表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神は人の死を望まない  作者: ByBuyBy
死神は否定
11/40

*11

 その後、僕とえる君と両親は車に戻り自宅に帰る。


 最初はえる君は、える君自身の家に入ろうという気分で、我先に車から飛び出した。でも、そこは僕の家であり、える君の家ではない。


 える君は、まだ現実を受け止めきれていないのか。


 鍵が上手く開かないことを不思議がっている。


 ……正直、憐れでしかない。


 僕は見てられない気分になりつつも、

 目だけはえる君から離さない。


 両親はえる君に退いてもらい玄関を開ける。


 そして、える君は中の光景を見て、フリーズする。


 える君の両親ならいつもここで「おかえり」と言ってくれたのだろう。でも、もう居ない。


 える君は現実を思い出したのか、また先程までの無表情に戻り、そのまま立ち尽くす。



 もはや、この現実が夢であれと僕は思う。




 その後、両親はえる君に今日はこちらに泊まることを薦め、やや強引にも承諾させた。


 僕は自身の部屋へと戻ろうとするが、

 いつの間にか服の裾に小さな力が加わっている事に気が付く。勿論、える君だ。


 える君の表情は、未だ無表情で何を思っているか分からないが、離れたくないようだ。


 ……正直、自分だって離れたくない。


 いつものような抱き付きたくなる衝動を抑えつつも、える君と自室に向かう。


 寝間着を取りだし、える君に似合いそうなのも渡す。

 簡単な水玉プリントの奴だ、僕と色ちがいの。


 二人で風呂に入り、える君はボーッとつっ立ってるだけなので、僕がせっせと洗ってあげて一緒に湯船につかる。お湯が熱いせいか、える君の顔は無表情ながら頬が赤い。

 湯中りする前に二人して風呂から出る。


 二人椅子を並べて夕食である簡単なものを食べて、

 また自室に戻る。そして、最初こそは気が張ってて気付かなかったものに今、気付いてしまった。


 部屋の中は暗く、自分の視界は黒色に染まって見えた。



 ――黒。



 自分は思わず全力で部屋から飛び退く。



 「あっ……」



 すると、突然のことで手を離してしまって部屋に一人取り残された、える君は離れた手を見て一筋の涙を流す。たった一滴。


 床に落ちた後には僕は、える君を思いっきり手を握りしめた。


 離したこと、離してしまったことを謝罪するように……。





 「える君」


 「…………」



 僕は、真っ暗で何も見えない自室の中、目に力を入れ赤く燃える焔を頼りにえる君の存在を確かめる。


 ただ、その焔はいつもの拳大より小さくなっていた。


 まるで今のえる君の命を現すように小さくなっていた。


 僕の声は、このまま届かないのかな。


 える君までもが、消えてしまうのかな。


 僕までもが不安に、暗くなってきた。



 でも、える君だけでも――。



 僕は諦められない。える君に生きて笑顔でいてもらう。


 僕は、える君に生きてほしい。笑ってほしい。泣かないでほしい。辛い目に会っても壊れないでほしい。


 エゴかもしれないけれど、それのためなら何だってしてやる。


 だから、力に、望む、救う力を。





 「える君、救うよ。君みょ、自分みょ」



 自分はえる君の両腕を掴み、力を込める。



 生きて――笑って――。



 える君へ願う。力に願う。自分は願う。


 変化はなかなか訪れない。でも、緩めるつもりはない。

 頭の中でこれが最善だと理解する。

 なら込める力を、願う思いを強くする。



 生きろ――笑え――。



 僕は何度でも、意味がないかもしれないことをやる。何故だかは分からない。ただ助けたい一心で、ただえる君には笑顔で生きていてほしい。


 気持ちが、込める思いが、徐々に高ぶりだし、える君を失いたくない。その一点に執着する。僕が代わりに消えても良いと思いながら力を込める。



 ――もう放っておいてよ……消えてしまいたいんだ……。

 もう生きていくには、辛すぎるよ。




 そんな事を望む彼の声が一瞬、脳内に響き渡る感覚に陥った。


 それは僕の望む返事ではない。

 だから、僕は僕自身のエゴを最後まで押し付ける。



 「える君、える君。える君!

 死を望んじゃダミェーーーー!!!」



 僕は高ぶる感情の叫びをあげる。


 それと同時に自分の心の中で願う。


 どうか彼だけでもお救い下さい。


 ――神様。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ