53.恥ずかしいんです
「……それで、いったい何なんだ?」
そっけないカインの態度。
さっきのショッピリンを食べさせて復活してから、ずっとこんな調子です。
やっぱり怒っているよね?
「かーいーんー?ごめんねー?けどまたやると思うなぁ」
「やるな!」
いや、そんなに全力で言われてもなぁ。
傷だらけになるのが多いでしょ、君。
オカマスターに聞いたけど、あんまり回復魔法を乱用し過ぎると人間が持つ免疫力が低下するって言ってたもん。
私は人間じゃないからいいけど、君は一応まだ人間……になるの?
不老不死だったら、免疫力とか関係ない?
……よく分からないなぁ。
でもやっぱり不老不死なのに病気がちになったら可哀相だから、なるべく回復魔法の乱用は避けるべきだよね。
「じゃあカイン。うっかりミスしないように気を付けてね?」
「うっ……努力する」
「……」
目を逸らして、小さく口を開くカイン。
……努力しないと、うっかりミスするんだ。
しかも、努力してもすんごく不安そう。
カインのうっかりミスも、すぐには治らなさそうだよねぇ……。
「まぁいいや。そんなことより、これ見てこれ」
「そんなこと……」
……あれ?
今度はどうしてそんなにショックを受けたのさ?
「カイン、どったの?」
「いや……気にしないでくれ。で、どれだ?」
「これ!この辺りのトラップしかけたの、カインだよね?龍雅ったら、全部避けてるの!しかも全然トラップって気づかずに!」
「は?そんなことできるわけ……」
私の言葉が信じられないという様子でモニターを見たカインは、そのまま唖然と固まりました。
はい。
実際に水柱が上がってビショビショになる予定のトラップ踏んだ龍雅くんが、踏んだと同時に小石に躓いて左によろめいた所ですね。
結果、龍雅がさっきまでいた場所に水柱が上がっただけで、当の本人無傷。
しかも、水柱が上がったのは一瞬だけだったから、全然気づいている様子なし。
『あれ?雨が降ってたかなぁ?ま、いっか。愛良探してあの写真のことを問い詰めないといけないし!!』
そう意気込んだヘタレは、なんでさっきまで普通に乾いた地面がびしょびしょに濡れているのかなんて全く考えずに歩き出しました。
君、今日の天気くらいは把握しようね?
「ね?本当でしょ?」
「……あいつ、どこまで鈍いんだ?」
「あの子はどこまでも鈍いよ?どうする?このまま放置してお……く?」
んん?
また宝箱見つけたね、あの子。
先生たち、宝箱近くに隠し過ぎー。
隠すの途中でめんどくさくなったんでしょ。
絶対にあの周辺担当したの、ソル先生だ。
『また宝箱みっけー!……あぁああっ!?この宝箱に入ってたの愛良の写真だ!』
「……へ?」
ちょっと待って?
あの子が手に入れた宝箱の中にある写真、なんで私?
私、言っておくけど自分の写真なんか入れてないからね?
入れた所で誰が喜ぶってのさ……。
うっわ、何これ。
説明するときに写真は全部イケメン&美女って言ったのに、自分の写真が入ってるって自意識過剰じゃん。
うっそぉ……。
「……そういえば。言っていなかったんだけどな」
絶句している私の隣で、今思い出したという様子で口を開いたカイン。
……なに?
なんなの?
急に嫌な予感がビシビシしてきました。
「あの宝箱に写真を入れている時にな?お前が席を外している時にクソ神が来たんだ」
お父さんが……?
何でわざわざ人間界に降りてきたの。
お仕事ちゃんとしなよねー。
「それで『僕も手伝う!愛良ちゃんのために!!』とか言って何箱か勝手に写真入れたりしていたな。お前が戻ってくる直前に『愛良ちゃんには内緒ね!』とか言って消えたけど。クソ神の存在自体どうでもよかったからすっかり忘れていた」
カインさんや……そこは忘れずに教えといてよ。
そしたらちゃんと確認したのに。
『あれー?こっちにも宝箱がある』
ちょっと、龍雅くん。
嫌な予感がしてきたから、それ以上宝箱を見つけるのはやめようか。
君、さっきから果てしなく悪運がよろしいので嫌な予感しかしない。
『愛良の巫女さん姿!?そういえば、この写真って愛良が中学生の時のだよね?お正月の巫女さんのアルバイトのやつ。愛良の巫女さん姿の写真欲しかったからようやく撮れたのに、愛良がデータごと握りつぶしちゃったんだよねー。ラッキー!』
なんか、すっごく嬉しそうに写真をポケットにしまう龍雅。
なんで!?
あの写真、龍雅が学校にバイトしてるのばらすって言うからしょうがなく撮ったやつだけどなんであるの!?
ちゃんと握りつぶした後、証拠隠滅でメモリもちゃんと燃やしたのに!
第一、中学生だったからバイトしていたわけじゃないし!
神社の巫女さんバイトが集まらなくて、神主さんが大変だーって騒いでいたから手伝っただけだもん!
全部無償だったんだから!
「……もうやだ。泣きそう」
なんなのこの羞恥プレイは。
本気でもうやだ。
恥ずかしすぎて泣けてきた。
「ギブ!ミー!!癒しー!!もといしぃちゃ―――ん!!!」
「がう?」
半泣きで叫んだら、遠くまでお散歩に行っていたしぃちゃんが一瞬で戻ってきてくれました。
本当にいい子!
「しぃちゃん!ヘルプ!!モフモフプリーズ!!」
「がう」
思わず叫んだら、あっさり頷いて擦り寄ってきてくれるしぃちゃん。
そのままモフモフな体に抱きつかせてくれました。
はぅー……もふもふ癒されるぅ……。
「コス王、生きているか?」
なんかカインがしぃちゃんとお散歩に(強制参加で)行っていたコス王の隣に座って、指先で突いている。
さっきのカイン同様、グレイプニールに縛られたままボロボロです。
「……俺様もヘルプ……」
「……愛良、いい加減離してやれ」
「はーい。コス王、ごめんねー?ついでに龍雅から写真回収するの手伝って」
グレイプニールからすぐさま解放して、特製プリンのショッピリンを口に放り込んで、と。
「げふっ……」
一瞬コス王の目から生気が抜け落ちたけど、カイン同様すぐに復活。
うん、効果はやっぱりばっちりですね!
「お願い!あんなの龍雅が持っているなんて絶対やだ!!あのクソ神パパは親睦会が終わった後に殺りにいくけど、今はこっちのが大事なの!手伝ってください!!」
「お、お嬢!!わ、分かった、から!!」
「いちいち、胸倉、を、掴むな!振り回すな!!」
「あ、ごめん。つい……。それよりも!お願いだから龍雅からあの写真奪うの手伝って!」
いつの間にか掴んでいた胸倉を放して、再度お願い。
もうやだやだ。
さっきから恥ずかしすぎて泣きそうなんだけど。
「……俺様、話が全く読めないんだけど、いったいお嬢はどうしたんだ?」
「……原因はあれだ」
え、カインくん?
君、何指さしてんの?
『わぁ!愛良が小学生の入学式の写真だ!しかもランドセル背負って涙目で『抱っこして』アピールしてる!!可愛いー』
ゴンッ!!!
恥ずかしさのあまり、モニターの一つに頭を思いっきし打ち付けちゃった……。
うん、私無傷だけどモニター完全に潰れたね。
だけどね、今の心境的には私が潰れたいんです。
クソ神パパ、マジで潰すから覚悟してください。
ヘタレ勇者、ストーカー勇者への経験値を蓄積中。




