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トラックの運転手は、毎日の長時間労働で体力的にも精神的にも体が持たなくなってきていた。
所謂、最近のブラック企業に就職してしまった。
彼は少し遠くで赤信号であったが、このスピードなら普通に青信号になるなと思いスピードは緩めなかった。
案の定目の前の信号は青信号になり、安心してこの先の道のりを思い出す。それが視界の道路状態の情報を狭める選択だった。
――これは不注意という名の事故であった。横からまだ横断している老婆。それにギリギリになって気がつくトラック運転手は、急ハンドル、急ブレーキを使い何とか老婆を避けるも、目の前には下を向いて歩く青年が見えてしまった。
彼は内心、いや事実もう間に合わないと分かりつつも全力でハンドルとブレーキを使うも、ぶつかってしまった。
僕はトラックにはね飛ばされた。
人間横から来る衝撃に弱いと言うが、流石にトラックにぶつけられたら、ひとたまりもないだろう。つまり、もう自分は生きられないだろう。
薄れ行く視界の先では横転したトラックが炎上しているのが見える。
これでは、脇道に転がってる僕なんて救援者すら気付きにくいだろう。僕はこんな薄暗く小さな脇道に一人、誰一人知られず、気付かれず死ぬのだろうか。
そう思うとどうしてだか寒くなる。
凍え死にそうだな、アハハ……。
そんな諦めの中、赤いパーカーを着た少女が近づいてくる。不気味にも足音はたっておらず、刃物が擦れる音がする。
ははっ、こんな僕でも気づいてくれる人がいたのか。
思わず自嘲せずにはいられなかった。
視界が既に赤く染まりだしてきていると少女は何処からか右手に異様なほど禍々しい大鎌を持ち、これから死ぬであろう人間にこんな事を言う。
「ねぇ、死んでくれない?」
何とも可笑しな話だった。笑わずにはいられず僕は「はい」と笑顔で答える。
「ありがとう」
その言葉と共に手に持っていた大鎌を僕に目掛けて
勢い良く降り下ろす。
自身の身を引き裂かれる感覚を一瞬感じて呻くが、それも一瞬でありもう何も感じもしない。
最後に見えたのは、何かを言う少女の悲痛そうな笑顔と、降り下ろされて血濡れた大鎌だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
視界がぼやける中、僕は目を冷ます。
体は重く自由に動かせない。
出す声も「あ~、う~」としか聞こえない。
大学生ともあろうものが、赤ちゃん言葉か……後遺症と考えるにしても、何と言うバツゲームだろう。いや、羞恥プレイ過ぎる。
そんな変なことに対し悶絶している僕に、大人二人の顔が覗かれる。見たことない二人だ。
トラックで自分の事をひき殺そうとした運転手家族だろうか。
男女両方共、ぼんやりとだが美形なのが伺える。
うん。凄い美形、モデル夫婦かな。
くそ、リア充だ。リア充がここにいるぞ~!
何となく殺意を覚えるが、寛大な自分は、そんな二人を見て、
入院費、治療費、そのあとの学費、生活費もろもろ含めた物さえもらえれば許そう。何しろ自分は心が広い人間だからね。と密かに思う。
それにしても、ここは病室だろうか。
テンプレではあるが知らない天井だ。
真っ白。
この部屋を一言で表すなら正にそれだ。
しかし、ここが病室なら、病室独特の臭いがあるはずなんだけど、全然臭わないんです。
まさか、これが、最近のファ○リーズの力だろうか。パナイ。
そんな馬鹿なことを考えては、笑みを浮かべ笑ってると二人のうち女性の方が粋なり僕の体に腕を回し、持上げ、抱っこする。
女の人の腕、こんなに細いのに抱っこですか。
へぇ……スゴイチカラモチナンダネ。
と現実逃避するも、今の現状から把握出来る材料が多いに存在し、そこから導き出される仮定が出来る。
判断材料は以下の通りだ。
1つは、ひき殺され、美少女にも止めを刺されたはずの自分がこうして五体満足? で居られてること。
2つは、生きてるのは良いがさっきから上手く動けないこと。そして指がプッくら膨らんで見えるし、さっきから耳に入る言葉が「あ~、う~」でること。
3つは、視界に映る二人の顔が笑顔で、とても幸せそうなこと。
イコール……推定事項一件。
いや、もう確定に近いだろう。
でも、信じたくない。絶対に嫌だ。
止めろ、鏡なんか見たくない~!
だから、だから!
鏡に映る僕(もとい赤ちゃん姿)を見せないで~!
僕はこの世の不条理に、激しく泣きそうに――。
「オギャアァァーー!」
いや、割りと普通にギャン泣きした。
「あー、うー」
「お腹空いたでちゅか~?」
↑
予想される出来事。
自分の言う羞恥プレイ。