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88.頑張ってお仕置きしましょう

最初は長男視点、真ん中から愛良視点に戻りまーす

◇◇◇◇


いつでも跳びかかってこれるように低姿勢になる巨大な狼。

……こやつは確か、少し前に産まれたフェンリルの赤子であったな。

愛良がヘタレ屑虫に巻き込まれてこの世界に連れてこられたのを見て、親父がとっさに護衛として送っていた。

愛良を守るために、普通のフェンリルよりも多大な力を授けて。

しかし、いかに力を手に入れたとしても、我らには敵うまい。

我らはまだ神族として自覚して間のない愛良と違い、自覚してからずいぶん時間が経っているからな。

千年を越してからは数えるのが面倒になったゆえ、具体的な年数は不明だが。



「がるるるるぅ……」



低姿勢のまま、こちらの動きを伺う様にして一定の距離を保っているフェンリルの赤子。

ふむ、赤子といえど、自分の力量を理解しておるな。

危険を察知して、無謀な動きはしない。

我らの妹の使い魔としては合格だ。



「がうっ!!」



距離を保ったまま、口を大きく開けて溜めていた魔力を一気に放出してきた。

ほほぅ、レーザービームが撃てるようになっていたのか。

それも、大量の光線を雨のように。

さすがは親父が力を授けただけある。

まだ幼いのに力を使いこなすとは、なかなかのものだ。



「しかし、我にそのような攻撃は効かんぞ」



我の結界を張れば、そのような攻撃は簡単に防げる。

……と、思っていた。

バリンッ!と音を立てて、あっさり壊された我の結界。



「なぬっ!?」



我の結界を壊すだと!?

たかがフェンリルの分際で!?

いかに親父が力を授けたからといっても、これはおかしいぞ!?

迫りくる光線の雨を避けていると、隅に避難して結界を張っていた愛良の声が響いた。



「おにーちゃーん!しーちゃんねー!私と契約している影響で、普通のフェンリルより強いんだってー!」

「それは知っておるぞ!?だからといって、ここまで能力が上がっておるとは思わないのだが!?」

「あとねー!ちょっと前に、光と闇と創造の属性神の体の一部食べちゃってまーす!」

「なんだとっ!?」



天界下級の属性神といえど、神を喰ったというのか!?

真の《神喰い》フェンリルになったというのか!?

これはマズイな……。

フェンリルは本来、悪神を完全に滅ぼすために造られた存在だ。

悪神は滅んだ今となっては、残ったフェンリル達は神など喰ったこともないペット同然な存在だ。

まだ赤子でも《神喰い》となったこのフェンリルの赤子には到底敵うまい。



「可愛い妹よ……お兄ちゃんは予想外過ぎて、どう反応したらいいか分からんぞ。というか、本来は食べさせてはならんことだぞ?」

「私、よく分かんなーい。えへっ」

「うげっ!?」



えへっとか言いながら抱きついていた全帝の体を投げた愛良。

やっぱり我慢の限界だったんだな。





……もー愛良は素直で可愛いなー!!

イケメンに抱きつかれると条件反射で投げるように教育してよかった!!

フェンリルに神を喰わしたというのは、天界では結構大問題なんだがその可愛さと無知に免じてお兄ちゃんが許してやるぞ!












◇◇◇◇


あ、カイン投げちゃった……。

投げないように我慢してたんだけど、無理だった。

……意識、堕ちちゃった?

可哀相だから膝枕しといてあげよう。



「愛良!?そんなやつ放っておくのだ!」

「いや、だって何か憐れだし。というか、お兄ちゃん。早くしぃちゃんにお仕置きされちゃってよ」

「がううっ!」



ほら、しぃちゃんも逃げるなって言わんばかりに頷いてるよ?

なんであのレーザービームの雨を避け続けられるの、お兄ちゃん。

いい加減諦めてくださいな。



「我はお仕置きするのは好きだが、されるのは嫌いだ!」



レーザービームの雨を避けながら、無表情のまま胸を張るお兄ちゃん。

本当に無駄な所で器用だよね。

まぁ、いくら器用でもお仕置きはするんだけどね?



「うん、知ってるー。グレイプニール、お兄ちゃんを捕縛」

「なぬっ!?」



しぃちゃんの首輪から伸びたグレイプニールが巻き付いて、簀巻き状態になったお兄ちゃん。

絶対捕縛のグレイプニールからは、さすがのお兄ちゃんでも逃げられなかったみたい。

うん、安心した。



「ではしぃちゃん。お仕置きでお兄ちゃんの片足食べちゃっていいよー」

「がう?」



食べていいの?って感じで首を傾げるしぃちゃんが可愛いです。



「いいのいいの。やっていいよ」



お兄ちゃんなら片足無くなってもすぐに生えるだろうし。

私も神族として自覚してからの再生力ってすごいもん。



「愛良っ!?そんな酷いことを言うなんて、お兄ちゃんは悲しいぞ!?」

「大丈夫。私、お兄ちゃんより酷いなんて自覚ないもん」

「可愛い妹のその笑顔が時に怖いっ!しかしそうゆう教育したのは我ら!」

「つまり、自業自得ってことですね」

「うむ!」



開き直ることなく頷くお兄ちゃん。

うん、やっぱり私お兄ちゃんの妹だわ……。

非常識な所を見て再認識するのも空しいけど。

とりあえず、悲しい現実はちょっと逃避しよう。



「てなわけで。しぃちゃん、ゴー」

「がう!がうがーうっ!」



いただきまーす、という様子でお兄ちゃんの足に齧り付いたしぃちゃん。

そして無残に噛み千切られたお兄ちゃんの両足。



「うぎゃああ!!痛い痛い!!久しぶりに痛みを感じたぞっ!?そして片足と言わず両足食われたぁああ!!」



そりゃ、簀巻き状態だったんで。

さすがのしぃちゃんも、そんな状態で片足だけを食べるってことが無理だったんです。



「ごめんね、お兄ちゃん。だけどもう生えてるし、許して?……まだ騒ぐなら、反省する気ゼロとみなすよ?」

「はい、黙ります。反省しました。だから愛良、お兄ちゃんを嫌いになってはならんぞ?」



謝りながら最後はちょっと脅しかけると、お兄ちゃんはぴたりと大声をストップ。

見事な変わり身、早すぎです。

お兄ちゃん、実はたいして痛くなかったんでしょ。

噛み千切られたはずなのに、血も出てなかったし。



「嫌いにならないならない。お父さんじゃあるまいし」

「そうか、それを聞いて安心だ」



ほっとしたように笑ったお兄ちゃんは、あれだけ簀巻きにされていたのにあっさりグレイプニールをほどいて立ち上がった。

……あれ、これって神様でも動けなくなるんじゃなかったっけ?

新しく生えた足で軽くジャンプをして調子を確かめていたお兄ちゃんは、そんな私の視線に気づくと珍しく片頬を上げてにやっと笑った。



「ふむ。可愛い妹の希望に答えてやるのは、兄として当然ではないか」



……言ってることはカッコいいんだけど、笑顔は怖いから台無しと思うのは私だけ?

眉間の皺も手伝って、イケメンなはずなのに怖い人相にしかならないお兄ちゃんの顔面が残念。



「……本当はグレイプニールの束縛なんていつでも解けて、別に私のお仕置きなんていつでも回避できたってことかぁ……」

「フェンリルの赤子の攻撃はそこそこ効いたがな」



やっぱり、経験の差を埋めるには時間がかかりそうだなぁ……。

うん、もっといっぱい修行しなきゃ。

やっぱり夏休みの間の特訓メニュー増やそう。

もちろん遊びにも行くけどね。



「……一応言っておくが、愛良は今の時点ですでに我らの次に強いぞ?」



うん、この世界の生き物の中ではダントツに強いのは自覚している。

だけどね、思うんだ。

いくら強くても、まだまだあの変態には敵わないって。



「いつか絶対龍雅を消滅させてやる」



あの変態をいつまでも野放しにするつもりなんてない!

全力で潰してやる。



「その目標に関しては、我らも全力で応援しよう。奴は一万回ほど消滅したほうがよい」

「打倒変態!百万回死んじゃえ!」



その目標のためには、頑張って修行するんだから!

カインも巻き込んで、絶対に強くなってやる!



「じゃ、そういうことでお兄ちゃん。私そろそろ帰るね」



結構時間がかかっちゃったし、さっさと帰って修行を再開しなきゃ。

それにせっかく受付のお手伝い始めたばっかなのに、今日は全然お手伝いできなかった。

今日の分も、頑張ってバイトしないと。



「なんだ、もう帰るのか?もっとおればよいものを……。城で住んでもお兄ちゃんは全然かまわんぞ?」

「変態とあの王女様(笑)の両方がいるのに一緒に暮らせとか、新手の拷問ですか?」



私も嫌だけど、あの王女様(笑)だって絶対に嫌がるよ。

なにせ私、所構わずあの子を見るなり言葉攻めしそうな気がするもん。

お家でぐらいゆっくりさせてあげようという、優しい私の心遣いですよ。



「……まぁお兄ちゃんが王太子って時点で、あの子らに心休まるところなんてないだろうけどね。なにせ家族にすら容赦がない鬼畜で有名みたいだし」

「何をいう。優しい我は、あの屑虫に愛良を勝手に異世界に連れ込んだお仕置きという名目の修行をしてやっておるぞ。そのおかげで、奴の打たれ強さは恐らく世界一だ」



龍雅がボロボロになっても結構速く回復する理由はお兄ちゃんですか。

というかそういう修行を付けてあげてるなら、もうちょっとマシに魔力が扱えるように修行してやってよ。



「それに愛良と同じ妹と呼ぶのも腹立たしい愚妹には、勉学を見てやっておるぞ。まぁ、愚妹の頭では解けない問題を出して嘲笑っておるがな」

「いや、あのビッチ王女の性格、絶対お兄ちゃんが影響しているよね?」



王様が別に偉そうな人でもなかったし、絶対にお兄ちゃんが影響しているはず!

そう思ってお兄ちゃんを見上げれば、眉間の皺を濃くして過去を思い出すように顎を撫でてる。



「はて……?我らが時間を巻き戻す前の小娘の性格は、どんなものであったかな?ふむ。覚えておらんな」

「はい、決定ー」



お兄ちゃんの記憶に残らない=良くも悪くも平凡、性格特に問題なしだからねー。

お兄ちゃんを兄弟として持っちゃったら、私のお母さんみたいな人が傍にいないと絶対に性格歪むって。

……性格歪んで可哀相に。

今度から、ちょびっとだけ優しくしてあげよう。

覚えてたらだけど。

とりあえず、同情だけしてさっさと帰った。









ちなみに、その日からカインが熱を出したのは余談。

よっぽどお兄ちゃんに鬼畜なことやられたみたい。

……一番最初に会ったお兄ちゃんが、鬼畜お兄ちゃんでよかったね。

2番目と3番目のお兄ちゃんには、少しは耐性ができると思うよ。

……たぶんね。

長男

愛良にはかっこいいお兄ちゃんと思われたくて、内心で妹の可愛さに悶えながらも表面は基本無表情を貫いている。

そのため、愛良は大兄ちゃんが残念なお兄ちゃんであることを知らない(笑)

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