81.まな板って言わないでください
◇◇◇◇
むぅ……。
愛良ちゃん、絶賛お暇なぅ。
カインに黙ってろって言われたから大人しく自称勇者さん達の様子を眺めていたんだけど、もう飽きました。
頭が残念だった様子の自称勇者さん、次の扉の問題も引っかかってますもん。
答えが分からなくて唸っている様子を観察していても、全く面白くない。
あの自称勇者さん、そろそろ魔王城攻略を諦めたほうがいいよ。
頭を鍛えてから出直してきたほうがいいって。
「ひーまー」
「わーうー」
もう暇過ぎて、しぃちゃんがさっきからお部屋をグルグル回っちゃいますから。
それを眺めているのも癒されるけど、やっぱり暇なものは暇。
カインでも時くんでも変態たちでも誰でもいいから、相手してー。
暇過ぎて帰っちゃいますよー?
「わうわうー!」
しぃちゃんに私のお膝の上に乗って、つぶらな瞳で見つめられながら『お散歩行こー!』ってお誘いされちゃったし。
可愛い子のお誘いは断れないんですからね、私。
よし、面白そうだから魔王城でも探検しよ。
モニターにマップもあることだし。
えーと……このお部屋は玉座の間の奥にある隠し部屋。
というか、魔王である変態の私室。
それでもって、各主要都市と繋がっている扉から少し離れた所にあるのが出入り口。
ちらっと開けて覗いてみれば、そこにはだだっ広い広間と玉座があった。
壁とか床も白いから、普通にどっかのお城の広間としか思えない。
魔王城って黒とか灰色とかのイメージが強いんですけど、見事に裏切られました。
「わーううー!!」
しぃちゃんはだだっ広い広間に大喜びですけどね。
尻尾をぶんぶん振って広間を走り回ってるし。
うん、時々床とか柱の匂いを嗅いで首を傾げている姿が超可愛いです。
もうなんであんなに可愛いんだろう、しぃちゃん。
「わうわうっ!」
「なーにー?」
んー?
しぃちゃんがお目めをキラキラさせて戻ってきました。
しぃちゃん、どったのー?
「わーう!」
着いてきてってお願いされるまましぃちゃんに着いていけば、たどり着いたのは玉座。
これに座って、魔王は現れた勇者に『ふははは!我が城へよく来た、勇者よ!!』とか言っちゃうんだ。
そんでもって、『ここが貴様の墓場だ!!』とか言うのかなー……。
ふむ……好奇心がむくむくと出てきちゃう。
よし、好奇心の行くままに実行に移そう。
とりあえず、一回隠し部屋に戻って最後の扉を簡単な問題に操作。
しぃちゃんは大型犬くらいの大きさになってもらって、玉座の間のお椅子に座われば準備OK!
最後の問題をクリアした自称勇者一向が扉を開け放って入ってきた。
「なんで最後の問題が『オタマジャクシのお母さんはだぁれ??』なんだ!!?」
入ってくるなり、目くじら立てて叫ぶ自称勇者さん。
納得いかない、という様子ですな。
頭が残念な自称勇者さんに優しくしてあげようと思った私の親切心なのに。
そんなに文句を言うなら、もっと難しい問題にすればよかった。
「あんた、そんな文句は後回しにしなさいよね!?」
「うっ……」
お仲間のグラマーなおねーさんに後ろから蹴飛ばされた自称勇者さん、情けないです。
そしてお仲間さんも、よっぽど自称勇者さんの頭の出来具合にキレていたんだね。
あの蹴り、手加減とか絶対してなかったと思う。
そんな蹴りを受けた自称勇者さんは、一度頭を振ると背中に背負っていた大剣を抜き放った。
「とりあえずは魔王!かく……ご?」
勢いよく走り込んできたけども、近くまで来てようやく私の顔が見えたみたいで戸惑った様子で立ち止まった自称勇者さん。
信じられない、という様子で目を白黒させてます。
「え、君が魔王?なわけない……よね?」
「魔王じゃないです!魔王代理でーす!自称勇者さん達、ようこそです!」
唖然と固まっている勇者一向に向かって手を挙げて歓迎。
私のお城じゃないけど、あの変態な魔王なら笑って許してくれるって信じてる!
「ま、魔王代理?え、魔王は?」
「魔王はいないこともないけど、今は忙しいと思うの。だから、私と遊んで待ってましょう!」
そう、魔王はカイン達と一緒になって私のことを放置したの。
だから、お暇になった私と遊んでくれる人大募集中なりー。
「遊ぶって……え?」
「ちょっと!?遊ぶってどういうことよ!?私たちがここまで来るのに、どれだけ時間をかけたと思ったのよ!?」
困惑から抜け出せない自称勇者と違って、お供のグラマーなおねーさんは復活早いなぁ。
特に深く考えてないのかな?
ま、いいや。
「はい、じゃあ鬼ごっこしよ!私が鬼だから、頑張って逃げてねー!」
「はぁっ!?魔王代理かなんだか知らないけど、なんで遊んであげないといけないのよっ!?」
「え、遊んでくれないんですか……?」
せっかく暇を潰せると思ったのに、真正面から拒否されると落ち込むんですけど。
どうせ変態な魔王っていう現実を直視するより、遊んでる方が絶対に気分的にいいと思うのにぃ……。
「い、いや、遊ぶのが駄目ってわけじゃないんだけどね?」
「何甘い事言ってんのよ!!?」
「ぐぇっ!?」
落ち込んだ私を慰めようと、慌てて宥めようとする自称勇者さんと、その後ろを再度蹴りいれるグラマーなおねーさん。
……別にあんなに大きい胸、羨ましくなんかないんだからねっ!!
どうやったら大きくなるのかとか、全然気にならないんだからねっ!!
「私たちは遊びに来たんじゃないわ。魔王を倒しに来たの」
「つまり……遊びじゃなくて、ちゃんと戦いたいってことですか?」
「当然じゃない」
「ふーん……」
戦闘したいなら、ご期待に添えるとしようか。
私って神族だから、たぶん確実に魔王より強いんだけど。
「よし、じゃあ戦いましょうか。避けないと死ぬから、死ぬ気で頑張ってくださいねー」
パールをロケットランチャーに変化させて発射!
追尾式だから、どこまでも追いかけるよー。
「はああっ!?なんなのよ、それは!!」
「ちょ、絶対に当たったらダメな気しかしないっ!!?」
にょほほほー。
グラマーなおねーさんと自称勇者さん、超必死な顔をして走り出したねー。
ファイトー。
「くっ!!」
おおう、さすが自称勇者を名乗るだけある。
走りながらでも上級結界を張れるぐらいの魔力コントロールを持っていると思ってなかった。
「だけど残念!」
「うわぁああああ!!?結界が効かないぃいいい!!?」
追尾式のついでに結界破壊の魔法も組み込んだから無意味なんだよー。
んー……逃げ足早くてなかなか当たらない。
よし。
「しぃちゃん、ゴー!」
「がう!」
しぃちゃんの必殺技、レーザービームの連射です!
「今度はなんだぁあああ!!?うわぁあああ!!」
「いやぁあああ!!!」
ギリギリ当たらないようにしているレーザービームに驚いた自称勇者一行が立ち止まった瞬間、ミサイルが命中。
盛大な轟音を立てて大爆発。
もちろん、私としぃちゃんは無傷!
「よし、命中!!しぃちゃん、やったね!」
「わ~う~!!」
しぃちゃんの前足とハイタッチ!
けど、やり過ぎたかなぁ?
お城全体にかかってた結界まで消しちゃったや。
んー……ヤワな結界張ってた魔王が悪いってことにしとこー。
「自称勇者さんたち、死んでますか―?」
「ぐっ……」
「こ、この……まな板娘が……」
「…………」
……よし、リンチ決定。
「潰れちゃえ『グラビティ』」
失礼な人たちは、重力を重くして潰してやる。
「がう」
「あぐぅ……」
グラマーおばさんをしぃちゃんが踏んでるような気がするけど、気にしない。
踏みつぶさないようにしぃちゃんだって気を付けてるもん。
「ふふふ……人が気にしていることを、そうやって言ったらダメなんだよ?知ってる?」
まな板って何。
確かに私はまったいらさ!!
このグラマーおばさんとは大違いだろうさ!!
どうせお父さんに『愛良ちゃんは絶壁でいいんだよ☆』って言われるくらい、平面さ!!
くっそ、泣いてやる!!
調子にのった愛良は、魔王代理を勝手にやって自称勇者の仲間からの口撃でクリティカル大ダメージを受けた!




