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逸話.ヘタレ勇者の場合


あれ?

しっかり掴んだはずなのに、愛良がいない……。

でも、確実にこの世界にはいるよね!


                   byヘタレ勇者


◇◇◇◇


ぞっくぅ……。

なんだろう……。

今、すっごい悪寒が……。



「リョウガ様?どうなさったのですか?」


「……何でもないよ、サフィア姫」



僕は悪寒を振り払うと、心配そうに僕を見ていた王女に首を横に振った。

この金髪碧眼の女の子は、フィレンチェ王国の王女、サフィア姫。

僕と同い年なんだって。

訳が分からずこの城の地下に召喚された後から、親切に僕の面倒を見てくれている人だ。



「まあ。わたくしのことはサフィと呼んでくださいと何度もお願いしていますのに」



拗ねたように口を尖らした王女の言葉。

確かにこれだけ大きなお城のお姫様だと、周りもきっと親しくしづらいのか。

それは、ちょっと寂しいかな。



「ん~……じゃあ、僕のことも呼び捨てでいいよ、サフィ」



僕が笑いながらそう提案した。

人がたくさんいるところでは、ちゃんと『サフィア姫』って呼んでたらいいよね。



「……は、はい!」



……あれ?

どうしてだろ?

サフィの顔が真っ赤になった。

さっきまでいた地下に比べると、部屋は暖かいからかな?



「サフィ?どうしたの?」


「な、なんでもありませんわ」



顔を真っ赤にしたまま首を横に振るサフィは、気を紛らわすように咳払いをした。



「こほん……。では今からギルドに行って魔力と属性を調べましょう」



サフィがそう言うなり、部屋に入ってきたマントを着た長い白髪の女の人。

年齢は30代前半ぐらい?

責任感の強そうな顔をしている。



「リョウガさん、こちらはリョウガさんに所属していただくギルド『純白の騎士』のギルドマスターであるネル殿です」


「お初にお目にかかる。私は『純白の騎士』ギルドマスター、ネルだ。君にはこれから我がギルドで検査を行った後、そのままギルドに加入してもらうゆえ、そのつもりで」



背筋を伸ばしてはっきりと言葉にするネルさん。

なんというか、名前の通り、騎士らしい話し方をする人だなぁ。



「はい。桐ヶ谷龍雅といいます。よろしくお願いします」



ギルドとかよく分からないけど偉い人には違いないんだから、ちゃんと挨拶しなきゃだね。

愛良に『龍雅は自己紹介する時、とりあえず笑えばいいよ。それである程度のことは上手くいくと思うから』って小さい時から言われてたから、笑顔で。



「……」


「……ネルさん?どうかしました?」



どうして僕の顔を見るなり、顔を赤くして固まっているんだろう?

変顔とかはしてないよ?

あ、もしかして顔に何かついてる?

さっきサフィに美味しいごはんをいっぱい食べさせてもらったから、ソースとかがついてるかも!?

この年にもなって、それはちょっと恥ずかしい!

袖でもいいから拭いとこ。



「い、いや……なんでもない。では、さっそくギルドに転移しよう(なんなんだ、この胸の高鳴りは……)」


「ええ、さっさとしてください(ちっ……さっそくライバル出現ですか。ですが、リョウガさんは絶対にわたくしが落として見せます!!)」



……なんだろう?

どこからか、『龍雅マジ死ね!』って愛良に言われた気がする。



……愛良、結局どこに行ったんだろう?

こっちの世界には来ているはずだけど。

魔法陣に吸い込まれるところまでは覚えているし。

……ま、愛良なら絶対無事だよね。

なんだかんだ言って、愛良って兄さん達の影響で、かなりしっかりした性格してるし!

早く愛良見つけないとなー。



「ねえ、ギルドに登録したら、依頼を受けるだけじゃなくて出すこともできる?」



この世界に来たばかりで不慣れな僕一人だと、探すのも大変なんだよね。

できれば僕が愛良を見つけたいけど!



「ああ、できるぞ」


「リョウガさん、依頼を出したいんですか?」


「うん、一緒にこの世界に来たはずの幼馴染を探したいんだ。きっと寂しくて不安になっているだろうから」



いくら愛良でも、慣れない世界で独りぼっちなんだから、寂しがってるはず。

愛良に限ってはあり得ないと思うけど、泣いてるかもしれないし。

すぐにでも見つけて、安心させてあげないとね!











ちなみに、その頃の愛良は―


「次はあの店で服見たい!あ、そうそう!この腕輪も綺麗にしてもらえるとこある!?あと魔導書も欲しい!」


「……まだ買うのか?」


「買う!けどその前にお腹減った!プリン食べたい!」


「わん!」


「急になんなんだお前らは。プリンなんて食い物知らん」


「プリンないの!?」


「きゃん!?」



プリンがないことにショックを受けていた。












あれ、なんだろう……。

今、すごく空しくなったような気が……。

いや、気のせいだよね?

愛良だって僕のこと心配してくれてるよね?

ここに来る前は僕よりプリンを選んでいたけど、そんなことないよね?

うん、そんなことないって思っとこう。



「依頼で人探しもできるよね?」


「もちろんですわ。お友達が早く見つかるといいですわね」


「うん!」



優しいサフィの言葉に、思わず小さい子みたいな返事をしてしまった…。

恥ずかしい……。

……あれ?

二人とも顔真っ赤だ。

愛良と母さん以外の女の人って、よく顔が赤くなるよね。

風邪引きやすいのかな~?

後でマスクあるか聞いておこ。



「と、とりあえずは移動するからな。……て、手を」



顔を真っ赤にしたまま片手を差し出してきたネルさん。

手がどうしたの?

あ、握手?



「よろしくお願いします、ぅっ!?」



い、痛い……。

差し出された手を握り返そうと思ったら、横からサフィに手の甲を抓られた……。

しかもネルさんの手を、なぜかサフィが握ってる。

なんなの?



「リョウガさん、今からネル殿が魔法で転移をされます。間接的にでも触れていれば問題はないですから。どうぞ、わたくしの手を」


「姫……」



えーと……?

よく分かんないし、別にいっか。

差し出されたサフィの手を握った瞬間、さっきまでいた所と違う場所に立っていた。

窓がないから地下かな?

大きな机に水晶が二つ置いてある。



「魔法ってすごいんだねぇ」


「リョウガさんならすぐに使えるようになりますわ」


「一度行ったところ限定だがな。あと、普段なら結界があるから城から転移は使えないぞ?今日はお前のために特別に転移ができるようになっただけだ」


「へ~」



魔法って便利だなー。



「では、測定の前にギルドと魔力について、簡単に説明しておこう。

ギルドには依頼によってそれぞれランクで分けられている。

学生向けのFランクから始まり、E、D、C、B、A、S、SS、SSS、Zとランクが上がっていく。

ギルドメンバーたちはそれぞれ依頼をこなしてランクを上げていくことで依頼の難易度も高くなる。

もちろん、そのぶん報酬も高くなるぞ」


「Zランクは現在はギルドに所属する者たちのトップである全帝のみですわ。ちなみに、SSランク以上になると、二つ名をもらえるのですよ。二つ名を持つことができるのは、とても名誉あることですの」



つまり、地道に頑張ってランクを上げていけばいいんだね。



「それと本来なら今日君を召喚する場にそれぞれの属性を極めた帝たちも同席するはずだったのだが、彼らにしかできない依頼もたくさんある。どうやら緊急性が高いものが重なってしまったらしく、帝は誰も召喚の儀に出席できなかった。すまないな(サボったなんて言えない……)」


「お父様は、みなさんが参加できるよう声をかけていたのですけど……忙しいみたいでは仕方ありませんものね」



なんか、そのすごく強い人たちが参加して当然っていうか、僕と会っていて当然っていう言い方なんだけど、僕って魔力があるのかも分からないんだよ?

それなのに、そんな忙しい人たちを呼んで無駄足だった場合、僕、すっごく怖いんだけど。

その帝の人たちがいなくてよかった…。



「では魔法量を測るとしよう。基本、魔法力を持たない人間はいないが、ギルドメンバーの平均は70万~100万くらいだ。帝クラスになると500万~700万ぐらいだな。右の水晶に触って魔力を流してくれ」



とりあえず、みんなの平均ぐらいはあるといいなぁ。

だけど、どうやって魔力って流すんだろう?



「魔力ってどうやって流すの?」


「うむ……実際に流して教えたほうが手っ取り早いのだが、君の場合は召喚されが側であるから、うっかり契約してしまうことになるかもしれんからな」


「リョウガさんと契約……わたくしが教えて差し上げますわ!!」


「姫、落ち着こうか」



なんかよく分からないけど、流れろって思ったらいいのかな?

ま、適当でいっか。

流れろ~。



バリンっ!!!



「「「………」」」



水晶、粉々に割れちゃった…。

僕、軽く触っただけだよね?



「一応2000万まで測れる水晶なのだが……」


「さすがリョウガさんですわ!(ちっ。どさくさに紛れて契約と思いましたのに、これだけ多かったらできませんわね……)」



……なんだろう。

今、サフィからなんか危険なオーラを感じた気がする。

気のせいだよね?



「リョウガ。次は属性なんだが、込める量は少しにしてくれ。また壊れたらかなわんからな」


「あ、はい」



少しだけ、少しだけ……

水晶は七色に光った後、灰色と白銀に光った。

壊れないか心配だったけど、大丈夫そうだ。



「これでいいの……って、二人共どうしたの?」


「「………」」



なんか、二人とも唖然とした表情でちょっと怖いんだけど……。

僕、また何かした?



「自然属性と特殊属性全部に、破壊と創造……初めて見た」


「伝承でしか見たことありませんでしたわ……実際に存在する属性だったのですね……」


「あの~僕、まだ属性について、よく分かんないんだけど……」



自然とか特殊とか、どういう意味?



「こほん。リョウガさんには属性について、まだ説明していませんでしたわね。

属性というのは、簡単に言えば、個人が使える能力のことですわ。

例えば、火属性なら火の魔法が使え、風属性ならば風の魔法が使えるということですわ。

自然属性には火、水、土、風、雷の五つがあり、特殊属性では光と闇があります。

本来一人につき属性1つか、多くても3つほどなのですが、リョウガさんは、その全てを使えるのですわ」


「さらに君は世界でもごく数人しかない希少属性である破壊と創造も持っている。はっきり言うと、君は今の全帝よりも能力的に勝っている」



興奮したように顔を赤くしている二人が、早口で説明してくれる。

魔法なんて初めてだから、そんなにすごいって自覚ができないけど……。



「本来ならFランクから始まるのだが、君はそれだけの力を持っているのだから、SSランクから始めよう。二つ名は適当に考えておいてくれ」


「え、そんな急に…」


「リョウガさんなら絶対に大丈夫ですわ!」


「いや、でも……」


「君のギルドカードは作っておく。また後日取りに来てくれたらいい」


「う、はい……」



うぅ……。

断れない……。

なんで……?


(↑☆HE☆TA☆RE☆だからです。by愛良)



「とりあえず、リョウガさん!今からお城に帰ってお父様に報告しなければなりませんわ!」



サフィのお父さん?

え、それって……王様でしょ!?



「えっと、王様に?どうして?」


「それはお父様からお話ししますわ!さ、急いで戻りましょう」



え、なんかサフィってすごい力なんですけど!?



「ちょ、待って!その前に依頼だけ出させて!」


「あ、そういえば、お友達を探したいのでしたわね。わたくしったら、うっかりしていましたわ」


「依頼書は私が作成しよう。君の友人の特徴を教えてくれ」



紙と羽ペンを取り出したネルさん。

助かります!



「名前は紫藤愛良。腰ぐらいまでの黒髪に、大き目の黒眼で身長はサフィと同じくらいかな」



僕が愛良の特徴を説明していると、なぜかサフィの表情が暗くなった。



「リョウガさん、お友達とは、女の子なんですの?」


「そうだよ?僕の幼馴染なんだ。この世界に一緒に来たはずなんだけど、はぐれちゃったみたいで」



本当は僕が強制的に連れてきたんだけど、そこまでは言わなくていいよね。

そういえば無理やり巻き込んだし、愛良怒ってるかな?

もしも愛良が怒ってたら……シバかれるね、絶対。

どうしよう、やっぱり依頼止めようかな。

けど一応愛良だって女の子だし、やっぱり知らない世界に一人だと不安だよね。

会ったときに全力で謝ればいいか。



「じゃあ、お願いします。報酬は……」



んー。

僕、この世界のお金って持ってないや。

すぐにでも魔法を覚えてお金を稼がないと。

愛良を見つけたら、この世界に連れてきたお詫びに僕が世話しないといけないしね。

でも、今この場での報奨金は出せない。

……どうしよう。



「……王家が出しますわ。安心なさってください」


「え、でも悪いよ!」


「ですが!」


「では、私が立て替えておこう。金が出来た時に返してくれたらいい。黒髪は珍しいからすぐに見つかるだろう」



ネルさんがそう提案してくれたから、サフィとの言い合いもなんとか終わった。

なんで急に突っかかってきたんだろ?










とりあえず、お城に戻って王様に会ったら、突然世界を救ってくれって言われました。



「へ?なんで?」


「君は魔王を倒すべく召喚された勇者だ。全属性に希少属性を二つも持っているとは、うれしい誤算。是非ともこの世界を救ってほしい」


「あ、はい。分かりました」



キリッとした表情の王様の言葉に、とりあえず頷いておく。

本当に愛良の言うとおりになっちゃったなぁ……。



「やはり急には無理か……て、ぇええ!?いいの!?軽っ!?軽いなオイ!?」



特に反論することもなかったから頷いたんだけど、なんか急に王様に突っ込まれた。

あれ、さっきまでの威厳はどこに行ったんですか。



「リョウガ君、分かっているのかい?私たちはこちらの都合で君をこの世界に呼んで、さらには命の危険さえ伴う魔王討伐を言っているんだよ?」



なんか、最初の威厳たっぷりだったのが形無しだ。



「え、はい。なんかここに来る前、幼馴染に『これはきっと勇者召喚だから、頑張って魔王を退治してきて』って言われたので、たぶんそうなんだろうなぁと思っていましたから」



ほんと愛良が言うことは当たるよねぇ。

まあ、全部携帯小説からの知識なんだろうけどさ。



「なんと!?その幼馴染は『先読み』なのか!?」


「まあ、(ケータイ小説の知識である意味)先読みしていたんだと思います」


「素晴らしい!もう先読みなんて何百年も現れていないんだよ。是非ともリョウガ君の幼馴染に会ってみたいな」



……あれ?

もしかして、さっきの会話、なんか意味違ってた?

ま、いいか。



「会えると思いますよ。この世界に召喚されるとき、傍にいたので。はぐれてしまいましたが、ギルドに依頼も出したので、そのうち見つかると思います」


「ならば見つけたら是非とも会わせてくれ!今後のことを聞きたいのでな!」


「……そういうのはさすがに無理だと思うけど、まあ見つけたら連れてきます」



とりあえずは、早く愛良を見つけないとね。






そのあとは学校とかの説明と、魔法の練習、それとなぜかサフィの買い物に付き合った。

学校に編入するまで一週間くらいだったけど、とりあえず魔法は初級、中級、上級なら詠唱破棄で、詠唱してなら最上級まで使えるようになった。

愛良は見つけられなかったけど、たぶん愛良なら大丈夫だよね。

早く愛良に会いたいなぁ…。

ヘタレ勇者の話&ギルドや魔法の説明でした。

たぶん、読まなくても問題なしだな。

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