57.何事も諦めが肝心だ
◇◇◇◇
……なんでこうなった。
「カイン君、こっちに行きましょう!」
「なんでよ?行くならこっちでしょ?カイン!」
「……別に、あなたのことはどうでもよろしいですけど、わたくしとしてはリョウガさんと合流できる道がよろしいですわ」
「リョウガ君ならきっと無事ですよ。それよりもカイン君、早く行きましょう?」
「ちょっとリノ!カインから腕を放しなさいよ!」
「まったく……あなた方、さっさと私をリョウガさんのもとへ連れて行きなさい」
俺の腕に抱きついて離れない土娘と、反対の腕を掴んで離さない雷娘。
そんな二人から少し距離を置いたまま、苛立たしそうに鼻を鳴らす王女。
……もう一度言う。
なんでこうなった。
単純に俺は愛良にかけられた魔力無効化の魔法が解けたから、G地獄から脱出しようとしただけだ。
それなのに、その時にになってこいつらも目を覚ましたんだ。
そのままあそこに置いておくのも目覚めが悪いっていう理由だけで一緒に連れだしたが、それからなぜかこんな様子だ。
勘弁してくれ。
俺は早く愛良の元に戻らないと不安なんだ。
主にあいつが何かしでかしそうで!
「俺は愛良と合流する。お前たちは好きにしろ」
だから離せ。
そういう意味を込めて腕を引き抜こうとしたが、なぜかさらにきつく抱きついてくる土娘と雷娘。
「アイラって、シドウさんのことですよね?彼女なら一人でも問題ないんじゃないですか?」
首を傾げながら上目遣いで言ってくる土娘。
確かに愛良なら一人でも全く問題はないが、別の問題が生じるんだ。
さっさと離せ。
「そうよ。あの女、強いじゃない。性格はともかく。あんな娘放っておきなさいよ」
ただでさえ吊り上っている目を、さらに吊り上げる雷娘。
とりあえず、一言。
性格云々をお前がとやかく言うな。
「そうですわね。彼女、性格に問題ありですけど、腕は確かですし。別に彼女は探さなくて問題ないんじゃありません?」
自分の金髪の巻き毛を指先で巻きながら、どうでもよさそうに口を開く王女。
よし、お前が一番偉そうに言うな。
お前が一番性格破綻してんだよ。
お前らに比べたら愛良の行動には一応筋が通っているんだ。
……俺やヘタレにはあまり適用されていないだけで。
なんか……自分で考えてて空しくなってきた。
「……とりあえず俺はもう行く。いいから離せ」
両腕にしがみついて離れない土と雷の娘をどうにかしない限り、行くにいけない。
こいつらが腕を離さないおかげで、カップめんを拾うことが出来なかったし。
愛良が『インスタントばっかり食べてると体に悪いんだよ』って言って、本当に疲れて料理する気力がない時にしか出してくれないし。
主に、俺が台所に入った後のことだけど。
俺が台所に入ろうとしただけで、全力で止めに来るって何なんだ。
俺の料理、そんなにまずいのか?
ちょっと見た目が変なだけだろ。
なんであんなに涙目になるんだ。
愛良にばかり料理させるのは悪いと思って、たまには作ろうと思ったのに失礼じゃないか?
……まぁ涙目になってすがりついてくる愛良を見るのは、なかなか楽しいけどな。
普段ふてぶてしい愛良の涙目って貴重だし。
あれが見たくて、わざわざ台所に入るときもあるし。
……話が逸れたな。
その普段はふてぶてしい愛良を、早く見つけないとな。
……というか、この状況を愛良に見られたらマズイか?
ヘタレ野郎と同類に思われる。
それだけは絶対に嫌だ。
「……【飛翔】」
転移まで見せているんだから、同レベルの飛翔をしても問題ないよな。
いきなり宙に浮かべば、さすがのこいつらも俺の腕から手を離したし。
「あ、カイン君!?」
「待ちなさいよカイン!!
「ちょっと、案内してから行きなさい!」
下でわーわー喚く三人。
……知るか。
何で俺がお前らの面倒をみなきゃいけないんだよ。
自分のことは自分でしろ。
さて……愛良はどこに行った?
そう思いながら、眼下に見える森を見渡した直後、後の方角から強い光と轟音が響いた。
……なんだ?
愛良か?
愛良が何かしたのか!?
バシンッ!
……痛い。
急に頭に何か衝撃が走ったぞ。
「はい、超失礼なこと何考えているんでしょーうか?」
頭を押さえながら顔を上げると、にこにこ笑ってハリセンを掌で鳴らしている愛良が目の前にいました。
「あ、愛良……?」
「ん?」
さっき考えていたこと、バレてるのか?
……無理だ。
このキレ気味なニコニコ愛良には聞けない。
「カイン、意外とあそこから出てくるのに時間かかったねー?」
「……」
お前とあの3人のせいだ!
ああ……そう大声で言えたら楽なんだけどな……。
「それより、この光はなんだ?それにさっきの轟音は?」
「さぁ?私も知らないよ?ここにいたのはヘタレと変態だったと思うし……とりあえずは、誰も近づけないように結界張ったから見学……いや、様子を見に行こうか」
「今本音がさらっと出ただろ」
「うん!」
それが何?
そう言わんばかりに笑う愛良。
ああ……お前にこんなこと言っても意味ない奴だったな。
「……もういい。行くぞ」
「はーい。何が起こってるのか楽しみだね~」
よし、そんなに無邪気に楽しみにするのは辞めようか。
俺的には絶対にめんどくさいことでしかないという予感しかないから、楽しみでもなんでもないんだぞ?
「あー……よかったな」
「ねー!」
……愛良は楽しそうだし、もうどうでもいいか。




