79.私にも選択肢があっていいと思うんです
「はい、チームが決まったら記入用紙に書いて提出してねー」
チーム決めも終わり、さっさと夏休みに突入したいクラスメイトたちはさっさと提出をしてくるいい子たちです。
一部性格最悪なのがいるけどね。
「さて……夏休みに入るために先生からの挨拶が必要なんですけども、ソルせんせーは……うん、学年主任の先生にボコられて今から強制転移させられてくるわ」
私がみんなに説明するのと同時に転移で送られてきた先生。
ちなみに、教室の天井ギリギリのところから無様に地面に頭から落ちた。
学年主任の先生、日ごろの恨みもめちゃくちゃ頑張ったようです。
一応仮にも雷帝のはずなのに、ちょっと情けない……。
だけども、普段からの怠慢っぷりを見ている生徒の立場からすると、ざまぁ!だね。
「ナイス!スージー先生!ソル先生、今日は強制転移ばっかの日で残念だね」
「その最たる原因は誰だと思っているんだ?」
「わう!」
「ぐえっ!?」
本当にカインは余計なひと言が多い。
せっかく私の机の上で寝ていたしぃちゃんが起きて、もうダッシュでカインのお腹に頭突きくらわせちゃいましたよ。
「しぃちゃん、せっかく丸くなって可愛く寝ていたのに、起されて可哀相……よしよーし」
「きゅーん……」
まだ眠たそうに欠伸をして私の腕の中に飛び込んでくるしぃちゃんの頭をナデナデ。
ああ、可哀相に……。
眠たいの我慢できない様子で、私の肩に頭を乗せてスピスピ寝息をたてちゃったよ。
ゆっくりお休みね、しぃちゃん。
「……アイラは、シリウスに対する優しさをカインに分けてあげるべきじゃね?」
「アイラとカインの関係はこんなもんでしょう」
「ぴった、り……」
未だにお腹を押さえたまま蹲っているカインとお昼寝再会中のしぃちゃんの背中を撫でている私とを見比べてグレイが何かぼやいたけど、私たちのことをよく分かっていらっしゃるラピス様とルナちゃまは何の疑問に思うことなく頷いた。
持つべきものは、自分をよく理解してくれる友人ですな。
そんな私たちを見比べて、若干顔を引きつらせたルート君がぽつりと呟いた。
「……僕、この人たちについていけるのかな?」
ごめん。
その疑問にはそのうち慣れるとしか言えない。
頑張れ。
「ほら、ソルせんせー。さっさと起きなよー」
ソル先生が起きてホームルームを終わらせないと、私たちいつまでたっても夏休みに入れないじゃん。
だけども。
「うーん……ぴくりとも動かないや」
しょうがないね。
学園長のおじぃちゃんを逆転移。
「うまいのぅ……」
ほっこり幸せそうな顔でお茶を飲んでいたおじぃちゃんが現れました。
おじぃちゃん、幸せそうなティータイムをお邪魔してごめんなさい。
だけども、おじぃちゃんなら許してくれるって信じてる!
「はい、じゃあせんせーが気絶しているから代わりに学園長の先生を呼びました。みなさん、ちゃんと大人しくしましょうねー」
「……うん?」
何で儂、ここにいるんじゃ?って顔で私の顔を凝視するおじぃちゃん。
「……アイラや。今のは何なのかのぅ?」
「強制転移魔法の応用で逆転移を考えました☆」
「お前、学園長を実験体にしたのか……?」
カインさん、さすがの私でも最初から人体実験はしていませんから。
そんなに疑惑に満ちた目で見据えないでください。
そうやって人のことを疑うのはよくないことだと思います!
「それよりおじいちゃん。せんせーが使い物にならないから、代わりに1学期最後のホームルームの挨拶をお願いします!」
「……さっきの終業式で十分じゃろ。ほれ、もう終わりじゃ。夏休みも怠けていてばかりでは駄目じゃが、各自楽しむようにの。それじゃあ、また2学期にのぅ」
何かを諦めたような目をした学園長のおじいちゃんは、そう言うなり湯呑を持ち直して転移で学園長室まで戻っていきました。
それと同時に、歓声を上げて次々と教室を出ていくクラスメイト達。
さて、夏休みの始まりですよ!
とりあえずは、バイトだね!
高校生になったらバイトをしたいと思っていたの!
ギルドの依頼じゃない普通のバイト、何かないかなー?
「カインは夏休みの間は何するの?」
「俺は親父の手伝いだな。マスターの仕事も覚える必要があるから」
おおう、超真面目な回答が返ってきました。
さすが次期ギルドマスター。
もううちのギルドの将来は安泰だね。
「愛良も親父の仕事を手伝うか?」
「……普通のバイトがしたいなぁ」
可愛い制服のウェイトレスとか、本がいっぱい読める本屋さんとか!
サービス業に興味津々です!
「……制服はないが、それならギルドの受付をやったらいいんじゃないか?うちの受付は酒場の店員も兼ねているし。もちろん、夜の時間帯は入らなくていい」
「うーん……」
「ギルド内にある専用図書室の整理の仕事もあるぞ。依頼の受付だけが仕事じゃないからな。ちなみに、仕事がない時は好きに読んでいいぞ」
「へー……」
「何より、うちの受付って人が定着しないんだ。主に親父のせいで」
「あー……オカマスターだから……」
「だから、愛良は余所でバイトをするんじゃなくてギルドの受付嬢で決定な」
「……あれ?」
なんか悩んでいるうちに私のバイト先、決まっちゃった?
カインさん、今完全に決定事項だったよね?
私の選択肢はいったい何処に消えた?
そう思って見上げれば、真剣な顔をして私の両肩に手を置くカインさん。
「愛良……頼むから、(お前が何をしでかすか分からなくて不安過ぎるから)俺の目の届く範囲にいてくれ。くれぐれも(余所に迷惑をかけないように)頼むからな」
「……」
言葉の端々に何かを含ませたカインの言葉。
だいぶイラッときたので、鳩尾に拳をめり込ませたのは許してね?
とにもかくにも、どうやら私の夏休みのバイト先は決まったようです。
愛良「あれ、バイトの面接とかってないの?」
鬱帝「愛良に対しては必要ない」
愛良「……さいですか」




