92.何か拾っちゃいました
みなさん、明けましておめでとうございます!
さーてと。
お馬鹿団とかどうでもいいから、さっさと進むとするか……と思ったら。
お馬鹿団がいた所からちょっと離れた茂みに、紐で縛られた小さな子どもが隠されるようにして横たわっていました。
わぁお……ばっちり目が合いましたよ、今。
「……あのお馬鹿団、そういやさっき子どもを拾ったとか言ってたっけ」
……どうしよう。
着てる服はボロ布っぽいし、汚れている髪は伸びっぱなしってな感じ。
何年もお風呂に入ってない様子なのは、一目瞭然。
手足も異常に細いし、ご飯をまともに食べていなかった様子。
すごく小さいけど栄養失調の可能性を考えると、だいたい3歳くらいかな。
そんな子どもの唯一はっきり分かる眼は、カインと同じ珍しい金眼。
その大きな眼で、じっと私の事を見ている。
「……しぃちゃん。どうしよ……」
「わーうー……」
いや、助けますよ?
助けるんだけど、この様子から見ると絶対に捨てられた子どもっぽいんです。
つまり、引き取り手がいない様子なんです。
ギルドに戻るどころか、今晩の宿すらない私が引き取れるわけないんですよね。
しばらくこの金眼の子どもをじっと見みつめながら、どうしようか考えるわけですけども……見事なまでに、何にも思いつきません。
だけども、子どもの目から涙がこぼれたのを見て色々諦めました。
なんか金眼って、見慣れてるから見捨てられないし。
「すぐに縄解いてあげるから、ちょっと待っててね」
ため息を押し殺しながら縄をほどくと、小さな子どもは怯えた様子で周囲を見渡した。
ああ、よっぽど怖かったんだねぇ。
ごわごわしている頭をゆっくり撫でていると、ようやく緊張がほぐれた様子で私にしがみついてくる子ども。
「ふぇ……」
「もう大丈夫だからねー」
鳴き声は小さいけど、それでもしっかりと放さないように小さな手で私の服を掴んでいます。
うん、こんなに力弱くても必死な様子を見て放っておくのはできないですよね。
離れないし、しょうがないから抱っこしながら移動しますか。
いくら穴に落ちていて簡単には出てこないとはいえ、この子を縛ったお馬鹿団が近くにいると不安だろうし。
あ、しぃちゃんは子どもがしがみついてきたのと同時に肩から頭の上に移動してるから問題なしです。
とりあえず、このまま人が住んでいる所を目指しましょう。
「君のお名前、言えるかなー?」
泣き止んでしばらくすると手の力も緩まったので、顔を覗き込んで話しかけたのですが。
「……う?」
よく分からないって感じで首をかしげる子ども。
私が言ったことを理解しているのかも不明。
いやはや……本気で困りました。
「でもとりあえずは、お風呂だね」
「うにゅ?」
「わうわう」
私の言葉に、同意という様子で首を縦に振るしぃちゃん。
うん、正直に言いますね。
何年もお風呂に入っていないみたいで、色々と……臭うんです。
こんなに不安そうにしている子どもの前なので顔には出さないですけど、私としぃちゃん、現在進行形で顔の筋肉をフルに使って穏やかな表情を保っています。
超頑張っています。
だけども神族の身体能力を持つ私以上に鼻がいいしぃちゃん、興味津々で手を伸ばしてくる子どもに文句を言わずに顔面鷲掴みされているんです。
直です。
さっきからしぃちゃんのお鼻がぴくぴく痙攣しています。
てなわけで、もう先にお風呂に入れちゃいましょう。
ちょうど森の木がない広い空間があることだし、お久々な創造魔法でログハウスをポンっと創造。
「てなわけで、【ログハウス】」
「うー?」
「わ~う~」
不思議そうに突然出現した小さなログハウスを見上げながら首を傾げる子どもの頬に、頭を摺り寄せるしぃちゃん。
小さい生き物同士って、なんか可愛いです。
「はい。とりあえず中に入ってお風呂に入るよー」
「わう!」
「ふろー?」
入浴シーンは省略ね!
とりあえず、男の子でした。
んでもって綺麗に洗った髪の毛は銀髪で、肌は真っ白のめちゃくちゃ可愛い子でした。
髪の毛が長いから、服さえ着てたら女の子でも通じちゃうくらい可愛い子です。
ぶっちゃけ、ピンクのフリフリワンピースを着せたい。
いや、さすがにやらないけど。
「わ~う~!」
「わんわ、てー!」
ちなみにこの子、今はびしょ濡れのすっぽんぽん状態で、同じくびしょ濡れしぃちゃんとログハウスの中を追いかけっこをしています。
体力と筋力がないみたいだから、超スローペースですけど。
もちろんしぃちゃんは、そんな男の子のペースに合わせてあげる良い子です。
「こーら。ちゃんと乾かして服を着ないと、風邪を引くでしょー。しぃちゃんもだよ」
「わん!」
しぃちゃんは私の言葉に反応して自発的に置いてあったタオルに突進。
地面に広がったタオルに自分から擦りよわすことで拭いてます。
そして、お風呂に入ったこともなさそうだった男の子はというと。
「ふくー!」
しぃちゃんの真似をしようとしてタオルに突進しようとしました。
もちろん、突っ込む前に抱き上げることで阻止しましたとも。
わんちゃんの真似をするのややめようね?
「タオルで拭くから、ちょっと待ってねー」
「ねー」
私の真似をしながらニコニコ笑って大人しく膝の上で座っている男の子の体を拭いて、と。
よし、体が拭き終ったところで創造しておいた子ども用の服を着せましょう。
「はい、着れたねー」
「あい、きたー!」
ぼろ布を纏っていただけだから服に慣れない様子だけど、着せる時は大人しかったから大丈夫みたい。
まぁ、服を着た途端にしぃちゃんとの追いかけっこを再開しようとしましたけどね!
「髪がまだ乾いてないからだーめ。しぃちゃんもちゃんと待っててくれるからねー」
「わーう」
男の子を膝の上に乗せ直すと、私の足元で待っていたしぃちゃんも同じように乗っかって来た。
「わんわ!」
「しぃちゃんだよー。いい子ねーってよしよししてあげてねー」
「しーたん!いーこねー!」
「わう!」
男の子がしぃちゃんを撫でることに気をとられているうちに、髪の毛を拭きながらこの子の記憶を覗かせてもらおう……と思っていたのですが。
「うーん……」
この子の記憶、なんか全体的にとびとびです。
暗い部屋にずっと閉じ込められていたみたいなんだけど、そのせいかな?
なんとなくしか分からないけど……食事も、天井の穴から落ちてきたゴミみたいなモノを食べていたみたい。
赤ちゃんの時からそんな所にいたのだとしたら……よく生きていられたと感心してしまいそうになるくらい、ひどい状況。
そんな生活をしていたためか、名前すら出て来ない。
うん……この子が今笑っているのが奇跡。
あ、だけどつい最近、大きな男の人に手を繋いで歩いてもらっている情景だけは、はっきりと見えた。
男の人に連れて行ってもらったのは、キラキラと光が反射する綺麗な湖。
そして汚れきっている頭を、気にすることなく撫でる優しい手。
ああ、この子は男の人にとても愛されていたんだな。
……そこで、この子の記憶は途切れている。
次の記憶は、お馬鹿団に捕まってすぐの所を私が見つけた時の記憶見たいだし……。
だけど、何故一人でこんな森の中にいたわけ?
すっかり乾いた髪をそのままに、しぃちゃんと走り回っている男の子。
……ああ、この子魔盲だ。
カインと同じ、魔力が封印されている子。
ということは、捨てられたって可能性が高いのか。
男の人は気にせずに手を繋いで、頭を撫でていたみたいだけど。
訳ありっぽいねぇ……。
しかも、なんか重たそうな理由っぽい。
とりあえず魔力の封印を解くには幼すぎるから、しばらくは現状維持か。
「……にしても、さっき見えた湖ってこの雑誌に載ってる帝国のルクレィチャ湖だよね?」
雑誌に写真載ってたし。
確か、王族以外は入れない結界が張ってあるんじゃなかったっけ?
てことは、この子、は王族の血を引いている可能性が高いよね。
……まぁ、帝都に行ってみれば分かるか。
天界で人気になるくらいだったら、もしかするとその湖にこの子が救われた理由があるかもだし。
よし!
じゃあ最初の行き先は決まりだね!
愛良「とりあえず、仮の名前でもつけとこうか」
幼児「にゃまえー?」
しぃ「わう!」
愛良「プリンちゃん!」
しぃ「……ぐるぅ」大型犬サイズになって威嚇中
愛良「え、ダメ?」
しぃ「がう!」
愛良「えーと……じゃあ、リンちゃん!」
しぃ「……」ジト目
愛良「ま、まだダメ?女の子っぽい?」
しぃ「がう」
愛良「えーと……じゃあ、リーンは?」恐る恐る
しぃ「う~……がう」悩みながらもしぶしぶ妥協
愛良「あ、ありがとうございます。じゃあ、君の名前はリーンね!」
幼児「にゅ?りーん?」
愛良「そう!よろしくねー?」
幼児「あい!」
しぃ「わう!……わぅっ!?」
愛良「へ?しぃちゃん、どったの?……って、あー!?」
幼児「あー?」小首傾げながら、お漏らしなぅ
愛良「えーと……とりあえず、お風呂に入りなおそうか」引きつり笑顔
幼児「ふろー!」
愛良「そ、そっか……そういう養育を受けてなかったから、しょうがないんだ……頑張ろ……」
しぃ「わぅ……」
幼児「ぷかぷかー」
愛良ちゃん、ネーミングセンスが壊滅的。
そして末っ子愛良ちゃんが子守りなんてしたことあるはずがない!
しぃちゃんと一緒に頑張れ、愛良ちゃん!




