逸話.世界のどこかで
お、使えそうな駒みーっけ!
馬鹿堕神がすっかり忘れてたんだから、使っても問題なしだよな!
この駒を使って、封印を解かせよう!!
……あ、でも自分の封印場所知らないや。
◇◇◇◇
ここは、どこだ?
真っ白で何もない空間。
気づいたら俺はここにいた。
どうして俺はこんな所にいるんだ?
「よっ!気づいたか?」
なんだ、この急に目の前に現れた男は……。
白髪赤眼の色黒イケメン……喧嘩売ってるな、こいつ。
「イケメンなんて、そんな褒めるなって!」
別に褒めてねぇし、人の心を読むなよ。
なんなんだ、こいつは。
「だって、しょーがないだろ?お前体ないし、俺は心読めるし」
……え!?
俺って体ないの!?
何で!?
「何でって言われてもなぁ。お前死んだんだし、しょーがないだろ。今は魂だけの存在なんだぞー」
何で俺死んだの!?
普通に学校から家に帰ってたと思うんだけど!?
「そうそう。帰宅途中で公園を突っ切るだろ?」
俺の言葉に、あっさり頷くイケメン。
……確かに、公園の中を通ったな。
近道だし。
「その公園、昔近所のちびっ子たちが落とし穴を掘ってたんだよ。4mくらいの」
4m!?
ちびっ子の労働力すげー!!
「んで、お前はその落とし穴に運よくはまって、落ちる時に頭をぶつけたんだよ。で、今ここ」
なるほど……。
そんなアホな死に方嫌だなぁ。
ていうか、そんな死に方をしたら、その近所のちびっ子たちの将来大丈夫か?
気にしねぇといいけど。
「あ、それは大丈夫だ。掘ったのは10年以上前で、当の本人たちすっかり忘れているし。むしろ、今まで誰も落ちなかったのが奇跡レベル。お前、運ないなー」
……このイケメンがムカつく。
肉体があれば、殴れるのに。
「なぐ……!?……言っておくけど、お前の死は神のミスだからな?俺のせいじゃない!」
俺の殴る発言にビビったのか、一定の距離を保って離れるイケメン。
つーか、そんなことよりも、神のミスって言った?
え、マジで!?
じゃあもしかして俺、携帯小説みたいに異世界転生できんの!?
「うん、転生させようとは思ってる。だけど、俺邪神だけど大丈夫か?」
あれ、俺を死なせた神様じゃないの?
ここって普通は当事者が呼び出すんじゃないの?
「お前をうっかりミスで死なせたクソ神は、すっかり忘れているみたいだから俺が拾ったんだ。で、どうする?もしも転生するなら、俺の手伝いをしてもらうけど、できるか?」
するする!
そんな楽しそうなことが出来るなら、俺手伝う!
「じゃあどんな能力がいいー?転生先は魔法が使えるぞー」
魔法!
転生の定番だな!
とりあえず、転生先の世界で一番丈夫で強靭な体と一番多い魔力!
「ほい」
「おお!体!……服もください」
なぜに素っ裸……。
体くれるなら、服も一緒にくれよ……。
「おお、忘れていた。よし、これを着ろ」
そう言って邪神がくれたのは、白いナース服。
「誰が着るか!!」
この邪神、嫌がらせなのか!?
俺のこと、実は嫌いだろ!?
「冗談冗談。これは前にコスプレ好きの友達に渡されたもんだった。ほい」
今度は普通の黒一式の服を渡された。
よかった……。
俺、記念すべき異世界第一歩をナース服で降り立つか、素っ裸の二択しかないのかと思った……。
最初から普通に寄越せよな!
「で、他に能力は何がいい?」
「えーとなー、人間を操ったり記憶を弄れる魔眼と不老不死!」
「オッケー!」
俺の願いを聞いて、軽く頷く邪神。
こんだけ能力があったら俺は最強だよな!
「じゃあ、俺封印されてるから、封印を解いてくれる?当面の課題はそれね」
「いいけど、封印解いたら何するんだ?」
「え?クソ神に嫌がらせしまくるけど?」
俺を間違って殺したという馬鹿神に嫌がらせ……。
なら別にいっか。
「いいよ、手伝う。封印の場所は?」
「知らねー。お前を送る世界のどこか」
なぜか突然どうでもよさそうに懐を漁りだした邪神。
こっちを見てすらいねぇんだが……情報それだけ?
「うん、それだけ。はい、ピース」
「ピース」
カシャっという音をが聞こえた瞬間、日本人の慣れた習性でピースをとってしまっていた……。
何で急に写真を撮ってんだよ、この邪神は!
「気にするな!ぼっちで寂しくて人恋しいだけだから!」
「……」
なんだろう、この邪神、可哀相な奴な気がしてきた。
野郎に写真撮られて気分悪いけど、可哀相だからそのままにしておいてやるか。
「……で?本気で封印場所知らないのか?」
「ほんとほんと。あ、でも、俺の封印探してるっぽい国に送るわ」
「えー……」
ちゃんと写っているかデジカメ確認していて、返事がすんげぇ投げやりだな、おい。
こいつ、マジで封印解く気あんの?
「あるある。早く自由の身になって神王様んとこに遊びに行きたいもん。もう一人はマジで寂しい!」
あ、ようやく顔を上げた。
邪神が様付けするってことは、神王ってのは偉い神様だよな?
「……お前、何で封印されてんの?」
別に悪い奴って感じしねぇけど。
むしろぼっちで寂しいとか呟いている奴だけど、それのどこに封印させなきゃいけない要素があったんだよ?
「お前をミスって殺した世界神と喧嘩して、危うく地球と異世界を滅ぼしちまうところだった」
「よし、お前と世界神が滅べ」
なんなんだよ、そのうっかり全人類を殺っちゃうところだった~てなノリは!!
「やーなこったー。喧嘩両成敗で神王様にめちゃくちゃ怒られたんだから、そこまでしなくていいだろ。俺、堕神に落とされて1万年くらい封印されたし。世界神は産まれたばっかの愛娘に1万年くらい会いに行けなかったみたいだから、ざまぁだけどな!!」
「え、世界神の罰、軽くないか?」
片や邪神になって1万年封印されてんのに、もう片方は娘に会えないだけ?
喧嘩両成敗にしても、釣り合わねーだろ。
「そーでもないぞ?何しろ奴は馬鹿親だからな!血の涙を流して後悔していたぞ!まぁ時間を戻して成長はばっちし見ているだろうがな」
つまり、邪神も大概変な奴だが、世界神も同類ってことだな?
俺、邪神もそうだけど、この世界の神も性悪だと思う。
絶対こいつらが滅びたほうが、世界は平和になる気がしてきた。
「あ、そうそう。言い忘れてたけど、世界神の方も勇者召喚して俺の封印を解くのを妨害、もしくは倒そうと送り込んでるから、見つけたら殺しといてくれ」
……え。
なんか今さらっと人殺しを依頼されたんだけど。
「……お前が復活してから殺れば?」
さすがに人殺しは無理。
現代日本人を舐めるなよ!
「そうしたいんだけどさー。神王様に世界が滅ぶから喧嘩する時は、相手の勢力に直接手を出すの禁止って言われてんだよ」
神王は正しい。
正しいんだけど、他にもうちょっとマシな方法があったと思うのって俺だけ?
「そゆことだから、よろしくー」
「……まぁ、努力するわ。で、その勇者ってどんなの?」
「えーとなぁ……」
なんか突然スマホっぽいもんを出して調べる邪神。
「それ何?」
「ん?最近開発された魔導具のスマホみたいだぞ。簡単に念話もできて、調べ物もできるという素晴らしいものだ!」
どこの世界でも、調べ物はネットなのか?
てか封印されてんのに、何で手に入るんだよ。
「邪神様だからだ!」
うん、気にするだけ無駄ってことだな。
もうこいつのやることにいちいち口出ししない。
「お、あったぞ!イケメンで優しくて正義感あふれるヘタレだって」
最後の言葉って何ですか?
え、そのヘタレが勇者なの?
「その情報源ってどこから?」
「投稿者はイケメン撲滅委員会名誉会長だそうだ!」
……異世界にもイケメン撲滅委員会は存在するんだな。
是非とも入会させてもらわねば!
「あ、それ無理じゃね?」
「何で?」
「ほい、鏡」
なんだよ、突然鏡って……。
鏡には俺の顔が……。
「うぇえええええ!!?これ誰ですかぁあああ!!!?」
あっれぇぇええええ!?
鏡に映ってる人、俺じゃないんですけど!!?
黒髪黒目は同じだけど、俺の顔レベルが4(中の下)だとしたら、今鏡に映ってる顔はレベル10だよ!
イケメン中のイケメンだよ!!
マジで誰この人!?
「新しいお前の顔だ。フツメンが身体能力高くて魔力も強いとかキモいだろ」
「てめぇは全世界のフツメンの方々に詫び入れろやボケェエエ!!!」
「げふっ!!?」
フツメンが強くて何が悪い!!
フツメンにもフツメンなりのプライドってもんがあるんだ!!
そしてイケメンはフツメンの敵なんだよ!!
「いいから元に戻せ!ボケ邪神野郎が!!」
「ぶっ!?む、無理……です……」
「んだとゴラァ?てめぇの白髪全部根本から引っこ抜くぞ?」
「ひっ!?出来ないもんは出来ないんです!すんません!!」
ちっ。
一応仮にも神の名がついてんのに、使えねえ奴だな。
「ぐす……なんか、出会って10分で俺の価値が激落した気がする」
「あ、それ気のせいでもなんでもないから」
尊敬できるところがない堕神を敬うとでも思ってんのか?
敬う価値なし。
白髪を毟りとられなかっただけ、ありがたいと思え。
「ぐすぐす……もういいよ。お前、さっさと異世界に行けよ。そしてさっさと俺の封印解けよ。そしたら、お前はもう自由にしたらいいからさ……ドメスティックバイオレンス反対……」
何かorz状態で延々と呟きながら泣いているが、どうでもいいな。
「ああ、了解。制限期間はあるのか?」
「ある。1年以内に封印解いてくれ。ちなみに、一秒でも遅れた場合はお前、魂に戻って消滅するから」
「……やっぱその白髪毟るか」
「ひっ!?」
頭を押さえて後ずさる邪神。
涙目で震えている邪神に近づくと、突然足元の感覚が消失した。
つまり、足元に穴が開いて落ちたというわけだ。
「てめぇ……封印解いたら真っ先にてめぇの白髪毟ってやるからなぁあああ!!!!!」
そこで俺の意識はブラックアウトした。
……怖かった。
すっごく怖かった。
何であの人間、顔弄っただけであそこまで性格変わったの!?
人間ってよく分からない。
とりあえず、この恐怖の原因はやっぱりあの馬鹿親世界神だ!!
封印から解放されたら、あいつの世界を嫌がらせでめちゃくちゃにしてやるんだからな!!
神王様に怒られても、やってやるんだからな!!
ミカエル「神様。以前お嬢様に『大嫌い』という伝言の時に破いてしまった書類ですが、アレはいったいどうしたんですか?」
世界神「……え?ミカエルが対処してくれたんじゃないの?」
ミカエル「は?神様のミスの後始末を、何故私がいないといけないんですか?というか、あのまま放置していたんですね?」
世界神「……ご、ごめんなさい」
ミカエル「神王様にご報告すべき内容が増えましたね。ご愁傷様です」
世界神「ちょ、ミカエルさん許してぇええ!!」




