51.俺様達、風になります
お嬢がいったい何をしているのか聞くのは怖いから念話はいったん中止するか。
さ~てさてさて。
Gと仲良く落ちたビッチ達はどうなったかなー?
「アースウォール!!」
お、あの土娘やるなぁ。
自分たちの周りに土の壁を作ってGが入ってこれないようにするとは。
パニックってるビッチとツンデレより全然冷静だな。
……それなのに。
「きゃあ!ちょっと!?何匹か入ってきていますわ!?きちんと防ぎなさい!」
「あんたねぇ!リノだって精一杯やっているんだから、それぐらい自分でやりなさいよ!」
「どうして王女であるわたくしが!それよりもリノ!あなたの魔法でわたくしを上にやりなさい!」
ぎゃーぎゃー喚くしかしない王女。
……お嬢、こいつの再教育諦めたほうがよくないか?
こいつ、根っこから腐ってるから無理だって。
これに時間かけるだけ無駄だって。
「……ん?」
呆れながら覗いていたら、なんか王女を押さえていたツンデレが足元を見て首を傾げているぞ?
奴の足元……というか、穴の中にいるのはビッチ達とG。
そして、大量の宝箱。
「これって……宝箱!?」
「えっ!?なんでこんなところに……ていうか、いっぱいあります!?」
「なんですって!?」
えー……。
さっきまでGにキャーキャー言ってたの誰だよってぐらいな勢いで、ゴキブリ蹴散らしながら宝箱を回収しているぞ、あの三人……。
うわ……宝箱に這いずり回っているGを素手で普通に払い落としたぞ、あの土娘。
うげ……あのツンデレ、目当ての人物の写真じゃないからって宝箱をG目がけて落とすとか……。
おわ……Gを踏みつぶしながら高笑いして宝箱を回収してんぞ、ビッチ王女。
……こっえぇ。
俺様、ちょびっと人間って怖いと思っちまったじゃねぇか。
(再教育にはムチとアメの使い分けが大事だと思うの)
頭の中に響く、機嫌が良さそうな高い声。
……お嬢。
急に念話を再開しないでくれな?
おにーさん、びびっちまうから。
(さいですか……。あ、カインは生きてっか?)
(え?カイン?それだぁれ?)
シリウスにやられたであろう、俺様の主人のことを聞いただけ。
なのに、お嬢の声は幼さを前面に出すような響き。
いやいや、お嬢。
ぶりっ子しても、おにーさんは誤魔化されませんからねー?
(お嬢?)
(なぁに?)
ちょっと真面目に聞こうかと思ったのに、相変わらずぶりっ子したままのお嬢。
そして同時に感じる殺気。
(……俺様の勘違いでした。だから念話越しに殺気を送んないでください)
なんだよこれ。
相手の姿も見えない念話なのに、めっちゃくちゃ殺気を感じましたよ!?
こっわ!
お嬢こっわ!
さすがあいつらの関係者!
意味不明で怖い!
(お嬢、今どこにいんの?)
この場にいないのは分かるけど、確実に状況を見てはいるよな。
いったいどこにいるんだ?
(空間の狭間だよ。ヘタレ勇者がウザかったし、しぃちゃんが大きくなるのに学園じゃ問題あるからね)
あっさり答えてくれたお嬢。
……なんでフェンリルを元の姿に戻す必要があったのかは突っ込むまい。
(空間の狭間から外の様子って見れるのか?)
(全自動小型カメラとモニターの魔導具作ったから問題なく見れています)
なんか、人間が一つの新しい魔導具を作るのに、最低一年単位はかかるって聞いたことあるけどさぁ……。
なんでお嬢はそんな簡単に魔導具をポンポン作れるんだ?
いや、神溺愛の娘だからか?
いろんな方向に多才っぽいよな。
(俺様もそっち行っていい?ぶっちゃけ、ゴキブリ蹴散らしながら地面に這いつくばって写真を回収しているビッチ共を見てたってなんの面白味ないし)
Gと戯れながら必死な形相で回収している写真は、ばっちし撮ってるけどな。
今後のためにも、お嬢には献上する必要あるし!
(いいよ~)
楽しそうなお嬢の言葉を合図に俺様の目の前に開かれる小さな空間のひずみ。
ま、コウモリ姿の俺様なら余裕で入れるけどな。
てなわけで、空間の狭間へレッツゴー!
……この時、俺様は重大なことを忘れていた。
そう、ちょっと前のことを俺様はすっかり忘れていたのだ!
なんか後ろで写真の奪い合いをしたペナルティで電撃をくらって気絶したビッチたちが、ゴキブリの山に埋もれて行っていたがそんなことを気にしている場合ではなかったのだ!
「ただーい……」
空間の狭間に入るなり、俺様は元の姿に戻って絶句した。
お嬢:たくさんのモニターの前に座ってプリンを食べてる。
シリウス:お嬢のすぐ近くでやけに赤くて巨大なプリンらしき物体を食べている。
プリンらしき物体:所々に服の切れ端とか、手とか足とか銀髪とかがプリンに埋まっているように見える。
「……」
俺様は一度その光景から目をそらし、頭の中で『俺様は何も見なかった』と一万回くらい唱えてから視線を元に戻した。
ちなみに、その間たったの2秒だ。
俺様すごくね?
だってな、俺様の本能が訴えていたんだ。
そこに突っ込んだ瞬間、俺も同じ運命を辿ると……!
よし、暗示終了!
「お嬢、たっだいまー!」
「おっかえりー」
「俺様にもプリンくれー!」
「いいよー。私が食べてる普通のプリンとしぃちゃんが食べている赤いプリンとどっちがいーい?」
「お嬢と同じプリンでお願いします!」
「がう?」
いやいやお犬様。
マジで『食べる?』みたいな感じで、鼻でその赤プリンをこっちに押さないでくれ。
というか、プリンからはみ出ている手がさっきからピクピク動いているぞ?
お嬢、もうどうでもよさそうだし、そろそろ引っ張りだしとくか。
「おーい、生きてるかー?」
「げほっ、げほっ……もっと早く助けてくれ……窒息死するとこだった……」
全身プリンまみれのカインが涙目で咳き込みながら文句を言う。
せっかく助けてやったってのに。
というか……。
「あれ?俺様言っていなかったか?俺様と契約した時点で、お前、不老不死だぞ?」
「「……は?」」
んん?
カインとモニターを見ていたお嬢が同時に振り返った。
「俺様、死を司る死神の王だし一応冥界神でもあるんだよな。だから、俺様と契約した影響は不老不死ってなわけだ。知らないで俺様と契約したのか?」
まぁ、あんときは親馬鹿神を回避するのに必死って感じだったしなぁ。
無理もないか?
「……知りませんでした」
わーお。
こいつ、めっちゃ汗かいているぞ。
顔色は青ざめているし。
……というか、さっきから背中がぞくりとするのだけども。
「……ねぇ、コス王?」
原因は言わなくても分かりますよねー。
「はい!なんですか!?」
「私って一応神の娘って肩書きだけどさ、私の寿命ってどのくらいなの?」
「馬鹿親神の影響でお嬢も不老不死です!つまり、二人の契約は永遠です!」
はい、自分の身が可愛いので俺様正直に答えましたー。
神族も、歳をとると力が弱まりはするけど死にはしないからな。
後継選んだ隠居神たちは、今も天界の片隅でほのぼの隠居生活をしているぞ。
「……カイン?」
「はい……」
うっわ。
お嬢の声、逆に怖くなるぐらい優しい。
カインはカインで自発的にお嬢の前で正座してるし。
「君、どこまでうっかりしているの?」
「……すみません」
汗びっしょりなカインの謝罪に、ため息をついたお嬢。
頭が痛そうにこめかみ部分を揉んでいるなぁ。
「行動に移す前に先に考えるっていう学習能力は君の中に備わっていないの?備わっていないんだね?君のうっかりミスの場合、影響がかなりデカいってことをいい加減自覚しようか。私は仕方ないとしても、君も人間の枠から外れちゃったんだよ?うっかりミスで。適当にその場考えだけでコス王と強引に契約したのは君だからね?自業自得なんだよ?自業自得で人外になったんだよ?分かる?君、人外になっちゃったわけだからね?じ・ん・が・い。マスターにどう報告するわけさ。というか、ある意味ここまで人外になっちゃったりしたら、ずっとこの国、というかこの世界にいることすら無理じゃん。どうするのさ。本当に大事な局面でうっかりミスをするんだから」
「はい……」
はい、お嬢からのお説教に何も言い返せないカイン。
うん、お前もヘタレ属性もってるよな。
絶対に持っているよな!
「カイン。とりあえず、一度反省してきなさい」
お嬢が静かに言うなり、お犬様の首輪のグレイプニール(※神器:絶対捕縛)が伸びてカインを縛り上げた。
これは、もしや……。
「しぃちゃん。カインと一緒にお散歩に行っておいで。全速力で」
「……マジか」
「いやいやいやいや。お嬢、さすがにそれはないだろ」
まだまだ生まれたばかりの赤ん坊とはいえ、お犬様はフェンリルだぞ?
全速力で走ったら音速ぐらいのスピードは出るぞ?
な・の・に!
「がう!」
このお犬様はめちゃくちゃ嬉しそうに尻尾を振って走り出した。
もちろん首輪の紐を持たされている(縛り上げられている)カインを引きずって。
もう奴の悲鳴すら聞こえないくらい一瞬で姿が見えなくなったぞ?
「お嬢……そんなに怒っているのか?」
「え?別に?」
……あれ?
なんかお嬢すでに興味が失せた様子でモニター見てる。
なんというか、怒りも何もない感じ?
「お嬢、怒っていないのか?」
「怒るも何もないからねぇ。私の魔武器、パールの能力お忘れ?」
魔武器の能力?
たしか形状変化と増殖と……。
「……設定能力か」
「そゆことー。だから、ぶっちゃけいつでも契約を解除できるし、カインも普通の人間に戻すことも簡単なわけ」
あっさりとそう言い放ったお嬢。
まぁ、設定能力って神族基本な能力だしなぁ。
俺様は冥界神だから持ってないけど、世界神の関係者は全員持っていたはずだ。
なんというか、その能力ずるいよなぁ。
「じゃあ何でわざわざお仕置きする必要があるんだ?その能力で『なかったこと』にしたらいい話だろ?」
もしかして、お嬢ってばなんだかんだ言いながらカインのことが好きなのか?
内心そんなことを考えながらニヤニヤ笑っていると、当のお嬢はスプーンを咥えたまま不思議そうに首を傾げた。
「そんなことしたら、カインのうっかり癖が治らないでしょ?いちいち設定能力でそんな癖を治すことも面倒だし、なにより私がつまらない」
「……」
はい、お嬢にラブコメ的なものを求めた俺様が馬鹿でしたー。
とりあえずカイン乙!
お前にもきっと明るい未来が待っている気がしないこともない!
「なぁなぁ。じゃあビッチ達のあの性格を設定能力で直さないのも、つまらないから?」
「あれは単純に暇つぶし。それ以上でもそれ以下でもないね。第一、人の性格をそんな能力で変える気なんてさらさらないし。そんな能力使って自分に都合がいいように世界を変えたって、つまらないでしょ?人生イレギュラーがあるから面白いんだし」
本気でどうでもよさそうな表情のお嬢。
うん、お嬢はなんだかんだ言ってもやっぱり神の娘だな。
普通ならそんな面白そうな能力を手に入れたら使いまくるのに。
無自覚でもやっぱりクソ神の影響は受けているってことか。
さすが親馬鹿でも天界ナンバー2の娘!
本当に親が残念でしょうがないけど!
……なーんてことを考えていたら、いつの間にか俺様にも、すっごく遠くから伸びたグレイプニールが絡みついていました。
「……えーと。お嬢?これっていったい何かなー?」
ヤバいヤバいヤバいヤバい!
ちょっと今調子に乗り過ぎた!
ニッコリ笑ったお嬢が怖い!!
「今、なんかすっごく不愉快なこと考えたよね?」
「考えてないです!俺様なんにも考えていないです!!」
頼むからカインの二の舞は勘弁だ!
な・の・に。
お嬢は輝かんばかりにニパーと笑って伸びている紐の先を指さした。
「しぃちゃんの所までレッツ☆ゴー☆!」
「いぎゃぁぁぁあああああああ!!!!」
そうして、俺様はカインとともに風になりました、チャンチャン。
コス王は、基本面倒見のいいおにーさん。
だけどもお馬鹿であるがゆえに、お仕置き対象になること多々あり。




