61.死亡者までは出さないでください
今日は元生徒会長で司会やってたルーザー先輩視点ー。
きっと二度と彼の視点で話を進めることはない!
◇◇◇◇
「……ルーザー。今年の親睦会、力が入っているな」
僕たちの目の前で風の初期魔法によってズタボロになった木を見て、仲間の一人がつぶやいた。
「そうだね……」
今年の親睦会の準備は、ほとんどカイン君とアイラちゃんが二人だけでやっていたんだけどね。
元生徒会長である僕が手伝ったのは、宝箱に写真を入れることだけ。
あの子たちだけで、これだけの数の罠を用意したのって、相当じゃないか?
「ほんとに驚きですよねー。魔法と魔法陣を組み合わせて罠にするなんて、今まで誰も考えたことありませんでしたし」
「それよりも俺は、この腕輪も含めて親睦会で使われている新しい魔導具に驚きだけどな。これ、全部アイラちゃんが作ったんだよな?」
僕が一緒に行動しているのは、元生徒会のメンバーである2年フィリアと3年ジェイド。
その二人も予想以上のトラップや魔導具に、さっきから目を白黒させている。
「構造を考えたのはアイラちゃんで、魔導具自体を作ったのはアイラちゃんとカイン君だって言ってたよ」
なんというか、あの子たちは天才という言葉だけじゃ収まりきらない才能を持っているよね。
ほんと羨ましい……。
「それより、ルーザー。お前らSクラスの得点は今どのくらいだ?」
ジェイドにそう言われて、この親睦会はポイント制だったのを思い出した
いやもうトラップとか魔導具とか驚くことにいっぱいで、生き残ることを優先していたから、クラス別で勝敗が分かれることをすっかり忘れていたよ。
「えーと。Sクラスは全部で4千弱だね。ジェイドのクラスは?」
別に聞かなくても、完璧Sクラスの優勝で間違いないだろうけど。
1年生と2年生も頑張ったみたいだよね。
「お、俺のクラスよりフィリアのクラスは?」
「Aクラスですか?……全然ですね。千も行ってないです。打倒Sクラスと言って最初に突っ走って行った馬鹿が多かったですし。ジェイド先輩。Eクラスはどうなんですか?」
「……92です。……グズ。どうせ、落ちこぼれクラスだよ。俺たちはどうせ落ちこぼれなんだよ」
自虐的になっていくジェイド。
めんどくさいんだよね、こいつがこうなると。
「フィリア、ジェイドは放っておいて先に行こうか。他に生き残った子達も合流したいし」
「そうですね。どうせSクラスが優勝なんでしょうし、それならいっそ無傷で親睦会を終れるようにしたいです」
「よし!なら可愛い後輩たちを回収しに行こうぜ!」
……さっきまで自虐的になっていたのは誰なんだってくらい、早い復活。
落ち込んでいるよりかはマシだけどさ。
さっさと行くとしよう。
そう思って歩き出した瞬間。
『……せぇぇぇぇえええんぱぁぁぁぁああいぃぃいいいいい』
暗い森の中で何回も響くような声が聞こえた。
薄暗い森の中を幾度も木霊する不気味な声。
「「……え?」」
思わず、この中で唯一『先輩』と呼ぶフィリアを見る僕とジェイド。
「今の声、フィリアじゃないよね?」
「ち、違いますよぉ!?こんな怖いことするわけないじゃないですかぁっ!」
フィリアは涙目になっているし、本当に違うみたい。
え、じゃあ誰?
というか、これは人間が出している声なの?
……場所も場所だから、すっごく怖いんですけど。
「きっとアレだぜ。昔学園の森で事故にあって亡くなった女子生徒の幽霊が……」
「ジェイド先輩は黙っていてください!!」
「お前、堂々と後輩に嘘を教えるなよな!!」
「そうですよねぇ。というか、この森で死亡者が出たなんて話、聞いたことないし」
「「「え?」」」
あれ?
今なんか一人余分に声が聞こえたんですけど。
思わず声が聞こえた後ろを一斉に振り返る。
「どもー!先輩方、こんにちはー!」
「わうわーうー!」
そこにいたのは新副会長のアイラちゃんとその使い魔でした。
さっきまでの不気味な雰囲気を吹き飛ばしちゃうくらい、元気のいい挨拶だ。
というか、この子いつからいたの!?
「さっきの変な声、もしかしてアイラちゃんですか?」
「ほへ?」
涙目のままのフィリアの問いかけに、不思議そうに首を傾げるアイラちゃん。
あれ、この子じゃなかったの?
「そんなに変でした?拡声魔法に反響魔法を組み込んで、声を変えれるか試してみたんですけど……やっぱり上手くいかないですねぇ」
は?
一つの魔法に別の魔法を組み込むって、相当難易度が高いんじゃ……。
「じゃ、じゃあ驚かせようとか考えていたわけじゃないんですなね!?そうですよね!?」
さっきの声に相当怖がっていたフィリアが念押しするようにアイラちゃんに尋ねると、彼女はにっこりと笑顔を浮かべた。
「ばっちし考えていました!」
うん、そうだろうと思ったよ。
ちょっとだけしか関わっていないけど、この子、カイン君と一緒に担任を弄っていたのを何回か見たからね。
絶対に悪戯好きだ。
そういえば、カイン君といえば……。
「てか、アイラちゃん?一人なの?カインはどうしたんだ?」
ジェイドも同じことに思い至った様子で、アイラちゃんの背に合わせるように少し身をかがめて顔を覗き込んだ。
そうなんだよね。
生徒会の仕事で少しだけど一緒にいたから分かるけど、この子の隣には常にカイン君がいたんだよね。
「カインですか?えーと、カインは……ゴミ捨て……?に行っています?しぃちゃん、それでいいのかな?」
「わう?」
「いやいや、なんで自分でも不思議そうなんだよ?」
アイラちゃんの珍解答に、苦笑を浮かべてその頭を軽くポンポンと叩くジェイド。
「んー……まぁ、深く触れないほうが身のためだということ……でいいかなぁ?」
なんか、アイラちゃんが珍しく疲れた表情を見せているんだけど。
アイラちゃんを疲れさすって、いったい何があったんだ?
その疲れを吹き飛ばすように頭を軽く左右に振って、もう一度笑顔を作りなおしたアイラちゃん。
「先輩たちがどのくらい宝箱を見つけましたー?」
「えっと、私たちは全部で200くらいですよ。みんなクラスが違うので山分けしていますけど」
「200……じゃあ違うか」
何が違うんだろう?
不思議に思っていると、アイラちゃんはにっこり笑った。
「それじゃあ、残り50分、頑張って生き残ってくださいね」
その笑顔と言葉に、思わず僕らの顔が引きつる。
「罠があるって最初に行ってくれていたら生き残っている人、結構いたんじゃ……?」
「1年生のレベルならギリギリ避けれるようにしているので、それに引っかかっちゃった人達は単なる練習不足です。……ほんとはもっとレベルあげたかったし」
「「「いやいやいやいや。それ絶対に死人でるから」」」
アイラちゃんが最後にぽつりとつぶやいた言葉に、思わず全力で否定しちゃったじゃないか。
何さらっと怖い事言っちゃってるんだ、この子。
保護者どこ、保護者は!
「じゃあ、次のお楽しみにしておきます」
「次もやるの!?」
「……楽しみにしておいてくださいね!先輩たちが卒業するまでにやるので!!」
やめて!!
そう叫んで止めたかったのに、一瞬で転移してどこかに消えたアイラちゃん。
清々しいまでの、悪意のない笑顔だった。
「……俺たち、無事に卒業できるのか?」
「先輩たちは残り1年弱なんですから、いいじゃないですか……。私、残り2年弱ありますもん」
「……いろいろ、頑張ろうね……」
僕たちはため息をつきながら、今後の無事を祈るしかなかった。




