逸話.ストレスで熱が出たらしいです
大兄ちゃんに苛められたカインさん、ただいまお熱を出してパタンキュー。
おまけ的なお話なんで、スルーしてもらっても大丈夫ですー。
◇◇◇◇
「……いったい何をされそうになったのさ?」
呆れ交じりに横になっているカインの熱を測るお嬢。
あの鬼畜長男がこの国の皇太子をしていて、さらに俺様が知らないところでカインが弄られたらしい。
そりゃ、あいつに会ったら心痛で熱も出るって。
「んー……熱、下がんないなぁ……。カイン、何か食べたいものある?」
「いらない……」
ダルそうに答えるカインに、お嬢はため息をついた。
熱を測るためにカインの額に置いていた手を腰にあて、もう片方の手で眉間の皺を揉んでいる。
「はいはい。いらなくても食べなきゃダメだからねー。何か適当に作ってくるから、ゆっくり休んでるんだよ。しぃちゃん、カインが起きないように見ててねー。病人だから、苛めちゃだめだよ?」
「わーう」
しょーがないなぁって感じで頷いて、カインの枕元で丸くなったお犬様。
お嬢の言うことは、本当によく聞きますよね。
お嬢がご飯を作りに行って、カインはダウンしていて、お犬様はカインの横で寝ている。
ちなみに俺様はそれを棚の上にコウモリ姿で乗っかって眺めています。
というか、隠れています。
だって、帰ってきたらお犬様がさらにパワーアップしているんですもん。
なんでも鬼畜長男の足を喰ったらしい。
あの長男が簡単に喰わせたとも思えないけど、今までのお犬様の強さが100だとしたら、それが一気に1000に跳ねあがった感じですよ?
よくお犬様から遊んでオーラ全開で追い掛け回される身としては、隠れるのが当然でしょ。
もうさっきから物音立てずにじっと風景の一部になっている。
そう、俺は置物の一つ。
無心を貫くのだ。
……ん?
……カインの奴、熱で朦朧としているのか?
あのカインが。
よくお犬様と睨み合ってるカインが、お犬様をぼーっとした表情のまま撫でている。
お犬様はお犬様で、お嬢の言いつけを守っているのか不満げに尻尾をベッドにパタンパタンと打ち付けながらもじっとしている。
すげー不思議な光景だ。
写真撮りたい。
いや、撮ったらお犬様にバレるからやらないけど。
熱が下がった時にカインに見せたら楽しいだろうなぁ……。
お、お嬢の足音が聞こえる。
もう作り終わったのか。
さすがはルディス家の台所を支配する神様。
手際がよろしいことで。
エプロンをつけたままのお嬢は静かに扉を開けて、そぅっとカインの顔を覗き見た。
その視線に気づいたのか、ゆっくりと目を開けるカイン。
「……愛、良?」
「起きれる?」
「ん……」
擦れた声を出すカインが起きているのを確認するなり、お嬢はカインの体を起こして背中と壁の間に枕を挟んだ。
さらには手元が覚束ないカインのために、水を飲ましてやったり、お嬢の手作りでカインの好物であるうどんを食べさせてやったりと、甲斐甲斐しく世話をしている。
し・か・も!
5分以上だ!
イケメンには5分以上優しくできないお嬢がだ!
……まぁ、5分毎に一回カインから離れているけどな。
そんでもって、創造で出したと思われるピンクのウサギの人形を深呼吸しながら捻りつぶしているけど。
殴らないだけマシか?
お嬢の力で殴ったら、轟音を立てて壁まで粉々だろうからな。
病人の近くで余計な音を立てないように気遣うお嬢、偉い。
そのまま普段から5分経ったらカインを投げるのやめてあげてほしいところ。
「はい、おしまい。ほら、横になって寝る」
「ん……」
うどんを食わせ終わったら、さっさとカインを寝させて洗い物を持って離れようとしたお嬢。
だけど、そのお嬢のエプロンの裾を無意識に掴んでいるカイン。
ぐはっ……。
どこのラブコメだよ!
リア充滅べ!!
「……コス王」
カインの手を振りほどかずに、視線はばっちしこちらのお嬢に呼ばれました。
というか、最初から気づかれてた?
「覗きばっかで嫌になるわー。相手すんのも面倒だから洗い物よろしく」
「……へ?」
人型になれば押し付けられた洗い物、訳が分からず部屋を追い出される俺様。
そして外の廊下にいたギルマス+α(マント被った帝達と筋肉マッチョなギルドメンバー)と目があった。
それぞれに『カインを暖かく見守ろう会』と名前の入ったタスキを身に着けている。
これ……見守ろう会じゃなくて、覗こう会じゃね?
俺様は何も見なかったことにして、洗い物に行きました。
お嬢の看病が効いたのか、カインも次の日には元気になってたぜ!
甲斐甲斐しくお世話をしながら、体内時計できっちり5分を数えている愛良ちゃん。
本当はネ○ちゃんのママみたいに思いっきりぶん殴りたい衝動にかられていても、病人だということを考慮して我慢中。
愛良ちゃん、基本は理不尽だけども、たまには良い子なのです!……と言っておきます。




