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80.魔王城攻略には学力が必要

◇◇◇◇


愛良のバイト先は、俺の目の届く範囲しか許すつもりがない。

あいつが何をしでかすか不安でたまらないし、何かしでかした時の対処もすぐ出来るだろうし。



「何もしでかさないもんー……可愛い制服を着てみたいのー」



不貞腐れたまま恨めし気に睨んでくる愛良。

そんなに睨んだところで、普段が普段だから却下だ。

俺が安心して目が離せるようになってから、そういうこと言ってくれ。



「むぅ……カインのけちー……」


「好きに言ってろ。さっさと帰るぞ」



夏休みに入ったことで、ずっと寮にいる必要もない。

夏休みの間はギルドの隣にある親父の家に戻るつもりだ。

ルナたちは修行と称してギルドに出入りすることも増えるだろうし、ギルドにいたほうが都合がからな。



「分かったよー……帰る前に、ちょっと寄り道していい?」


「それは構わないが……どこに行くんだ?」


「んーと、よく分かんない」


「は?」



寄り道したい場所があるのに、行き先がよく分からないってのはどういうことだ。

お前、感覚で進んでいるのか?

俺たちのギルドがある方向とは全く別の方向なんだが……。



「愛良、いい加減行き先を教えてくれ。どこに行くつもりだ?」


「んーとね、魔王城に引きこもってるコス王をそろそろ迎えに行こうかと思ったの」


「それで、何故ここに来るんだ?」



愛良が足を止めたのは、王都で最大級の市場だ。

買い物をする愛良がよく利用する場所ではあるが……どうなってんだ?

魔王城は、この大陸の北に位置する魔の大陸と言われているのに。



「カイン、こっちからコス王の魔力感じる」



愛良が指さしたのは、市場のすぐ近くにある民家。

どこにでもある普通の家だ。

……扉にでかでかと『まおーさまのおしろ』とさえ書いていなければ。

ついでに言うと、その下に『ゆーしゃさんwelcome!』と書いているように見える。



「は?」



間抜けな声を出してしまっても、これは仕方がないだろ。



「俺の見間違いだよな?誰か見間違いだと言ってくれ……」


「残念。見間違いでもなんでもありません」


「わふー」



思いっきりマジックで書かれていた。

これ、いったい何の冗談だ?

馬鹿なのか?

やっぱりあのロリコン魔王は馬鹿なのか!?



「カインー?行くよー?」



そして愛良はなぜ何の疑問も持たないんだ!?

普通は突っ込むだろ!?



「いやいや、愛良。お前はこの場所にこんな扉があって何とも思わないのか!?」


「へ?んーと……市場が近くて買い物が便利そう?」


「わうわう!」


「……」



首を傾げながら答える愛良と、尻尾を振って頷くシリウス。

ああ、こいつらに対して普通の感想を求めた俺が間違っていたのか。

普通、この場所とこの扉についていろいろツッコミどころがあるよな?

それを、まさかの主婦目線で答えた愛良。

もういいよ、お前に一般の反応を求めた俺が馬鹿だった。

お前はあの変態神を簡単にあしらえる一般人からかけ離れた奴だもんな。



「……わぅ?」(今、愛良馬鹿にした?)



……今、心を読まれたとしか思えないタイミングで、シリウスが半眼なって俺を睨みつけてきた。

この危犬は、人の心情まで読めるようになったのか?



「残念。カインの思考が単純なだけです」



そうか……って、え?

俺、今のは確実に言葉に出してなかったよな?



「お前、今さらりと俺の心情読んだ?」


「最近読めるようになったけど、今のは読んでないです。単なるカンです」


「……」



神族だからか?

神の前では人間の内心などあけっぴろげだということか!?

俺のプライバシーは!?



「……もういい」



もう深く考えるのはやめよう。

神族のことを考えた所で、身がもたない。

とりあえず、ふざけた扉を開けてみると、中から聞こえてくるのはコス王やロリコン魔王、時神の笑い声。



「ブッ!!この自称勇者+α、馬鹿じゃねー!!?」


「この部屋に入って、かれこれ1時間だぞ!!ブフッ!!」


「ナゾナゾが解けなくて部屋から出れない勇者達……バッカだねー!!あっはっはー!!」


「次の問題、何にする!?」


「いっそ命令系にしようぜ!」


「じゃあ『仲間が自称勇者を10分間罵倒する』にしよー!!」


「「ナイス!!採用!!」」



………。

俺は何も見なかったことにして扉を閉めた。



「愛良、この中は何もなかった」


「いや、声とかマル聞こえでしたけどね?というか、面白そうだから私も行きたい」


「やめてくれ」



頼むから、これ以上面倒事を増やさないでくれ……。

しかし、俺のそんな願いは愛良には通じない。



「はい、カインどいてー」


「ぐはっ」



嬉々とした表情で馬鹿力で押しのけられました。

楽しそうなことを目の前にした愛良を、俺が止められるはずがないんだ。



「変態ズ、やっほー」


「俺、普通だと思うんだけどー?」


「俺様はコスプレ好きの変態でっす!」


「幼女様は神!の変態だぜ!元幼女様、ようこそ!」



時神はともかく、コス王と魔王は変態だと自覚していたのか。

というか、この変態の中を平然と入って行ける愛良も十分変人だよな。



「何見てるの?」



首を傾げながら入っていく愛良のために、変態共が場所を開けるようにクッションを自分たちの間に置いた。

そして座れという様に手招き。



「お嬢!ナイスなタイミングで来た!今、久しぶりに魔王城に自称勇者一向が来たんだ!」


「さっきから面白いよー」


「元幼女様なら好きなだけ遊んでいいぞ!」


「わーい!」


「わーう!」



両手を上げてクッションに腰掛ける愛良と、その膝の上で座るシリウス。

……珍しいほどテンションが上がっているな。

もう嫌な予感しかしない。

こいつら放っておいて帰っていいか?

いや、放置したらさらに被害がでかくなりそうだから帰らないが!



「カインも、入口で黄昏てないで入って来いって。笑えるから」



コス王がニヤニヤ笑いながら中に入ることを進めてくるし。

……腹をくくるか。



「これ、勇者?単なる勘違いっ子じゃん!」



愛良が前に作った魔導具テレビによく似た画面。

それを見ながら、爆笑している愛良。



「……何やってんだ?こいつら」



画面に映っているのは、仲間と思しき女にひたすら罵倒されて凹んでいる自称勇者らしき男。

両手を地面に付けて項垂れている。



「こいつらさー、俺倒しにわざわざ船で海渡ってきたみたいなんだけど、城に入ってから全然前に進めてねぇの。マジで笑うわー」



腹を抱えて笑いこけるロリコン魔王。



「城の構造とか、別に複雑じゃないのにねー!問題多いけどー!」


「城に入ってからすでに10時間超えたぞ!俺様、そろそろ腹筋が崩壊しそう!」



魔王と同じように腹を抱えた時神とコス王の目尻には涙が浮かんでいる。

どんだけ爆笑してんだ、お前らは。

まぁ、確かに問題に答えられなくて先に進めないのは笑えるがな?

俺はお前らほど非情になりきれないんだ。



「というか何であんな王都の真ん中とこの部屋を直接繋げているんだ?」


「え?買い物に便利だからじゃないの?」


「愛良、頼むからお前は黙って自称勇者の様子を観察していてくれ」



そうじゃないと、話が進まないんだよ。

幸いなことに愛良の興味は自称勇者にあるから、すぐに黙ったけどな。



「で?どうなんだ?」



俺がこの狭い部屋にあるいくつもの扉を眺めながら尋ねると、画面に食いついていた魔王があっけらかんと振り返った。



「元幼女様の言った通りだぜ?ちなみに、ここにある扉全部、世界中の主要都市と繋がってる。世界中の美味いもの食べたいし、何より世界中の可愛い幼女様を見たい!」


「今すぐ自称勇者に退治してもらえ」



幼女が傍にいないとまだ真面かと思ったが、やはり変態は変態だな。

さっさと滅べ。



「おっ、そろそろ自称勇者一行が玉座にたどり着くぞ!」



腹を抱えたままピクピクと痙攣していたコス王の言葉に画面に視線を戻すと、巨大な扉の前にたどり着いていたらしい自称勇者一行の姿があった。



「最後の問題は何にすっかなー?」


「……もしかして、扉ごとに問題を出しているのか?」


「うん、そうだよー」


「俺、魔王だけど堕天使であって魔族じゃないから部下とかもいねぇし、城の中で魔物飼うのも餌とか大変そうだし、糞とかで城が臭くなるのも嫌だったからなぁ」



魔王が堕天使とか初耳なんだが。



「だけど、それだと自称勇者が来た時に、すぐに俺のとこまで来られるだろ?だから、時間稼ぐのに扉一枚開けるごとに問題出してんだよ」



時間稼ぎにクイズなのか……いや、戦闘よりも安全ではあるが、何か釈然としないな……。

そして城攻略の難易度を別の意味であげてどうするんだ。

勇者に必要なのは、力じゃなくて学力だったのか?

何だか、釈然としない……。



「実力行使で来られたらどうするつもりだ?」


「ふっふっふー。空間属性の結界を張っているから安全、安心!扉に魔法をぶつけた瞬間、そのまま自分に帰ってくる仕組みだ!エコだろぉ?ぎゃん!!?」



いちいちウザいな、このロリコン魔王。

思わず顔面を殴ってしまったが、こいつがウザいのが悪い。



「鼻が……鼻がぁああああ!!!」


「ロリ魔王邪魔!」


「げふっ!?」


「ちなみにー、今まで来た勇者の大部分は、玉座にたどり着く前に心折られてまーす!」



鼻を押さえて転げまわっていた魔王を蹴飛ばした時神が、手を挙げて説明してくれる。

なるほど、力しか重視していない馬鹿はお呼びじゃないということか。



「確かに今いる自称勇者も心折られているな」



まぁ、信頼していた仲間からあれだけ罵倒されたらそうなるよな。

仲間も、なかなか正解しない自称勇者に対して苛立っていたみたいだから、絶対に本気で言っていたしな。

まぁ、憐れだとは思うが、俺には関係ないからどうでもいいか。

それよりも、さっきから気になっているんだが……。



「愛良はどこに行った?」


「「「……え?」」」



俺の疑問に答えてくれる奴は、誰もいなかった。

やっぱりあいつらから目を離すんじゃなかった……

愛良とシリウスはどこにいったんだ!

お話に参加させてもらえなかった愛良さん。

拗ねちゃった彼女はいったいどこにいったのか!?


1.拗ねちゃったから先に帰宅中

2.面白そうだから魔王代理中

3.しぃちゃんとラブラブお散歩中

4.他の主要都市の扉を出て探検中


さあ、どれでしょうか!?(笑)

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