68.訓練は命がけです
とりあえずは朝練用のジャージに着替えてー。
部屋の隅っこで鬱ってるカインを回収して、朝練に行こうかな。
「ほら、カイン。朝練行くよー」
「……」
あら無言でイジイジしてるし。
そんなにさっきの『コス王とカインだと、コス王の方が男前』発言が気にくわなかったの?
もー。
めんどくさいなー。
「カインー。早く復活しないと……分かるよね?」
ついでに指の骨をボキボキ鳴らしてみると、その音を聞き取ったカインさんは素晴らしい速度で立ち上がった。
「復活させていただきます」
素早い復活で大変よろしいです。
よかったー。
無駄にボキボキしたら指が太くなっちゃうからね。
「そいじゃあ特訓空間に行こ」
「ああ。今5時か……。7時には戻るから、それまでに片づけておいてくれ」
時計を確認しながら、現在進行形で変態にお仕置き中のコス王たちに話しかけるカイン。
朝練の時間、今日は2時間だけかー。
いつもより30分短いから、今日は短縮形でやらないとだね。
「うーっす!カイン!健闘を祈る!!一回ぐらいお嬢に体術で勝ってこい!」
「……それは俺に死ねと言っているのか?」
コス王の激励に、いたって真面目な顔をして言い返すカイン。
そりゃ最近は体術だけなら私の連勝が続いているけどさ、最初から諦め越しはダメでしょ。
「まぁ、最初からそんなに諦め越しなんだったら、そうしてやろうかと思ったけどさ」
「……世界神様の娘がこんなに怖い性格でいいのー?」
「「愛良(お嬢)だから問題ない」」
……そこは言い切っちゃうのね。
まぁ否定する気もないけどさ。
「はい、時間がもったいないから朝練に行きます」
「うわっ!!?」
時間がないのにおしゃべりを続けていたからねー。
落とし穴みたいにカインの足元に穴を開けて、特訓空間に落としてやりました。
そんでもって、抱っこしていたしぃちゃんの頭を撫でて。
「しぃちゃん、朝の散歩だよ」
「わ~う~!」
嬉しそうに空間に飛び込むしぃちゃん。
尻尾がぶんぶんで可愛いなぁ……。
空間の中からカインの悲鳴が聞こえてきたけど、しぃちゃんが喜んでいるから問題なしです!
「じゃあ私も朝練に行ってきまーす!」
「「いってらー」」
よし、今日も朝練頑張りましょう!
変態なんてもう記憶にないです!
さー特訓だ特訓!
真っ白なだけの特訓空間に入ったら、大きくなったしぃちゃんが首輪のグレイプニールでカインを縛って嬉しそうに走っていました。
全速力じゃないから十分目で追えるから、遊んでいるだけだね。
それでも魔力で身体能力強化していないカインは死に掛けなんだけど。
「しぃちゃーん、おいでー」
「が~う~!」
お名前を呼んだら、さっきから左右に揺れていた尻尾がスピードアップ。
とっても嬉しそうにお目めを輝かせて、私の所まで突進してきました。
もちろんしぃちゃんが私に全速力で突っ込んでくるわけがなく、私の目の前で急停止していますからね。
「がうー」
「いいこいいこー。先に準備運動していたんだねー。楽しかったー?」
「がう!」
カインにすぐに噛み付く子だけど、なんだかんだいっても好きなんだねー。
グレイプニールから解放されたカインさん、立ち上がりませんけどね。
「カイン、ショッピリンの出番が必要ですかー?」
「だ、大丈……夫、だ……【祝福】」
私がせっかくショッピリンを食べさせようとしたのに、息も絶え絶えな様子で回復魔法を唱えたカインさん。
いやいやいやいや。
「たかが大量の擦り傷だけで光の最上級の回復魔法使うとか、お馬鹿さんなんですか?」
「ショッピリンは嫌だからしょうがない」
素晴らしいまでの拒否具合ですねぇ。
うーん……そんなに嫌なら、もうちょっと改良しないとダメなのかなぁ。
「がう?」
「しぃちゃん……」
『もう一回傷だらけにする?』なんて魅力的なお誘いダメよ。
やりたいけど、今日はただでさえ無駄に時間とられているからね。
「今日は我慢だね」
「がう」
「……何を我慢されたのか分かるのが嫌だ」
あら、私としぃちゃんのやり取り分かったの?
君も慣れてきたってことですね。
「はい、とりあえずお散歩に行こうか。グレイプニール」
しぃちゃんの首輪からグレイプニールが伸びて私とカインの腕に巻き付く。
それを確認してから身体強化を全身に施して、と。
「カイン、準備は?」
「できた」
同じように身体強化をして屈伸していたカインも準備万端な様子。
よし、今日も頑張りますか。
「しぃちゃん、30分間お散歩タイムだよ。7割ぐらいの速さでお願いね」
「がう!!」
嬉しそうにう頷くしぃちゃん。
さて……しぃちゃんと楽しいお散歩(別名:一回でも転んだら残りの時間を引きずられる恐怖の訓練)に行ってきます!
愛良「しぃちゃんって、何気にカインに対してツンデレだよねー?」




