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それは偶然だったのかもしれない。
いや、必然だったのかもしれない。
どっちにしても結果は同じなのだ。
抗いようも、何もかもがあったものではない。
それくらい強制力のある強い出来事がある。
人はそれを総じてこう言うだろう“運命”と。
まだ冬の寒さが厳しい12月某日。
雪がこんこんとふる中、僕の視界は赤に染まり、同じ赤に染まる彼女の姿を映す。
彼女の背後では別の喧騒が聞こえてくる。
しかし、それも今となってはどうでも良い。
道路脇の狭い脇道ではその喧騒さえも届かない、
別の空間のように静かであった。
これが出会いであり、これからの始まりだった。
赤に染まりし彼女は、僕にこう告げる。
「ねぇ、死んでくれない?」
「はい」
僕は普通を望み、生を何よりも望んでいたはずなのに、僕の口は、それとは裏腹の言葉を吐く。
きっと疲れてしまったのだろう。
「ありがとう」
彼女は優しく微笑むと、片手に異様な大鎌を持ち
風切り音を置いていきながら降り下ろす。
僕は黙って自身の死を待つ。
ああ、これで終わりか。
ゆっくり目蓋を閉じて世界を閉ざす。
――僕は死ぬ前の少し前の記憶をリフレインする。
今日、僕は公園で女性を待っていた。
かれこれ半年位の付き合いになる彼女である。
どうだ? 可愛いだろう、羨ましいだろう?
僕はちょっとリア充な人生を歩んでいます。
そんな彼女が待ち遠しく、待ち合わせの時間である昼頃から一時間前という早めに来て、寒さのあまり早速後悔し始めた。
体温は冷めそうだけど、恋心は熱いままだね。
それから二時間たった。
一時間遅刻の彼女。
でも、彼女なら許せるよ、いつでもバッチこい。
惚れた弱味には弱い僕である。
何てったって初めての彼女だし、浮かれてしまう。
スマホを開き、彼女に「遅いよ~、寒いよ~」と冗談ぽくメールで伝える。返事はまだ来ないが、これを見たら彼女は焦るかな?
クスクスと内心予想して苦笑する。
更に五時間たった。
流石に立つのが疲れて近くのベンチに腰を下ろす。まだ彼女からは何もない。
メールは十件、電話は三件、いずれも彼女の方からはうんともすんとも何も無い。
今日は来てくれないのかな?
内心そう考えつつも、もう少しだけ、もう少しだけ待ってみようと心に決める。
ああ、君が待ち遠しい。
更に五時間たった。
予報通り雪が降り、いつの間にか一センチ程積もってきている。
流石の夜で気温も昼とは違い、かなり冷えて体が凍えそうになっていた。
暖かな缶コーヒーをカイロがわりにして彼女を今まで待っていたが、どうやら今日は来てくれないようだ。
スマホを開くが、彼女からは何もない。
合えないからか、少しだけ悲しい。
肩まで被っていた雪を払い、僕は自宅に帰ろうと重い腰を持ち上げる。
帰り道、ゲームセンターやコンビニの明かり、車のヘッドライト、街灯、その全てが妙に眩しく感じ、頭を下げ歩く。
雪で足が縺れ、通行人とぶつかる。
「痛いです。気を付けて欲しいです」
と通行人は声を漏らすように言う。自分も「ごめんなさい」と謝罪を言葉にした。
下げ続けた頭を一回上に上げたが、見たくもないものを見てしまった自分はもう一度頭を下げ歩みを止めなかった。
そして、スマホを開き彼女に告げる「別れよう」
その言葉の返信は早く「分かった」たったその一言で、今日一日の出来事で彼女と自分は他人と言う関係に戻った。
ああ、悲しいのかな。
冬空の下、自分はスマホを握りしめ荒む心を落ち着かせようと努力する。
そして、顔を上げる頃に、トラックは目の前まで迫ってきていた。
アハハ、もう疲れちゃったよ。
激しい衝突音と共に僕は意識ごと体をトラックに撥ね飛ばされた。きっと僕は今日、死ぬ日なのであろう。