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89.ぼっちの旅に出されました

◇◇◇◇


目を開いたら、どこまでも広がる暗い森。

傍にいるのは、しぃちゃんだけ。

ギルドに転移で戻ろうと思っても、練り上げた魔力が強制的に霧散させられて転移ができない。

ただいま、そんな状況の愛良ちゃんです。


「……うそーん」


事の始まりは数分前のこと―











「ふあ~……」


ただ今ギルドの受付のお手伝い中。

夏休みの間にギルド登録をしに来る生徒が多いってことで、夏休み突入した直後はマスターにお願いされて初めて来る子たちのギルド登録を重点的にやっていたんですが。


「暇~……」

「わふ~……」


夏休み一週目が終わるころには暇になっちゃいました。

ギルドメンバーのおじさまたちも、今日は人数が少ない。

熱から完全復活したカインはコス王と一緒に、全帝指名の依頼に行っちゃってる。

ラピスたちはほぼ毎日来てるけど訓練はマスターにお願いしてるから、ほとんどこっちに来ることなく訓練室にこもっちゃってる。

宿題もほぼ終わらせてる。

てなわけで、お暇な私はカウンターの上に乗っかってるしぃちゃんと一緒になって、まったりしてます。

あ~……平和だなぁ……。


「なーんてことを考えていると、何かが起こるのだぞ」


のんびりまったりしている私としぃちゃんのすぐ真横から聞こえてきた、聞き覚えのある声。

……そーですよねー。

平和だなぁなんて台詞、考えたら次の瞬間には消え去るもんですよねー。


「王太子さんがここにいる時点で、平和は跡形もなく消えちゃいましたよねー」


『鬼畜太子!!?』


あらまー。

お兄ちゃんの登場に、ギルド内に残っていたメンバーたちがパニック起こしてる。

どれだけ鬼畜の噂が広まっているんですか、お兄ちゃん。

むしろ、いったい何をやってこんなに鬼畜な噂が流れたんですか。

ついでに、なんでここにいるんですか。

王太子って、そんなに簡単に出歩いていいもんじゃないと思うけど。


「ふむ。可愛い妹に会いに来るのに理由が必要か?」


腕を組んだまま無表情に言い切ったお兄ちゃん。

いやいや、オープンだね。

私がわざわざ王太子さんって呼んだのに、めちゃくちゃオープンに妹宣言しちゃってくれたね!

お兄ちゃんの妹宣言に、ギルドのおじさんたちがパニックを……


「え、妹?」

「アイラちゃんが、鬼畜太子の?」



「「「「ああ、だからか」」」」



……何故か納得されました。

おーい。

確かにお兄ちゃんの妹ではあるけど、一般市民である私を王太子さんが妹って宣言したことに疑問を持ってください。

疑問を持つ前に納得するって、どういうことなんですか。

なんか微妙に傷ついたから、納得した人たちは全員落とし穴に落としてやるんだから!

ついでに、穴から脱出しようとすると泥水が入った金タライが落ちて来るようにトラップを設置。

落とし穴から出てこようとしてトラップに見事に引っかかって穴の底にリターンする筋肉マッチョなおじさま方を、お兄ちゃんと一緒に指さしながら爆笑。


「あーすっきりした!」

「うむ、なかなか面白い見世物だったぞ」

「えへ」


「「「「ああ、やっぱり兄妹だ」」」」


……それを見て、何故か端っこに避難していた人たちにまで納得されました。

不思議ですねー。

とりあえず、失礼な皆さんは文字通り地面に沈んでもらいましょうか。

あ、頭はちゃんと出してるから死んでないので問題なし!

床から首だけこんにちは状態です!

お口は禍の元なんで、みなさん気を付けましょうね!


よし、今度こそ本当にすっきりしたから、話を進めましょうか。


「……で、お兄ちゃん。今日のご用件はなぁに?」

「可愛い妹に会いに来た」


はい、ドきっぱりと答えましたね。

眉間に皺をよせたまま無表情に言われると、お兄ちゃんを知らない人から見たら喧嘩を売られているようにしか見えないからね?


「……というのが9割の本音だ」

「むしろ9割もそっちが本音にびっくりです。で、残りの1割は?」

「これを渡しに来た」


んん?

お兄ちゃんが差し出してきたのは、コンビニに行ったら置いてあるような雑誌。


「何これ?」

「うむ。上(天界)で流行っておる、この世界お勧め観光スポットベスト5だ。ぜひ行ってみるといい」


ニヤッと笑みを浮かべるお兄ちゃん。

観光スポットとな?

天界で流行ってる?


「え、上の人って何してんですか?」

「(地上界の)覗き見だ」

「……え?」


つまり、天界の人らはお父さんみたいな変態ってこと?

覗き見常連な人たちの集団とか、いやすぎるんだけど。

安心してお風呂にも入れないよ。


「いや、役職を全うさせるために監視しておるのだ。たまに暇という理由で降りてくる者もおるがな」

「ああ、時くんみたいな人ね」

「上からよく見ている奴らにとって、気に入った景色を載せておるのだ。確かに悪くない景色であるゆえ、愛良も休みの間に行ってくるといい。我が付き添いたいところだが、我にも仕事があるのでな。カインの小僧もおらんことだし、一人で行って来い」

「え、知らないところに一人で行けとかイジメですか?」

「男と二人でいくのはお兄ちゃんに対するイジメなのだ。何のために、わざわざカインの小僧に指名で依頼を出したと思っておるのだ」


あー……そういや、カインが今日受けている依頼、指名だったなぁ。

だから私はついて行かずに残っていたわけだし。

その全帝指名の依頼を出したの、お兄ちゃんだったのね。

カイン、可哀相に。

お兄ちゃんが普通の依頼を出すわけないから、心が折られないことを祈ってます。


「そういうことだ。では、愛良。土産を楽しみにしておるぞ」


珍しいとしか言えないほど、清々しいまでのにっこり笑顔をお兄ちゃんが浮かべた瞬間。

私の足元の地面が急に消失した。

へ?

足元の感覚がなくなり、重力に従って穴の中に落ちる私。


「うみゃあああああ!!?落とし穴に落とすのは好きだけど、落ちるのはいやぁあああ!!」

「ふはははは!!甘やかしてばかりだと、親父になるからな!では可愛い妹よ!頑張ってくるがいい!」


穴の向こうで、お兄ちゃんの笑い声が響いてくる。

何をがんばれっていうのさ……。


「人のこと言えないけど……お兄ちゃんの、鬼畜――!!!!」











―ということがあったわけです。

しぃちゃんが付いてきてくれてよかった……。

穴に落ちた瞬間、しぃちゃんも追いかけてきてくれたからね。


「わふ」


当然だよ!という様子で尻尾をふるしぃちゃん。

うん、癒されます。


「さて、これからどうしようかなぁ……」

「わぅわぅ」


んん?

しぃちゃんが前足で傍に落ちてた雑誌をぺしぺしと叩いてます。


「ああ、この雑誌も一緒に落ちてきたのね……」


というか、お兄ちゃんが故意に落としたんだろうね。

行って来いって言ってたし。


「つまり、これ全部回らないと、ギルドに戻れないってことかぁ……」


転移を使うことができないわけではないけど、フィレンチェ王国に戻ろうとすることだけはできないみたいだし。

カインにはとりあえず連絡だけしとこうか。

カインの居場所を探って、その魔力を元に念話するって手間が省けて万々歳な魔導具スマホで!

まぁ、まんま普通の携帯電話みたいなもんだけどね。

とりあえずはカインに電話……したのだけども。


『ふはははは。お兄ちゃんはカインの小僧と簡単に連絡をとることは許さんぞ~』


何故かお兄ちゃんに繋がった。

うん、なんで?


『男と連絡を取り合うなど、愛良にはまだ早い。お兄ちゃんは認め……「すみません、間違えました」ブチ』


少しイラっときたからお兄ちゃんの言葉は遮って電話を切りました。

この様子だと、カインの居場所を探って念話するのも出来なさそうだね。

カインの魔力を辿って転移するってのも無理っぽいし。

……ま、いっか。

カインも適当に夏休みを過ごすでしょ。


「予想外だけどお兄ちゃんだし、しょーがないしね。よし、しぃちゃん。とりあえず、近くの町に行ってみよっか」

「わう!」


魔力がたくさん集まっている所って結構近くだし、のんびり歩いていきますか!

愛良ちゃん、保護者カインから離されてぼっちの旅に出ることになりましたー。

いなくなったことを知ったカインは、きっと胃が荒れることでしょう(笑)

長男の嫌がらせ(指名の依頼)を終わらせて、危険娘と危犬の回収に行かないと、きっと大変!

頑張れカイン!

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