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70.誤解が解けない

……とりあえず、組手の結果を言うと、俺の負けだ。

俺は無限の能力で身体能力が向上していて、かつ、愛良は力セーブの腕輪をしたまま身体強化をせずにいての結果だ。

ちなみに、俺は身体強化以外の魔法は使っていない。

愛良に至っては、何も魔法は使用していない。

それなのに試合開始の合図と同時に体制を低くして突っ込んできた愛良の繰り越す拳を避けるので精一杯。

上半身……というよりも、顔面中心に狙ってくる愛良の動きにばかり注意をしていたがために、注意力が散漫となった足元に足払いをかけられた。

そしてバランスを崩したところを、襟首を掴まれてそのまま背負い投げされた、ということだ。



「……俺、何連敗目だ?」



投げ飛ばされた格好のままつぶやくと、愛良がニコニコと笑みを浮かべて顔を覗き込んできた。

清々しいまでの笑顔だな、おい。



「14敗目ー。魔法じゃ勝てないけど、接近戦なら自信ありまーす!」


「平和な所から来たくせして、なんで接近戦が得意なんだよ?」



こいつ、あの屑勇者と一緒の世界に住んでたとか嘘だろ。

基本的な体術の差があり過ぎる。

あっちでどんな生活をしていたんだよ!?



「お母さんの教育方針ー。『自分の身は自分で守れ。というか、危険になる前に(隣に住む)元凶を殺れ』ってなわけで、武術系をいっぱい仕込まれました!」



……お前の母親って何者?

あのクソ神がベタ惚れしているみたいだけど、絶対に普通の人間じゃないよな。

愛良の性格に多大な影響を与えている様子だし。

そして今の台詞の中に、絶対屑勇者のことも言われてただろ。

というか、お前の母親は奴のことを愛良が危険になる元凶としか思ってないと思うぞ。

お前に武術系を仕込みまくった根本的な理由に違いない。



「お母さん、すごいよねー」


「あー……そうか」



のほほんと笑っている愛良は気づいていない様子だがな。

是非ともお前の母親とは一度話してみたいぞ。



「……クソ神が、お前は母親によく似ているとかほざいていたが、そうなのか?」


「うん。お兄ちゃんたちも、私とお母さんは見た目も性格もそっくりって言ってるよー。……一部を除いて」



一部?

何でそんな残念そうな……というか、涙目でプルプル震えているんだ?



「……愛良?」



「……別に、母娘って言っても全く同じになるわけじゃないもん。それに私、まだ成長途中だと思うもん。なのに似ているのは顔と性格だけって何回も何回も……。お父さんはお父さんで『僕はお母さんが大好きだけど、甘食も大好きだよ!むしろ地平線グッジョブ!!』とか訳分かんないことぬかすし。真平らの地平線で悪かったな。もう本気でパパ死ねばいいのに。ついでに龍雅も無自覚に同じこと言いやがるし、そのたびにシメたけど、やっぱりムカつくのはムカつくんだもん。……大丈夫だもん、気にしないもん。まだ16歳になったばっかだし、まだ望みはあるはず……。でもやっぱりお母さんぐらいおっきくなりたいとは言わないから、もうちょっと膨らみがほしいよね……」



「……………」



………突っ込まない。

俺は突っ込まないからな?

絶対に突っ込んだりしないからな!?

愛良の禁句ワードに関しては絶対に何も言わないからな!!?

……疲れた。

目の前で小動物みたいに涙目でプルプル震えているが、実際には暴れだす一歩前のドラゴンと同じだぞ、こいつ。

下手に動くことすらできない。

というか、こいつがここまで絶壁(むしろ地平線か?)を気にするのはクソ神とヘタレ野郎が原因なんだよな?

俺の八つ当たりの矛先はもう奴らでいいよな。

決めた。

俺は奴らをとことん嫌い抜く。

というか、隙があればシバき回す。



「……が~う~~!!」



俺が決意をしたところで、シリウスの声が聞こえてきた。

シリウスが帰ってきたってことはもう7時前だな。

そろそろ部屋に戻って学園に行く準備をしないと、慌ただしくなる。



「がう?」



ん?

シリウスが半泣きの愛良を見て首を傾げた。

そして俺の顔をちらっと見る。

……嫌な予感がしてきた。

というか、嫌な予感しかしない。



「ぐる?ぐるぅ?ぐるるぅ?」



俺に向かって唸るシリウス。



(カイン?カインなの?カインが愛良泣かしたの?)



言葉を話せたら、こんな感じだろうか。

俺、狙われてるよな?



「愛良、もう7時だ。シリウスが帰ってきたからもう戻るぞ」



でないと俺の命が危ないから。

頼むから早く復活してくれ。



「あ、そだね……戻ろうか」



愛良もシリウスの様子に気づいて頷いたのだが。

頷いた拍子に、目に溜まっていた涙が一滴頬を流れた。

その瞬間。



「がぁああああ!!!!」



その巨体から想像もできない速さで跳びかかってきた危犬。

必死に横に跳んで避けるが、神獣である奴にとって俺の動きなんて遅いんだろう。

すぐに追いつかれた。



「遅かったぁぁあああ!!!俺じゃないぃいいいい!!!!しかも今のは不可抗力だぁああああ!!」



さっきのは完全に俺のせいじゃない!

なのに、この危犬は俺の言うことは聞く耳持たない。



「愛良!」


「カインー、しぃちゃんと遊んでくれてありがとー。私先に帰って朝ごはん作ってるから、冷めないうちに帰ってきてね」



時間を気にしながら、手を振って先に特訓空間から出て行った愛良。

お ま え は!

どこをどう見たら、俺がシリウスと遊んでやってるように見えたんだ!

明らかに俺襲われているだろ!?

なんで爽やかに笑って先に帰ってやがんだ!

くそ……愛良が朝食を作り終わるまで、絶対に逃げ切ってやるからな!




人の夢と書いて、『儚い』

きっとカインさんはしぃちゃんに捕まって、そのままじゃれつかれて瀕死になることでしょう。

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