥プレイを浴びている。上からは乱雑な撫で、下からは膝のせ、横からはニヨニヨとした視線など。私のSAN値を削るのに大きく貢献してしまった。
そんな原因の発端である蒼は平然とした顔で、持つ手にある単語帳から手を離し、もう片方の手はナデナデは止めずに、目は真久津先輩を見据える。
「ところでだ。先輩、幾つか質問して良いか?」
「うむ、良いぞ」
真久津先輩は大きく頷き了解を得る。蒼はそれではと前置きして真久津先輩に問い出す。
「まず1つ目だ。何故、先輩は俺達を集めた?」
「偶然じゃないかの」
「確かに偶然かもしれない。だが、俺達が揃うのに疑問を持つ」
「考えすぎ……じゃな」
蒼の問いに憮然とした態度で先輩は答える。蒼は何が言いたいのか……私にはまだ分からない。そしてナデナデは何時止めてくれるのかも知りたい。
「二つ目だ。部費優遇の件、この部屋を見る限り充分だと感じるのだが、どうする気なんだ?」
「ふむ……、現状では満足しない……といった所かや」
「これだけ用意出来て満足しない……ね」
蒼の問いに先輩は長考し、答えを渋る。蒼は先輩の態度にニヤリと笑い、最後の一押しをする。
ただ先輩が相手だからか、やや緊張した力が撫でる手に加わり痛い! 早くこの謎問答が終わることを願いながら蒼の顔を上目使い兼涙目になりつつ覗く。
「最後だ……。何故、俺達を異常だと決めつけた? いや、天才とも言っていたよな?」
「言っていたかの……」
「果たしてそれは俺達が揃うのに充分な理由付けになるのかな?」
「…………」
「その沈黙を肯定と受けとるとしたら、それは俺達が揃うのに充分な理由となるのだろうね」
「……ああ、もうそこまでたどり着いてるなら、主は答えは分かってるんじゃないかや?」
「だな」
最後の問いに先輩は蒼に投げ返す。その言葉に蒼は周りを見渡し、一旦目を瞑り考える仕草をして答える。
どうやら、蒼は私たちの事を言うらしい。……別に全力で隠してた訳では無いから良いけどね。とりあえず最初は蒼の事を話すだろう。
それより私は撫でる手がピタリと止む時を今か今かと思い待ち続ける。私にとっては今はそれが最重要事項である。
「先輩が何の異常なのかは分からない」
「魔王の娘だと言っておる」
蒼は首をふり、おどけたように分からないと言う。真久津先輩の発言は、「どうでも良い」と蒼に一蹴され、真久津先輩はやや落ち込む。先輩……。
「ただ言えることは俺達が“化け物”と部類されるような者であること。そして、それを先輩は知っているということ」
「“化け物”かや。些か酷い表現じゃの」
蒼の淡々とした発言に、真久津先輩は自嘲毛に苦笑する。私は“化け物”だなんて不愉快だから、口を尖らせ不満の意を表す。
「だって俺は知っている」
そこまで言うと蒼は私をようやく解放して、椅子から立ち上がる。私は直ぐ様える君成分を補充しに行く。
える君~! ハグハグ~!
私はえる君に正面突撃。そして、長年培ってきたジャンピングバグを見事に決める。10.0って所かな?
ただ、蒼が立ち上がると同時に黒子……もとい周りに緊張の空気が漂う。何かから身を守るというよりは発言次第では蒼を殺すと言いたげな空気だ。
私はえる君の側で、次の蒼の言葉を静かに待つ。える君の横にいる女々ちゃんは興味すらなく勉強に飽きたのか船をこいでいるけど、とりあえず気にしない方向で。
蒼の判断を考慮すると、この部活はどうやら“当たり”のような物らしい。もし本当に“当たり”だとしたら、私は――。
だからこそ、蒼の次の発言を待つ。
それはどこかお伽噺のような、どこか非現実的な、そして見応えがあるくらいにまで狂ってしまった存在の名を言う。
「俺は……神様の遣い……もとい天使だからな」
蒼は――天使だ。




