逸話.捜索中だが見つからない…
◇◇◇◇
「愛良のやつ、いったいどこに飛ばされたんだ?」
若干イライラした様子のカイン。
まぁ、お嬢がいなくなってから2日経つからな。
お嬢からの連絡もなんにもないし。
そりゃ心配でイライラもするよなぁ……。
ちなみに俺様とカインは今、帝国にある森の中。
カインが鬼畜長男の残した僅かな魔力痕をたどって、この場所に出たんだ。
あの長男の魔力痕を辿れるって、カインって何気にすごいやつだったんだな。
天界でも三つ子の魔力痕を辿れるやつなんて、片手で数えるほどなのに。
だけど、その魔力痕を辿るのに2日かかった。
あのお嬢がいつまでもこんな森のなかにいるはずがない。
「お嬢、魔法も何も使わずに歩いて行ったのかー?」
さっきからお嬢の魔力痕でもないかと探っているのに、まったく感じられない。
せめて飛翔とかを使ってくれていたら僅かでも魔力痕が残っていれば、俺様やカインで探れたってのに……。
「シリウスが一緒にいるんだろうし、シリウスに乗って行った可能性もあるな」
俺様と同じように周囲を見渡していたカインがため息交じりに口を開いた。
とにもかくにも、お嬢を見つけるのはまだ無理そうだ。
「とりあえず、近くの村に行ってみるぞ」
「うっす!……ん?」
飛翔で森の上を飛んだカインをコウモリ姿のまま追いかけると、俺様は見つけてしまった。
お嬢の大好きな落とし穴を!
「カイン、お嬢の痕跡発見!」
「どこだ?……ああ、愛良だな」
カインも穴を見るなり超納得。
だって、お嬢の魔力痕を感じるし。
……普段より穴デカいけど。
たぶん普段の5倍くらいのでかさだけど。
というか、中に人がいるくね?
「……話を聞いてみるか」
「賛成!」
穴の近くに降りると、中に落ちていた4人の目が輝いた。
「人だ!」
「人が来た!」
「助けてくれ!!」
「腹が減って死にそうだ!」
「「………」」
一斉にそう言ってくる盗賊っぽい男たちなんだが……。
いやいや、そんな深くないじゃん。
さっさと出ろよ。
「……お前ら、何で出てこないんだ?」
カインの意見はもっともだ。
誰かを踏み台にして全員が上がって、それから最後のやつを引っ張り出したらいいじゃねぇか。
何でそれしないんだよ。
そんな俺様たちの視線を受けて、男たちはお互いに顔を見合わせる。
「え?だってジャンプしても届かないんだぞ?」
「そうだそうだ。昨日、雨が降ったから助かったんだ」
「俺、みんなを引っ張り出そうとしたら、一緒に落ちたんだ」
「壁を削って足場にしても、壁が広がって行って結局手が届かなかったんだ!このまま死ぬかと思ったー!」
はい、こいつらの話を聞いてとりあえず一言。
「「いや、お前ら馬鹿だろ」」
馬鹿以外の言葉が思いつかねぇ……。
何で落とし穴がこんなにデカいんだと思ったら、自分たちで広げていってたのかよ。
だから穴の中の所々に砂山があんのか。
「こいつも馬鹿って言った!」
「あの鬼っ娘と同じこと言った!」
「お頭は馬鹿だけど、俺たちは馬鹿じゃねー!」
「俺だって馬鹿じゃねー!」
一斉にわーわー喚いているが……こいつら、煩い。
馬鹿は馬鹿に違いないんだから、大人しくしてろよなぁ。
魂刈って黙らすぞ?
「……鬼っ娘というのが、お前らをここに落としたのか?」
カインは忍耐強いなー。
俺様、思わず魂刈ろうと思ったのに。
まぁ、イラってしてる様子で目元がぴくぴく動いているけどな!
「そうだぞ。なんかすっげー魔法で俺たち潰したんだ!」
「すっげー力で殴り飛ばされた!」
「この穴に落とされた!」
「俺、馬鹿って言われた!」
「「「お頭は仕方がない!」」」
最後の男の言葉に、残りの三人が一斉にツッコみをいれる。
いやいや、お前らコントかよ。
「犬を連れていたか?」
「いたいた!あの鬼っ娘の肩に乗ってた!」
「それで、そいつはどこに行った?」
「「「「知ーらねー」」」」
ふてぶてしい表情で顔をそっぽ向く馬鹿共。
はい、こいつらに用はなくなりました。
「……次行くか」
「「「「ちょっと待ってー!!」」」」
無表情になって興味が完全に失せた様子で背中を向けたカインの姿に、本気で焦ったのか穴の中から必死に叫ぶ馬鹿達。
しかし、そんな馬鹿達のことは完全にスルーしてお嬢捜しに戻ったカイン。
……ちょっと可哀相だったから、出る方法だけ教えてあげといた。
俺様ってば優しー!
「あのコウモリ、親切だな!コウモリがしゃべるの初めて知った!」
「それより、誰が踏み台になる?」
「俺がお頭として踏み台になる!」
「「「んじゃ、遠慮なく!」」」
「遠慮してぇえええ!!!3人全員は重いぃいいいい!!」
「あ、お頭潰れたから結局届かないぞ」
「じゃあ次は誰が潰れる?」
「えーとなー……」
……あいつら、まだまだまだまだ出れそうにないかもしれない。
俺様、もう知らねー……。
ひとまず、一番近い村にやってきた俺様とカイン。
なんというか、すっげー田舎だなぁ。
宿屋すらなさそうだぞ……。
「逆にこれだけ小さいなら、余所者は目立つだろ」
肩に乗って休憩中の俺様を見ることなく前を向いたまま言い放つカイン。
周囲に視線を向けながら、お嬢の痕跡がないかを探しているが……全くなし。
普通にのどかな田舎風景だ。
「ちっ……すいません」
あまりの収穫のなさに、仕方なく近くの村人に声をかけたカイン。
……イライラし過ぎだろ、お前。
俺様、お前の肩に乗ってるんだから、思いっきり舌打ちしたのが分かったからな?
「あー?なんだぁ?」
「この2日の間に、犬を連れた黒髪黒目の娘が来ませんでしたか?この娘なんですが」
カインは、そう説明しながらお嬢の写真を見せる。
お犬様を抱っこしたお嬢が、写真に向かってにっこり笑いながらピースをしている写真。
なあ……いつの間にお嬢の写真を撮ってたんだ?
お犬様も映ってるってことは、最近のだよな?
「あー、よぉ似た娘っ子は来てただよ。えらいちっちゃな銀髪の子どもと、ワンコを連れていただな~」
「……子ども?」
へ?
子どもと一緒って、それ本当にお嬢?
しかも銀髪?
(カイン、いつの間にお嬢に産ませたんだ?)
思わず確認の意味を込めてカインに念話。
その一瞬後にはカインの手の中で握りしめられている俺様。
(潰していいか?)
(ごめんなさい!調子に乗りました!!)
あっぶねー……。
真顔のカインに、マジで握り潰されるところだった……。
だって、銀髪の子ども=銀髪のカインって思い浮かぶだろ?
俺様悪くない!
「……その娘は、子どもを連れていたのか?」
「んだ~。可愛え~子どもさ~。娘っ子も同じ銀髪をしてただよ~。ありゃ~親子か年の離れた兄弟だろぉな~」
はい、また不思議な情報が出てきましたー。
子どもを連れていた娘も銀髪だったって?
そりゃお嬢なら設定能力でいくらでも髪の色を銀髪に変えるなんて簡単だろうけど、なんでわざわざ銀髪にしてんの、お嬢!
探しにくくなるだろ!
カインも同じことを思ったのか、眉間に皺を寄せてるし!
「銀髪?この写真の娘も銀髪だったのか?」
「んだんだ~。この娘っ子とよぉ似とっただよ~」
「そうか……。その子どもを連れた娘は、どこに行ったか分かるか?」
「食糧を買った時に、『帝都に行く』って話してたみたいだよ~」
「帝都に?……ありがとうございます」
ようやく手がかりらしい手がかりを見つけた!
帝都ってことは、お嬢が目指してんのはルクレィチャ湖だな!
よっしゃ!
ようやくまともな手がかり見っけ!
さっさと探しに行ってお嬢を捕獲するぜっ!
「なぁなぁ!あれ、誰だ?」
「この間来た娘っ子の知り合いみたいだべー」
「あー、あのかわええ子ども連れてた娘っ子か」
「ありゃー、きっと嫁さんに逃げられたんだべ」
「そりゃ、見つかるといいだがや~」
「んだな~」
……俺様たちが去った後に、そんな会話がされてたなんて思いもしなかった(笑)
そろそろ試験が間近に迫っているというのに、息抜き妄想が止まらない……。
とりあえずは1月末の試験が終わるまでは、更新お休みします!
読んでくださっているみなさん、申し訳ないです!
では、試験頑張ってきます!




